第4話 ランクイン

 

 そのまま兄ちゃんと二人で公園の桜をずっと眺めていた。

 凄く綺麗な桜、満開では無かったが舞い落ちる花びらは、本当に美しかった。


 隣に座る兄ちゃんとの距離が近いのが少し照れ臭い。


 そもそも兄妹で桜を見に来る事自体よく考えれば恥ずかしいのかも知れない。

 でも……私は別に兄ちゃんとなら良いかなって思った。


 その後は公園をゆっくり一周し広場で桜祭りのイベントを見た後公園を後にする。


 帰る途中兄ちゃんがこの辺に美味しいレストランがあるらしいから行こうと言われた。


 一人でツーリングに出掛けた時から気になっていたイタリアンレストランなのだとか。


 案内されたお店は、お洒落な佇まいのイタリアンレストランだった。

 結婚式の二次会等で使われそうな大きな建物、中に入ると東京ではあり得ない位に席と席の間が広い


 ただ駅から少し離れているので車がないと少し不便な場所だった。


「兄ちゃん、こんな良いところ、私じゃなくて彼女作って来たら良かったじゃん」


「だから言っただろ、俺は彼女居ないの! そもそも、ここまで連れて来るって結構大変だろ?」


「もうじきオートバイの後ろに誰か乗せられるんじゃないっけ?」


「はる以外今のところ乗せるつもりはないかな~~?」


「へえ私は乗っていいんだ?」

 それってやっぱり……。


「はるは俺のお荷物だからな~~」


「えーーーーなにそれ酷い~~~」

 憎まれ口を叩く兄ちゃん、まあいつもの事なんで慣れている。

 昔からこうだ……いつも通りの兄ちゃん。

 でも……お前は特別って言われてる気がして、兄ちゃんのこんな言い方……嫌いじゃない。


 注文したパスタとピザが運ばれて来る、前菜は既に食べ終えている。

 綺麗なお皿に盛られたパスタ、高級感があっていかにも美味しそう……そしてその味に私は驚いた。


「え? 美味しい~~~えーー? なにこれ凄く美味しい!」


「そうか……良かった……ピザも旨いぞ」

 そう言われ、マルゲリータをピザを一切れ口に入れる。


「えーーーー凄い! 美味しい! 兄ちゃん良く知ってたねこのお店」

 焼き立ての釜焼きピザだ。

 カリっとしてジューシーで、そしてチーズが特に美味しい。

 今まで食べたピザで一番美味しい。

 偶然にしては美味しすぎる。

 なんでこんな所のお店を知ってるんだろう?


「美味しい? 今日ははるの入学祝いだからな、良かったよ」

 そう言うと笑顔で私をじっと見つめて来る兄ちゃん……えっと。


「ありがと……宜しくね…………先輩……」


「え………………あ、……うん、こちらこそ……後輩」

 兄ちゃんは、その後真っ赤な顔でデザート迄黙々と食べ続けた。

 多分私の顔も真っ赤になっていると思う。


 こうして改まって言うとなんだか照れる。

 なんだろう、兄ちゃんの小説を読んで私も兄ちゃんの事を意識しちゃってるのかな?


 料理が美味しすぎたのか? それとも照れ臭かったからか? その後はあまり会話せずに黙々と食べ続けた。


 前菜5品、それぞれにパスタ、ピザが1枚、選べる小さめのデザートが二人で6個にコーヒー。

 これで合計二人で4000円弱……安い。


 兄ちゃんが会計を終え大満足で店を出るとスマホで呼んだタクシーが店の前に到着していた。


 そのままタクシーに乗って駅に向かう。

「兄ちゃん良く知ってたね? 地元でも無いのにあんな店」


「あ~~、前にたまたま通りかかっただけだよ、当たりで良かったな」


「うん、凄く美味しかった、また来ようね兄ちゃん」


「ああ」

 帰りの新幹線、窓の外に見える景色、まだ桜が所々に見えていた。

 家に近付く程にどんどん散っていくその姿は少し寂しい。

 でもまた来年見においで、なんて言っているようにも思える。


 来年の事をもう考えるなんて鬼が笑うけど、来年は私どんな気持ちで桜を見ているんだろうか?

 来年も兄ちゃんと来るのだろうか?


 そんな思いで窓の外を眺めていた。



 もうじき高校生活が始まる。

 少しの不安と大きな期待、そしてその学校には兄ちゃんがいるという安心感、来週私は高校生になる。






 ###


 翌朝兄ちゃんの小説を見るべくスマホを手に取った……昨日の事が書かれているのか?

  私は恐る恐るページを開く。


 案の小説は定更新されていた。

 帰ってから書いたのだろう。


 兄ちゃんは昨日の事を書いているのか? どんな気持ちでいたのか?

