第5話 兄ちゃんへのプレゼント
4月に入り、入学式まであと僅かとなった。
少し緊張しているけど、それよりも当面の問題がある。
「兄ちゃんの誕生日プレゼント……どうしよう」
そう明日は兄ちゃんの誕生日なのだ。
毎年適当に選んでたけど……今年はちょっとそういう訳にはいかなくなった……何故なら。
「兄ちゃん絶対書くよね? 私からの誕生日プレゼントの事……」
うわーーい……入学式より緊張するよ~~。
そして何で書かれる事にここまで緊張しているかと言うと……兄ちゃんの小説があれよあれよとランキングを駆け上がり現在恋愛部門10位に居る。
「えーー? ヤバいよ~~もう下手な事出来ないよ」
ブックマークも50件に増え、そして感想もちらほらと。
「『妹さん可愛いです』だって……やだあもう照れちゃう。いやいや、違う違う、そうじゃない。あれは兄ちゃんの仮想妹であって私じゃない、私じゃない」
それでも私の行動が少なからず兄ちゃんの小説に影響する。
「ああああ、これじゃ本末転倒な気がする~~~」
兄ちゃんの本心が知りたくて読んでいるのに、私が小説のストーリーを気にしてどうするの?
まさかあの小説が皆に読まれるなんて……恥ずかしいやら照れ臭いやらで私は何とも言えない気持ちになっていた。
「だ、大丈夫だよね、私を美化する兄ちゃんの小説補正があるし、よっぽど変な事しなきゃ」
そうだ、あれは私じゃない私じゃない、私は春ちゃんみたいに可愛くない。
可愛い……無い……。
「ははははは、自分で言って少しへこんだ……まあそうだよね……」
少し分かって来た。
あれは兄ちゃんの理想の妹何じゃないかって、あの妹なら兄ちゃんが好きになる気が……私なんかじゃ無理かも。
「ちょっと待って、あれ? 何で私残念な気持ちになってるんだ?」
ここはホッとする所じゃないの?
「えっと……そうだ、兄ちゃんの小説が皆に読まれているのは私のおかげだって、少しは考えてるからだ。決して私が兄ちゃんを……なんて無いから!」
誰が聞いてる分けでも無いのに、私はそう口に出し自分に言い聞かせていた。
「とりあえず、誕生日祝いだよ、プレゼントどうしよう。兄ちゃんの好きな物ってなんだろう、兄ちゃんの好きな物……好きな物……者…………わたし?」
うわ~~私、何考えてるんだろう、自分で想像して自分で引いたよ。
頭ににリボン巻いて兄ちゃんの前に立つ自分を想像しちゃったよ!
あああああ、兄ちゃんの小説の影響だ……そうに違いない。
ちなみに前にも言ったが父親は既に他界し母一人で働いていて私達を養ってくれている。
ただ……決して貧乏等ではなく、私達はそこそこ裕福な暮らしをしている。
父と母が私達が生まれる前にアパレル会社を興した。
父が他界する頃には、それなりに大きくなっていて、父が他界した後、会社は母が経営している。
ただ全国を飛び回っている為に母はあまり家には帰って来ない。
でも私と兄ちゃんは忙しいお母さんの為にしっかりやろうねと、いつもそう言って二人で協力しあっていた。
やはり父と育てた会社ば為に母は私らと同じくらい会社を子供のように思っていたから。
それは私らにとっても妹みたいな存在だったりもする。
なので、まあそんなに甘やかされている訳じゃないけど、やはり悪い気がしているのか、母は一応必要な物、欲しい物は大体買ってくれる。
勿論無駄遣いは控えているが、お小遣いも普通の中高生よりはやや多く貰っている。
更に兄ちゃんは入学祝いにバイクも買って貰っているし、私も服は母の会社の物を貰ったりしている。
「やっぱり物だと喜ばないよな~~」
私も兄ちゃんから入学祝に何が良いって言われて桜見物が良いって言ったし。
「ん? そうか……そうだよ!なーーんだ簡単じゃん、そうだよ兄ちゃん同様直接聞いちゃえばいいんだよ」
兄ちゃんだって私に直接入学祝何が良いって聞いたんだから、私も聞いちゃえば良いんだよ。
サプライズも良いけど、外すことも多いって聞くしね。
でも……問題は兄ちゃんの小説なのだ。
もしもあの小説が兄ちゃんの本当の気持ちを書いていたとしたら。
そしてもしも兄ちゃんが私に『お前が欲しい』何て言われたら……どうしよう……。
「駄目だよ兄ちゃん、私達兄妹だよ?」
『でもお前以外考えられない』
「兄ちゃん……いつから私の事を?」
『ずっと前からだよ』
「そんなに……でも私……兄ちゃんとなら…………いいよ…………………………」
「ってわーーたーーしーーーー何を言ってるんだああああああああああああああああ!!」
ああ、駄目だ……もう完全に兄ちゃんの小説の影響だ。
ひょっとしたら兄ちゃんの小説ってこういう影響があるんじゃ、だからそこそこ人が来てブクマ登録してるのでは?
