第7話 ハッピーバースデー
「よし! 出来た!」
お昼過ぎから兄ちゃんの誕生日の準備を始めた。
小学生迄はお手伝いさんが毎日来ていた。
お母さんに毎日は勿体無いからと言い、今お手伝いさんは掃除等で週2減らして貰った。
なのでそれ以外の家事、自分の部屋の掃除は自ら行い、食事は基本的に私と兄ちゃんが交代で作ったりしている。
まあ、宅配も少々……そこそこ使っているけど。
「とりあえず、グラタンに唐揚げにポテサラにハンバーグにケーキ……こんな物かなぁ?」
誕生日にしては少し寂しい気がするけど、手作りだとこのくらいで限界。
とりあえず飾り付けで誤魔化した。
他に何か注文しても良いけど二人だから食べきれないし、どうせなら手作りだけの方がいいかなって思いこの辺で料理の準備を終えた。
「さて……じゃあ着替えるか」
私はキッチンから部屋に戻るとハンガーにかかっている真新しい制服に着替える。
そして着替えながら兄ちゃんのこのお願いを再度考えて見た。
「うーーん、ひょっとしたら……兄ちゃんって……制服フェチなのかなぁ?」
だとすると兄ちゃんの高校生活はウハウハだな~~なんて思い少し笑ってしまう。
それにしても制服姿で祝って欲しいなんて言われてからずっと考えたけど、全く兄ちゃんの意図が分からない……。
「まあ、でも……明日には分かるからいいか」
そう、兄ちゃんの考えている事は大体小説で分かる。
そしてそう思う度に罪悪感を感じる。
これが恋人同士なら一方の気持ちが分かるってかなり狡いと思う。
でも私達は兄妹だから……いいよね?
そう自分に言い聞かせながら制服に着替え、鏡の前で全身をチェックした。
「うんいい感じ~~」
身長と胸は多分まだ成長すると思われるので勘弁して欲しいが、それ以外の容姿については多少の自信は持っている。
自己評価では上の下のやや上くらいの評価だ。
まだ数えられるくらいにしか着ていない、真新しい制服に身を包み、私はそのままリビングに戻る。
そして制服が汚れないように上からエプロンを着用し、料理を食卓に並べつつ兄ちゃんが帰って来るのを待った。
ちなみに兄ちゃんは買い物に出かけている。
私が作っている最中の料理とかが気になって見たくなるからだそうだ。
自分からサプライズを演出する兄ちゃんって、ちょっと可愛いかもって思ってしまう。
そのまま20分程待っていると、約束の7時少し前に玄関から「ただいま~~」と声がした。
私はエプロンを外して食卓の椅子から立ち上がると、兄ちゃんをリビングにて迎える。
リビングの戸が開き兄ちゃんが入ってくると同時に私は兄ちゃんに言った。
「お誕生日おめでとう~~~」
さすがにクラッカーまでは用意しなかったが誠意一杯の笑顔で兄ちゃんにおめでとうの言葉を贈った。
「………………」
兄ちゃんは私を見て無言で立ち尽くしていた……私の制服姿を凝視しながら。
「あ、えっと……似合う?」
私はそんな兄ちゃんの様子に照れ臭くなるが、見たいと言ってくれた制服をきっちり見て貰うべくクルリとその場で回って兄ちゃんに誕生日祝いを見せつけた。
「あ、ああ……似合う、凄く……いい」
そんな私の姿を見て兄ちゃんはそう言ってくれた。
えへへへへ……やっぱり照れるな。
「兄ちゃん私の手作り料理は出来てるよ、冷めちゃうから食べよう」
私は兄ちゃんの手を握ると食卓に誘う。
「あ、そうだな」
そう言って二人で食卓に着く。
「おお、すげえ、旨そう」
兄ちゃんは私の手料理を見て物凄く喜んでくれた。
「いつも食べてるでしょ?」
「いやいつも旨いよ」
「……もう、いいから早く座って」
照れ臭さ全開の私は何でも無い振りをして兄ちゃんにそう言った。
勿論未成年なのでお酒は厳禁。
お父さんが好きだったせいか、家にはワインセラーとかあるけど勿論手は付けていない。
いつか3人で飲もうって思っているけど。
私達はいつものように料理を食べ始める。
もう何回もやっている兄ちゃんとの誕生日祝い、二人きりの誕生日祝いもここ数年続いている。
別に母親に愛されていない訳ではない。
私達がお母さんにとにかく仕事優先でいいからと言っているからだ。
「そう言えば兄ちゃん何買って来たの?」
そう言うと兄ちゃんは大きくて重そうな袋を私に渡してくる。
「うーーんと今日のお返し」
「え? 何でよ?」
「いや……これを受け取って貰うのも俺のプレゼントかなって」
「なんで私が貰うのが兄ちゃんのプレゼントになるの?」
意味不明な兄ちゃんの言葉、よくわからないけどとりあえずその重い袋を開けた。
「え?」
………これって
「ああ、ヘルメットだよ……所得1年だから二人のり解禁なんだ。だからさ、今度それ被って俺の後ろに乗ってくれると嬉しいかなって」
「そうか兄ちゃん誕生日ですぐに免許とったもんね、もう1年経つのか~~」
「ああ、今度二人で何処かに行きたいな~~って」
「行く! 行きたい! 兄ちゃんとツーリング行きたい!」
「とりあえず高校入学して落ち着いたら行こう」
「うん!」
兄ちゃんの誕生日に兄ちゃんから贈り物を貰うってなんか変な気持ちだけど……兄ちゃんの後ろに乗れる権利を貰った気がして凄く嬉しかった。
私達はツーリング先という新たな題材に和気藹々と話を弾ませながら、用意した全てのご飯を平らげる、
そして私はコーヒーを入れ、冷蔵庫に閉まっていたケーキを食卓に並べた。
そこに17本の蝋燭を立てると、精一杯心を込めて持ち前の英語力を発揮し、バースデソングを披露した。
「おめでとう兄ちゃん!」
「ありがとう……はる」
兄ちゃんいつも以上に優しく微笑み私にそう言ってくれた。
今年も二人きりの誕生日祝い、この二人きりの誕生日会がずっと続くと良いなって思ってしまうくらい楽しい1日になった。
お母さんには内緒ね。
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