 まるで試験の答え合わせのようにドキドキしながら兄ちゃん小説を読み始めた。



 ▽▽▽


 桜と妹


 妹が「桜を見てお兄ちゃんと思い出が作りたい」そんな事を言ってきた。


 妹との思い出なんて既に俺の中で積もりに積もっている。

 そんな状態で更に妹とそんな素敵な思い出なんてを作ったら、俺はどうにかなってしまうんじゃないだろうかと雪崩に遭遇しそうな登山家のように不安になる。


 しかし俺が妹の頼みを聞かないなんて選択肢はない。

 どんな用事があろうとも妹の願いは聞き入れる。

 俺は当然妹の願いに賛同し、妹と桜デートに行くことになった。


 翌朝妹は桜をイメージした服装で俺の前に現れた。

 その姿はまるで女神が降臨したのかと錯覚する。


 妹はポニーテールで髪を纏めワンポイントで桜のヘアアクセを付けている。

 妹に桜はピッタリだ。凄く可愛い、そして桜色のセーターに葉っぱをモチーフにしているのか? 黄緑のヒラヒラしたガーゼのような生地のスカート。更にはサクランボをイメージした赤いシューズ、すべてが妹の為に作られたかの様だった。

 女神……いやb桜の妖精と見間違えるかと思った。

 正に春という名前にピッタリなその姿に俺は感動に打ち震えていた。


 △△△



「に、兄ちゃん……ちょっ! 最初嫌がって無かった? えーー桜? って言っていたよね? しかも服装の事なんて一言も言わなかったじゃん! だったら可愛いとか似合うとか言えよ!あと……ガーゼって何? チェニックスカート位調べて書いてよ~~」


 兄ちゃんの小説に突っ込みをいれつつ、続きを読む。



 ▽▽▽


「綺麗」

 桜を見て妹はそう言った。

 俺は桜を見つつ気付かれないようにチラチラと妹を見ている。

 花より団子なんて嘘だ。

 俺にとっては花より妹。

 妹の前では桜なんてカスミソウのようだ。


 そして、桜を見ながら妹は、持っていた手作りサンドイッチを一口食べるとそれを俺に差し出し


「お兄ちゃん……あーーーーん」


 サンドイッチに妹の桜色の口紅がほんのりついている、

 俺はその何よりのご馳走を、一口……ああ、妹の唇の味する。


 △△△



「おい!!! サンドイッチって……、今川焼きたこ焼きだったじゃん! 美化しすぎだって!

 あと……私が食べてから兄ちゃんにアーーンって、なんか私変態っぽくない? でも兄ちゃんなんてもっと変態っぽいよ……妹の唇の味って……何? ひょっとしたら私の唇が今川焼きの味って思ってた? あの時そんな事考えてたの兄ちゃん」


  兄ちゃんの小説が……少し……いや結構妄想じみてきている。

 これってやっぱり作り話しなんだろうか?


 もうよくわからない……やっぱり一連の行動はあくまでも取材なのか?

 そう、思いながら私は続きを読んでいく。


 ▽▽▽


「お兄ちゃん美味しいよ、このパスタ凄く美味しい~~」

 妹はそう言ってくれた。


 満開の桜を見に行きたいと言う妹の願いを叶えるべく俺は調べに調べた。

 調べた所時期的に満開情報が出ている場所は家から結構遠かったので移動には新幹線を使った。

 

 妹の入学祝い、それも俺と同じ高校に来てくれる。

 そんな嬉しい事をしてくれた妹に楽しんで欲しかった。


 残念ながら桜は満開とはいかなかったが、レストランは気に入ってくれた様だった。

 あの辺じゃ一番のレストラン、パスタは評判でテレビにも出たことがあるらしい、徹夜で調べたかいがあった。


 △△△



「兄ちゃん……徹夜だったんだ……」

 私が何気なく桜が見たいって言ったら……兄ちゃんは徹夜までして調べてくれていた。


「兄ちゃん……ありがと」

 少し狡いのかな? 兄ちゃん気持ちが知れて少し狡いのかなってそう思いながら、最後に小説情報をクリックした……すると。


「え! ブックマークが15件……マジで?」

 兄ちゃんの小説のブックマークが10件以上急に増えている、何で?


 昨日まで3件だったのに急に15件?

 私はスマホで調べてみた。

 するとどうやらこの小説サイトにはランキングという物がありそこの兄ちゃんの小説が載っているんじゃないか? という事だった。


 兄ちゃんの小説って恋愛だよね、そう思い恋愛ランキングを見ると



「載ってる……79位…………」


 兄ちゃんと私の恋愛小説がランキングに載ってしまった。

 それはつまり私達の事が世の中に晒されていくという事だ。


 私は大きな戸惑いの中で、ほんの少しだけ……ほんの少しだけど嬉しい気持ちが芽生えている事に気が付き始めていた。

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