第25話 代用品
『兄ちゃん、兄ちゃんは私の事が好きなんじゃないの?』
私は遂に言った、言ってしまった、あの春香さんていう女の子の事を聞く為に……
『あはははは、陽、何を言ってるんだ? 俺達は兄妹だろ?』
いつもの通りリビングでコーヒー片手に笑顔でそういう兄ちゃん
『で、でも……』
『でも?』
『兄ちゃん……小説で……私の事を好きって』
ああ、言ってしまった、これも……
『小説……そうか知ってたのか……』
『うん……ごめん』
『陽には言って無かったな、俺……付き合ってる人が居るんだ』
『付き合ってる?』
『クラスメイト、春香っていうんだ』
『春香……』
私が聞く前に兄ちゃんから言ってきた……やっぱりそうか……
『そう春香、小説を書くきっかけになった人』
『え?』
『そして陽、お前の代わりだよ』
『え? 代わり?』
代わり……兄ちゃん一体何を言ってるんだ? 春香さんが……私の代わり?
『兄妹じゃ付き合えないからな、春香は陽の代用品だ』
『代用品……』
『大丈夫、身体だけの繋がりだから、心は陽、身体は春香、ちゃんと区別してるよ』
『な、何言ってるんだよ兄ちゃん、それって……最低じゃ……』
『何だ? じゃあお前が俺の相手をしてくれるのか? 兄妹で身体も心も』
兄ちゃんは私の顎をクイッと持ち上げニヤリと笑いそう言った。
『そ……それは』
『だろ? 大丈夫心配するな、お前には手は出さないよ、だって』
『だって?』
『……お前は…………』
『え、兄ちゃん何て? 兄ちゃん聞こえない』
兄ちゃんはそう何か呟くと、立ち上がりテーブルに置いてあったヘルメットを手に取る。
『待って兄ちゃん、どこへ行くの、あの春香さんの所? 駄目だよ兄ちゃん、行っちゃやだよ、行かないで、お願い兄ちゃん、行かないでくれたら……私、私が……』
寒い、身体が寒い、頭が痛い……兄ちゃん、助けて、助けて兄ちゃん行かないで
「はる? 陽? 大丈夫か?」
「に、兄ちゃん?」
「良かった、うなされてたから、大丈夫か?」
目が覚めると私はいつの間にかベットに寝ていた。
自分の部屋のベットに……兄ちゃんが横に座っている、いつもの兄ちゃんだ……そうか……今のは夢か……。
「買い物から帰って来たらはるがリビングで寝てたからとりあえず部屋まで運んだんだぞ、駄目じゃないか、風邪治ってないのにあんな所で寝てたら」
「あ……うん、ごめん兄ちゃん」
私はいつの間にか家に戻っていた。
でも春香さんと別れてからの意識が、記憶が全くない。
「いや俺こそ……昨日はごめんな、あ、ゼリーとかアイスとか買って来たぞ食べるか?」
「うん……じゃあアイス」
「オッケー、じゃあ今持ってくるからな、とりあえず熱計って着替えておけよ、結構汗かいてるだろ」
「うん…………えっと兄ちゃん」
「なんだ? あと何か欲しい物あるか?」
「ううん……ありがと」
「あはははどうした? 今日はやけに素直だな、どういたしまして」
兄ちゃんはそう言って微笑みながら部屋を出ていった……。
夢とは違ういつも通りの兄ちゃん……。
どうしよう……聞きたい……聞かなくちゃ……春香さんとどういう関係? 小説の春って春香さんの事?
少なくとも私との事が書かれているのは間違いない。
でもさっきの夢の様な……私の代わりって事も考えられる。
そして春の性格は私じゃない、凄く素直で優しい子……兄ちゃんの理想の妹と思っていた……でもあれって春香さんなのかも知れない。
さっきちょっと話しただけだから春と春香さんの性格が一緒かは分からない、でも彼女は恐らく兄ちゃんの事が好きなんだろう。
私の前だと少しきつい性格だったけど、多分兄ちゃんの前では素直で優しいのかも。
「どうしよう……春香さんの事、兄ちゃんとの関係の事とか……」
聞きたいけど聞きたくない、そんな訳の分からない感覚に陥っている。
そもそも何て聞けば良いのか分からない……。
もう兄ちゃんの事が分からない、小説を書いている事、去年演劇をやっていた事、私の事、春香さんの事、彼女だけじゃない……家に連れてきた佳那さんの事も、私は兄ちゃんの事何も知らない、全然知らなかった。
兄ちゃんは付き合っている人はいないって言っていた。
今まで付き合った事もないって、でも隠している可能性もある。
少なくとも小説を書いている事は私には内緒だ。
春香さんの事だって佳那さんの事だって内緒にしている可能性だってある。
「私は兄ちゃんの事を、最近の事を知らない。ううん違うか……私の知ってる兄ちゃんと知っていた兄ちゃんと……今の兄ちゃんと昔の兄ちゃんが違うって事なのかも」
ああもう……わけがわからないよ。
なんかまた熱が……あ、そうだ着替えないと……。
私は兄ちゃんが戻って来る前にとベッドから起き上がり、外に行く為に履いていたズボンを脱いでパジャマに着替え……。
「はる~~チョコミントとクッキークリームどっちが良いか分からないからとりあえず両方……」
兄ちゃんがそう言いながらにこやかに部屋に入って来る……………………っておい……。
「はる……ま、まだ着替えてなかったのか……あ、いや、その」
「兄ちゃん……昨日も言ったよね……ノックを、ノックをしろってえ言ったよねえええ!」
私は手に持っていたズボンを投げつける。
「ま、待てそれ投げたらパンツが、縞パンを隠す物が」
「縞パンとか言うなああああああ! ボーダーって言ええええええええ!!」
オタくさい言い方するなあああああ。
「あーーボーダーね、なるほど……いや……えっと」
「っていうかそんなのどうでもいいから、早く出てけええええええええ」
「ああああ、ご、ごめん」
兄ちゃんがそそくさと部屋を出ていく、ううううう、また見られたあああああああ……。
今度は下を……下着を……。
ちょっと買い物に行くだけだったから、古くて変な下着を履いてた……ボロいボーダーのパンツ、それを見られた……。
ああ、もう嫌! 兄ちゃんなんか嫌い! 春だが春香だが知らんけど、兄ちゃんなんか要らない、あんなの……熨斗つけてくれてやるうううう!
兄が妹大好き小説を書いているのを知ってしまったら、妹としてどう反応すればいいんですか? 新名天生 @Niinaamesyou
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