第3話 千本桜


 更新!


 目が覚めてスマホを見たら3時間位寝ていた……。

 結構寝ちゃったな~~と思いつつ、ぼんやりとスマホを手に取り兄ちゃんの小説を見たら……更新していた!


 その更新情報で一瞬にして目が覚める。


「え、いつの間に?」


 兄ちゃんは本屋に行くって言ってた。

 つまりその後に何処かで書いたのだろうか? 


 そんな事を考えつつ新規のページを開く。



 ▽▽▽


 『妹とデート前日』


 妹に「彼女は居ないの?」と聞かれた。

 これって妹も俺の事を気にしている証拠なのでは?


 少しは脈があるのかも知れない、凄く嬉しい、気分が舞い上がる。


 そして俺はこれがチャンスと、今まで聞きたくても聞けかなっかた事を思いきって聞いてみた。


「春ってさあ、彼氏はいるの?」

 その質問に妹は、赤い顔をして下を向きもじもじとしながら、「いないけど……この間告白されたよ」と言った。


 何だって! 俺は慌てた、もう来たか、最近の中学生はませている。

 焦る心を抑えて、俺の気持ちを悟られない様に話を続けた。


「へーー、そうなんだ、それで?」

 頼む振ってくれ、付き合って無いって言ってくれ!

 俺は祈る思いで妹の言葉を待った…………



 △△△



「に、兄ちゃん、さっきの事をもう……そして私がちょっと美化されている? 私モジモジなんてしてないよ?!」


 て言うか、これ……どこで書いたの? ひょっとしてもう家に帰ってる?

 私は兄ちゃんが帰っているか確認する為に部屋を出ると隣ある兄ちゃんの部屋の扉をノックする…………


「いない……」

 返事がない……帰ってきてないって事は外で書いているんだ……喫茶店とか?


「ぷぷ、兄ちゃん小説家気取り?」

  何だろノートPC持って行ったのかな? 本屋に行って辞書を買いそれとノートを持って喫茶店でこれを書いたのかな?


 部屋の中に入って確認しようかと思ったが、昨日部屋に入った事がバレたら大変だ。

 それに今日はいつ帰ってくるかも分からない。


 当分兄ちゃんの部屋に勝手に入るのは自粛するって決めてた私は、そのまま自分の部屋に戻った。


 そして部屋に戻り、再びスマホを開く。

 喫茶店で一生懸命小説を書いているって想像をしたら、何だか兄ちゃんが可愛くなってきた……ふふふ。


 私の……ううん、仮想の妹ちゃんの事を考えながら書いてる兄ちゃんを微笑ましく感じていた。



 ▽▽▽


 明日は妹とのデート……デートは久しぶりだ。

 妹の受験があったからずっと我慢していた。


 嬉しい、今からワクワクしている……でも妹はデートとは思って居ないだろう。

 俺は……いつもデート気分で妹と出掛けている。

 いつか手を繋いで歩きたい、今の所それはまだまだ夢だけど……。


 △△△


「えっと……兄ちゃんちょっと重くない?  これが物語だとしても少し重い気がする。まあ、兄ちゃんの作品は今のところ私しか見てないし……………………え?」


「ブックマーク!!」


 思わず大声で叫んでしまった……兄ちゃん小説にブックマークが3件登録されている。

 私以外に読む人が……いるんだ…………。


 なんだろうこの感覚、喜びと恥ずかしさと、そしてこれは……嫉妬? 


 自分の事だと思うと恥ずかしい。

 でも兄ちゃんの小説を私以外の人が知るという事に少し嫉妬を感じる……、でも……嬉しい?


 何か複雑な感情が芽生える。

 ただ一つ言えることは、その全部を含めてわくわくしている。


 もうすぐ高校生活が始まる。

 兄ちゃんの事、小説の事……何か色々ありそうな予感がしてきていた。




 ####




 そして翌日、兄ちゃんと二人で家を出る。


 兄ちゃんとの初デート(仮)は、桜を見に行く事にした。


 今日は桜を見に行くので私は桜を主体にしたコーディネートで身を包む。

 髪はポニーテールにし桜のヘアアゴムで纏めた。

 服装は桜色のタートルネックのセーターに新緑の薄いグリーンのチュールスカート。

 靴は歩きやすい様にさくらんぼうの様な赤色のスニーカーにしてみた。



「兄ちゃん、遠くてごめんね、なんか満開の桜が見たくて、家の近所は散っちゃってるし、近い所も結構散ってるらしいの」


「いいよ、俺も見たいし」


「ありがとう」

 今私達は新幹線の中にいる。

 向かっている場所は新幹線に乗るほど遠くは無いが、兄ちゃんが入学祝いだと奮発してくれた。



 昨日兄ちゃんが帰って来ると私は「明日桜が見たいから連れてって」と言った。

 最初兄ちゃんは渋い顔をした、私が「嫌?」と聞くと、「嫌じゃないけど、入学祝いなんだから、例えばちょっと高いレストランでディナーとか、何か記念になるものを買いに行くとか、そういうのじゃ無いのか? って」