「ヤバい、うちの兄ちゃん……文才があるのかも」
兄ちゃんの小説を読むのはもう止めた方がいいんじゃないか、と考えながら部屋を出るとリビングに向かった。
兄ちゃんは私が家に居るときは何故か大抵リビングにいる。
「兄ちゃんおはよ」
「おはよってもう昼だよ、今頃起きたのか?」
「ううん少し妄想──いやいや、考え事をしてた」
「どんだけ考えてるんだよ」
兄ちゃんはいつものように優しく私を見て微笑んだ。
「…………えっとね兄ちゃん、明日誕生日だよね」
「え! ああ、うんそうだな……」
兄ちゃんは私がそう言った瞬間ソワソワし始めた。
これはひょっとして、私からのプレゼント楽しみにしてたのかも?
「それでえっとね、色々考えたんだけど分かんないからもう兄ちゃんに聞いちゃえって思って、兄ちゃん何か欲しい物ある?」
そう言うと兄ちゃんはため息を吐くと笑顔からがっかりした表情に変わった。
やっぱり期待してたか……。
「お前それは一番駄目な奴だろ? もっとサプライズ的な事をだな」
少し接客中するように私に向かってそう言った。
「えーー、めんどくさいよ~~、それに兄ちゃんだって入学祝何が良いって聞いたじゃん」
「入学祝だからだろ?」
「入学祝は一生に何回もないけど誕生日は毎年じゃん、そう考えると入学祝聞く方が駄目なんじゃない?」
「まあそう言われればそんな気も……」
「ね? それで兄ちゃんは何が欲しい? それともまた何処かに出かける? あ、それとも……私に何かして欲しい事とかあったりする?」
私がそう言うと兄ちゃんハッとした顔をした後に、真っ赤になって下を向く。
え? ま、まさか兄ちゃん……さっき私が想像した様な事を言うつもり?
その兄ちゃんの態度に私は急にドキドキし始める。
なんて言われるんだろう、少し怖い……どうしよう本当に『お前が欲しい何て言われたら』
……でも自分で提案したんだし……もしも……なら……。
私はドキドキしている事がバレない様に、なに食わぬ顔をして兄ちゃんの返事を待った。
「お……」
「お?」
「お前」
「え?」
ま、まさか兄ちゃん?! ほ本当に?!
「お前の…………はるの」
「わ、私の!?」
まさか? 本当に!?
私は食い入る様に兄ちゃんの言葉を待った。
「制服姿が見たい……」
「は?」
「はるの制服姿を見ながら……ここで二人でご飯を食べたいなって」
「は? 何で? もうすぐいくらでも見れるじゃん」
入学式には一緒に行く事にしている。
何なんだったら毎日一緒に登校しても私は別に構わないと思ってる位だ。
だって同じ高校だし。
「えっと、まあそうなんだけど……それが俺の今、はるに一番して欲しい事、それが俺の誕生日祝いになるから」
兄ちゃんは照れ臭そうにそう言ってくる。
えっと……ヤバいこの兄ちゃん可愛い……。
「えっと……兄ちゃんが良いなら私は別に良いけど──じゃあさ、私の手料理もつけて二人でお祝いしよっか?ー?」
「マジで? うおおおお、やったね凄く楽しみだよ!」
兄ちゃんが満面な笑みでそう言った。
一体兄ちゃんはどんな考えでそんな事を、
私は多分その理由が書かれるであろう兄ちゃんの小説が、今から気になってしょうがなくなっていた。
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