第19話 忍城
今日兄ちゃんと来たのは埼玉県の行田市、目の前には大きな城が見えていた。
「お城?」
「そう、ちょっと前に映画にもなった埼玉の城」
「へーー、映画、なんて映画?」
「のぼうの城」
「のぼう?」
「木偶の坊とかって意味、役に立たないって事だな」
「役立たずの城なの?」
「いや、当時の城主が領民にそう呼ばれてたらしい」
「えーーーお城のお殿様を役立たずって言ってたの? 酷いね」
「いや実は凄い切れ者だったんだよ、豊臣軍の水攻めを最後まで耐えきったお城だし」
「水攻め?」
「ああ、城の周りに堤防を作って、川の水を流して水で沈めるって言う方法だな」
「は? 堤防でこのお城沈めちゃったの?」
「みたいだな、豊臣軍の石田三成が作ったから石田堤って言って今でも残ってるよ、後で見に行こうか、まあただの土手だけどね」
「でもこのお城を沈める程の堤防って、昔何だから人の手で作ったって事でしょ? 凄い人数を使って作ってるって事だよね?、そんなに人員を使って堤防作る位ならその人達で攻めた方が早くない?」
「まあ、城を攻めるって結構大変で、上から狙い射ちされたりで人的被害も多いし、当時は比較的平和な部類の戦争だったみたいだけどな、川に近いとかって地形も関係してるみたいだし」
「へーーーー今やったら物凄い環境破壊で凄い事になりそう」
「うん、当時も畑や田んぼが沈んでいるだろうし、映画だと堤防を作った領民から裏切りが出たりしてたみたいだけど、帰ったら一緒に見るか」
「うん」
兄ちゃんと城の周りを歩きながら見物する。
大きな門、風情のある鐘、綺麗な庭、凄くいいかも。
「中に入れるの?」
「ああ、でも城と言うより博物館になってるみたいだな」
「へーー、行こう兄ちゃん」
「うーーい」
そのまま兄ちゃんと博物館を見物、忍城の歴史や、地元行田市の歴史が展示されていた。
「兄ちゃん歴史とかって実際見ると面白いね~~私日本史苦手だから勉強する気になるよ」
「そうだよな、俺も色々回って勉強になったよ、ああ、そうだこの近くにもう一つ歴史が見れる所あるけど行く?」
「うん行く!」
「じゃあお昼食べてから行くか」
「うん」
某映画では埼玉に観光名所は無いって言ってたけど、調べれば色々あって面い。
そして遊園地やテーマパーク、都内のインスタ生え的なお店じゃなくてこういう歴史や自然を感じる所が好きなのは、やっぱり兄妹なんだなって実感する。
とりあえず昼時なので、忍城から少し行った所で兄ちゃんとお昼ご飯にしようって事になった。
さあどんな美味しそうなお店にと思っていたら………その店を見て私は驚いた。
「えっと……兄ちゃん……ここで食べるの?」
「ああ、やっぱり名物って食べたくない?」
「名物?」
「そう、行田名物ゼリーフライ」
「ぜ、ゼリーフライ?」
兄ちゃんに連れられて来たお店はお世辞にも綺麗と言えない。
なんか昔のラーメン屋さんよりもさらに古く簡単な作りのお店、店前の看板には確かにゼリーフライと書いてある。
ぜ、ゼリー? ゼリー 揚げちゃうの?
古いサッシの引き戸を開けると、中も昔の食堂の様な内装だった。
丸椅子に簡易テーブル、場末と言いたくなる店……でもお客さんはそこそこ居る。
家族連れから若いカップル、おじ様おば様、年齢層は幅広い。
兄ちゃんと空いている席に座る。
近所のおば様達なのか? 数人の結構な年の方達が何か色々作ったり運んだりとせわしなく動いている。
「ご注文は?」
そう聞かれるが私は良くわからないので任せようと兄ちゃんを見つめる。
いつも食べたい物が決まらない時は兄ちゃんに目配せする事にしている。
すると兄ちゃんはあらかじめ調べているのだろう、その店の一番美味しい物を注文してくれるのだ。
「じゃあゼリーフライ2つとフライ一つ、あと焼きそば一つ」
「フライ?」
「ああ、なかなか美味しいよ」
「ふーーーん」
しばらくすると、コロッケ2つに、何か薄いお好み焼きみたいな物が焼きそばと一緒に運ばれる。
「コロッケ?」
こんがり揚がったコロッケ、でも衣が無い、何だろ?