 兄ちゃんはそう言った、でも、レストランなんていつでも行ける、記念になる物も自分で買えるし今特に欲しい物はない。


「兄ちゃんと二人で今しか見れない物を、高校生になる記念に、二人で思い出として残すって良くない? 一生の思い出になるよ?」

  そう言ってみた。

 実際そう思ったから、まあ少しだけ、ほんの少しだけ小説の事も考慮に入れたけど。


 私の言葉に兄ちゃんは少し考え、笑みを浮かべて言った。

「よし、じゃあ行こう、はるの記念に、二人の記念を残しに」


「うん!」



 こうしてやって来たのは、日本桜百選にも選ばれるほど有名な千本桜がある場所だ。

 千本桜と言っても、もちろんボカロは歌いません。


 駅から少し歩くと桜が見えてくる。

 その公園に入るといきなり桜並木が迫ってくる。

 その並木道を歩いて行くとその先に凄い景色が広がった……。


「うわーーーー凄いね……兄ちゃん」


「ああ、すげえな……」


「屋台だらけ……」

 桜並木の下に様々な屋台が軒を連なれており、桜よりもよっぽど見応えがある……


「そして……結構散ってるね兄ちゃん」


「ああ、朝から風が強かったからな……」

 昨日の情報では満開という事で、わざわざここま来たものの、花びらはだいぶ散っており、今一な状況になっていた。

 ここまで来たのに少し残念な気持ちになってしまう。


「しょうがない、一応綺麗だし、とりあえず何か食べながら見ようか」


「うん、花より団子だね兄ちゃん!」


 そう言うと、その沢山の屋台を眺め、それぞれ好きな物を買った。

 勿論会計は兄ちゃんがした。兄ちゃんありがとう!


 兄ちゃんはたこ焼きを、私は今川焼きを買うと遊歩道沿いにある近くのベンチに並び腰を下ろす。


 とりあえず買ったものには手を付けず、二人でポカンと桜を眺める。

 散り始めとあり、少々強めの風を受けると桜が豪快にヒラヒラと舞い落ちた。


 ピンク色のソメイヨシノ花びらが私達に降りそそぐ。

 その美しい光景に、私と兄ちゃんは二人であんぐりと口を開きボーッと眺めていた。


 暫く見ていると……兄ちゃんは少し冷めたたこ焼きを私に差し出す。

「ほら一個」

 そう言って来た兄ちゃんに私はアーーンと口を開けた。


「え、じ、自分で食えよ」


「えーーだってえ、今川焼き持ってるし~~」


「右手があるだろ」


「良いじゃん、ほら、アーーーーン」


「しょうがねえな、ほれ」

 少し照れ臭そうに兄ちゃんが私の口にたこ焼きを入れる……


「あふあふ、おいひいね、じゃあお返し~」

 たこ焼きの表面は少し冷めていたが、中は熱々で私は火傷しないようにハフハフしながら食べる。

 そしてお返しにと、私は食べかけの今川焼きを兄ちゃんに差し出した。


「え?」


「ん? 何?」


「いや……食べて良いの?」


「何で?」

 始め何でそんな事を言うんだろうか? と一瞬悩むも間接キスでそう、言ってるのかとわかった。


「やだ兄ちゃん照れてるの? うそぉ、兄妹で間接キスとか思っちゃってる?」


「そ、そんな事! は、はるが食べた物を食べるのに抵抗があるだけだよ!」


「えーーなにそれ酷い~~じゃあもう上げないもーーん」


「いや、そ、それ、いや……」

 私がそう言って拒否ると、兄ちゃんが焦って始めた。

 あははは兄ちゃん可愛い。


「もう、嘘だよ~~兄ちゃん今川焼き好きだもんね、はい」


 そう言って再び差し出すと兄ちゃは私の手からパクりと一口頬張る。

 兄ちゃんそのまま私と反対方向を向きムシャムシャと租借している。

 耳を真っ赤にしながら……。


 そんな兄ちゃんの姿を見て、私も少し照れ臭くなり、誤魔化す様に桜を見上げる……。


 桜と一緒に春の匂いのする風が私の鼻腔を擽る。

 兄ちゃんもたこ焼きを食べる手を止め桜を見上げていた。


 ヒラヒラ舞い落ちる桜がいつもより綺麗に美しく見える。

 一生の思い出に残るくらいに……美しく華やかに舞い落ちていた。


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