第18話 お兄ちゃん私……可愛い?


「よし、はる準備出来たか~~?」


「うん! バッチリだよお兄ちゃん!」


「お兄ちゃん……えっと、うん……じゃあとりあえずこれ着けて」

 兄ちゃんは小さなアンテナの付いた手の平サイズの端末とヘッドフォンを私に渡す。


「こないだ買った無線機?」


「そう、ヘッドセットを着けてからヘルメットを被って、そうそう、そうしたら声でスイッチ入るから、あーー聞こえるか~~」



「ぎゃあああああああああ!」



「あ、ごめん、音量これな」

 兄ちゃんが無線機のボリュームを絞った、最初からやっといてよお。


「ううう、耳がキーーーンって」


「ごめんごめん、さあ、いくぞ~~」


 今日はあれから約一週間の後の土曜日、いよいよ正式に兄ちゃんとツーリングに行くことになった。

 今日はどこに連れていってくれるのか、敢えて聞かないで行く事に、楽しみ~~。


 まあそもそも何処へ行くかは基本当日の天気とかで決めるらしく、行き先は小説にも書いていない。

 

 兄ちゃんは私が後ろにしがみつくのを確認すると、軽やかにバイクを走らせた。


 兄ちゃんの小説を、私はあれから色々調べた。


 私はそれをバイクに乗りながら思い出していた。



###


 まず最初に分かった事、兄ちゃんの小説の人気を出させて、あわよくば書籍やアニメ化にと思ったんだけど……、調べた結果、結論から言うと、ほとんど不可能に近いとの事。

 特に兄ちゃんの小説のジャンルが恋愛物なので、ちょっと人気が出たくらいじゃ箸にも棒にもかからない、そんなに甘い世界ではないらしい……。


 異世界物だと兄ちゃんの居るランキングの順位でも可能性があるらしいが、当然競争も激しいのでランキングに載るのも難しいとか。


 兄ちゃんと異世界に行くか?


 そう思いつつも、とりあえずランキングで兄ちゃんの前後の順位の作品を見比べてみた。


「なんかネタ被ってる人がいる……妹に突然?」

 妹から告白されて付き合っちゃう作品らしい……何で簡単に付き合うかな?? 兄妹でとかあり得ない。


「えーーーーブックマーク3000人以上も居るの? 兄ちゃんよりも2000人以上も多い…………こんなので?」

 兄ちゃんの小説の前後にチョロチョロ見かける妹物の作品……取り敢えず妹繋がりと言うことでざっと読んでみた。


「うーーん、キャラが一杯居るな~~兄ちゃんの作品って、私と二人しか居ない……しかも兄ちゃんが妹に対して一途だからな……佳那さんみたいなキャラとか出せば良いのに?……基本私への思いばかりでセリフも少ないよね兄ちゃんの小説って……」


 でも確かにこれ、文章下手だけど妹の可愛いさは出ていているかな。


 客観的に見ると兄ちゃんの作品の妹、春ちゃんは今一可愛さが伝わって来ない気がする。

 私は自分を踏まえて見れるので、春ちゃんは可愛いって思えるけど……。


 他にも妹が出てくるラノベも読んだりして見た。

 やっぱり主役は少し優柔不断で、一途な思いがあるものの、少し他のキャラにフラフラして物語を面白くしている。


 それ以前にプロだからか、兄ちゃんのより遥かに文章が上手い、読んでいて引き込まれる。


 兄ちゃん……まだまだだな…………。 


 兄ちゃんの小説がデビューとか書籍とかそんな売り物に出来るレベルではないと言う事だけは分かった。


 でも……それで諦めたら、兄ちゃんはボッチのままだ。そしてこのまま私に依存する。私も兄ちゃんが可哀想になりずるずると二人で……そして二人は年を取り………………一緒に老後を…………。



「嫌ああああ、そんな人生は嫌ああ……」

 目を閉じるとリアルに見えてくる、そんな景色が……。


「これはまずい、下手をすると兄ちゃんだけじゃない……私の人生にも影響する」


「やはり、兄ちゃんの作品を少しでも良くしないと……、どうすればいい?」

 私は考えた、今まで読んだマンガやラノベ、やっぱりキャラが重要、キャラクターが魅力的じゃない者は一人も居ない。


「私が兄ちゃんに対して可愛く接すれば、春ちゃんが可愛く書いて貰えるかも、そうすれば、春ちゃんの魅力が上がるんじゃない?」


 そう、私が兄ちゃんのキャラの底上げするぞ作戦……うわ作戦名ださ……


 とにかく可愛く可愛く……


###


「…………おい…………る…………はる聞こえない? おーーーい」


「あ、ごめん兄ちゃん、何?」


「寒くないかって、大丈夫か? 聞こえてる?」


「うん、大丈夫…………あ! え、えっと、お兄ちゃんの背中暖かいから全然大丈夫だよ?」

 私はそう言うと、腰を抱く腕の力を強くし、兄ちゃんにより密着する。

 ううう、は、恥ずかしい……。

 でも、ほら兄ちゃん、どう? どう?  私可愛い?



「えっと……はる……何かあったのか? お兄ちゃんってまた言い出すし、今も何か変な事言うし」


「変てなによ兄ちゃん! 可愛いでしょ?」


「あはははは、はるはそんないつもの調子で兄ちゃんって呼んでくれる方が可愛いぞ」


「ぐ……、うううう……」

 そう言うと兄ちゃんはバイクをぐんと加速させる。

 悔しかった私は更に兄ちゃんの背中に身体を押し付ける。


 このくらいじゃあ駄目か……そう思ったその時、私背中越しに兄ちゃんの心臓の鼓動が凄く早くなっているのに気がついた……。




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