「そのまま食べるの?」
「うん味はついてる」
そう言われ、私は恐る恐るそのコロッケを口にした。
うんホクホクして美味しい、ただ物凄く美味しいって分けでは無いけど、懐かしい味ってこういう物かと思わせてくれる。
「美味しい? これ基本「オカラ」を揚げてるんだよ、他にもじゃがいもとかも入ってるみたいだけど」
「オカラって豆腐を作る時の?」
「そうそう」
「へー、小鉢とかで何かと一緒に少し出たのを食べた事あるけど、こんなちゃんと食べたのは初めて」
「まあ、余り食べないよな」
「こっちは?」
「これはフライ、まあ薄いお好み焼きだな」
一口食べる、ソース味で確かにお好み焼きっぽい。
「うん、なんか食感はガレットみたい、美味しい」
「焼きそばと一緒に食べると旨いらしい」
「あははは、うん、なんか広島焼きみたいになった」
兄ちゃんと行田の名物を食べる、ファミレスとかよりも全然良い、凄く面白かった。
ちなみに何でゼリーフライかと言うと、小判の形をしたフライだからとの事、要するに銭が訛ってゼリーになったらしい。
食事を終え、バイクに乗りそこから少し行くと大きな公園に到着する。
「兄ちゃん、今そこで見ちゃったよ、古墳って書いてあった。歴史の教科書に良く出てる前方後円墳があるんでしょ?」
「そうそう、まあ行って見よう」
バイクを駐輪場に置き、公園に入る。
大きな公園は整備されていて、散歩するには最適だった。
兄ちゃんと二人で並び、遊歩道を歩くと目の前に小高い山があり階段がついている。
なるほどあそこから登って上から見下ろすって事か。
そのまま兄ちゃんと一緒に少登山を敢行、まあ数分で到着するんだけど。
山の頂上に着くと、辺り一面良く見える。まるで展望台みたいな場所、でも前方後円墳らしき物は見えない、周りは公園、その先は畑、後は同じような小さな山がいくつか見えるだけ……。
「ねえ兄ちゃん、どれが前方後円墳なの?」
歴史の教科書の表紙や前の方に写真が載っているのを見たことがある。
丸い山と四角い山の組み合わせの物は見当たらない
「これ」
私がキョロキョロと辺りを見ていると兄ちゃんは笑いながらそう言った。
「え?」
「これが古墳、今登ってるこれ」
「はえ? お墓に登ってるの私達?」
「うん、そう」
「ふえええええ、登れるんだ」
て言うかお墓の上に立っていいの?
「もうちょっと先に行けば何となく形がわかるよ、あと、ほらあっちの山」
「あーーー前が丸くて後ろ四角い、へーーーー」
本当に教科書通りの形に驚いてしまう。
「ここはさきたま古墳群って言ってさ、古墳がいくつもあるんだよ」
「さきたま?」
「そう埼玉って、ここの『さきたま』から取られた地名なんだよ」
「へーーーさきたまから埼玉になったんだ、へーーーー」
辺りにはいくつか小さい山が見える。
そのどれもが古墳との事、昔はもっと一杯あったらしいが干拓等で壊してしまったとか……勿体ない。
「どう? こんな感じで歴史の史跡を見に行ったり、いい景色を見たり美味しい食べ物を食べたりするって……、それをさ、はると一緒にこれからも行きたいんだけど」
兄ちゃんは古墳の上で私を見る、告白でもしているかの様な真剣で不安そうな表情、私は兄ちゃんのその顔に少しだけほんの少しだけ胸がキュンと高鳴った。
「い、いんじゃないかな~~、まあ付き合ってあげるよ」
少し意地悪っぽく照れ隠しでそう言った。
でも兄ちゃんは私のその言葉を聞いて、満面な笑みに変わる。
「ほ、本当か! まだまだ一杯あるからな! 歴史面白かったか? なら今度は関ヶ原に行こう!」
「え、関ヶ原?」
凄く嬉しそうに言う兄ちゃん、そして有名な名前が、関ヶ原の戦い、日本史苦手な私でも知っている名前
「関ヶ原? 良いけど、どこだっけ?」
「岐阜だよ、バイクでたったの8時間位だな、明日の朝3時に出れば昼前に着く」
「絶対行かな~~い」
「ええええ、今行くって言っただろ?」
「明日って、毎日行くつもり? それにさすがに兄ちゃんに8時間もしがみ付くのは無理~~~」
「前に行った時凄くよかったから行こうよ、石田三成の陣とかもう戦いが見えるようだったからさ」
「兄ちゃん8時間かけて行ったの? やだよ、しかも三成って負けた方じゃん」
「でも徳川の陣って山の中で今一何だよなあ、三成の陣は景色も良いし」
「ハイハイ今度ね、ねえ兄ちゃんあっちの古墳にも登りたい、行こう」
「低いとはいえ結構斜面急で辛いんだけど、まだ登るの?」
「バイクにばっかりに乗ってるから体力ないんじゃない? ほら行くよ」
そう言って兄ちゃんの手を握り引っ張って行く、兄ちゃんの手は暖かく少し汗ばんでいた。
今回のツーリング凄く面白かった、歴史探索って言う兄ちゃんのアイデアも面白かった。
関ヶ原にも行きたいけど……、いきなり8時間は無理無理~~、また今度。
そのうち泊まりで……ね……兄ちゃん
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