第14話 はる、大好きだああああ
「兄ちゃん、お出かけの件だけどさ、いいよ~~」
私は重くならないように軽い感じでそう返事をした。
「本当か!」
暗い顔で帰ってきた兄ちゃんは私のその一言で一気に満面の笑みに変わった。
「うん、でも流石に毎週とかは無しね、私もそこまで暇じゃないしさ」
「え……う、うん……そうだね」
そして少しまたテンションを下げて悲しそうな声でそう答える兄ちゃん。
……てか本気で毎週連れて行こうとしてたのか……ヤバ。
兄ちゃんの交遊関係に少し不安を感じるも、そこは妹の情けで取り上げずに話しを進めた。
「とりあえず私まだ兄ちゃんの後ろ乗るのに慣れてないから、あまり遠い所は無しね、あと出来れば日帰りで」
ちょっと上からかな? でもこれに関しては私が主導権を握らないと、歯止めが利かなくなりそうだしね。
「え、と……そうだな……、うん勿論そのつもりだったよ」
『嘘だ~~』って思わず口にする所だった。
絶対に毎週連れ回すつもりだった癖に……。
兄ちゃんはさも当たり前の様に、私にそう言ってきた。
「じゃあ……とりあえず……明日は?」
「えーーーー今日行って明日も行くの?」
早速か! まるで食い意地の張った犬の様だ。
もうガッツき過ぎるよ?
どんだけ私とのツーリング楽しみにしてるんだよ。
「あ、そうだよね、ご、ごめん」
兄ちゃんは怒られた飼い犬の様にシュンとなってしまう。
…………ううう、まずい、兄ちゃんのこういう態度って初めてだから、何かもっとイジメたくなる自分と、兄ちゃん可愛いって思う自分が同居する。
「えっと……うーーん、そうだ、明日はバイク無しでお出かけしない? ほらこれから何処かに行くなら服とか色々買いたいし、そうそう無線機があるって言ってたよね?」
買い物なら今までもちょくちょく行ってたし。
「え! ああ、あるよ、ありよりのありだよ、じゃあ……明日は色々買いに行くか」
本当にこの兄は私の事どんだけ好きなの?
小説読んでなければ完全に引いてたよ。
「うん」
私は兄ちゃんに笑顔でそう返事をした。
兄ちゃんはまるでスキップを踏みそうになる位嬉しそうに部屋に戻って行く。
その姿に私は思わずこめかみを抑え首を振ってしまった。
「うーーーん、なんか……なんだかんだで毎週一緒に出かける事になるんじゃないの」
不味いかも、なんか兄ちゃんに流されてる自分がいる。
これって結局兄ちゃんの思惑通りに進んでるんじゃないか?
そう一抹の不安を感じつつ、翌日を迎えた。
そして翌朝早朝、兄ちゃんと出かける前に日課の小説をチェックした。
案の定更新されていた。
▽▽▽
妹が初めて俺の後ろに乗ってくれる。
女の子を乗せるのはいや人間を乗せるのは初めてだ。
重りを乗せて練習したが今一心配だった俺は、一度友達に大型犬を借りて乗せた事がある。
散歩中自転車の後ろに飛び乗る犬で有名らしいのでバイクにも乗るんじゃないかと思い、で友達の家の土地で試してみた。
案の定その犬は俺の後ろに飛び乗って来た。
初めて生き物を乗せたがやっては良かった。
妹の体重は50キロ位だろうか? その犬も恐らくそれくらいだ。
やはり凄く難しい、重りとは全然違う。
更に犬だから思いもしない体重移動をしてくる。
恐らく人を乗せるよりバランスが取りにくいんじゃないかと思った。
だがこれは良い練習になるんじゃないかと、そう思った俺はちょくちょくその犬に練習を付き合って貰った。
そして当然バイク自体の腕も上げるべく練習も欠かさずに行い、妹を安全に乗せる為の準備は一通り終えた。
そして遂に今妹が俺の後ろに
「お兄ちゃん似合う?」
妹は革のライダーズジャケットとデニム姿を俺に見せつける。
「春は何でも似合うよ」
「えへへへへ、ありがとお兄ちゃん、今日は宜しくね、私ずっと楽しみにしてたの」
そういうと俺の用意したヘルメットを無邪気に被った。
春の可愛い顔が隠れてしまうのは残念だがその可愛い顔が万が一でも傷が付か無いように、フルフェイスのヘルメットにした。
「しっかり捕まれよ」
そう言うと春は俺の腰に手を回し身体を密着させる。
ああ、春の胸が俺の背中に…………一瞬天国に行きそうになるのを俺は堪えた。
そんな腑抜けて運転し万が一があってはならぬ俺はそう思い気合いを入れ直す。
△△△
わ、私は犬か! 私を乗せる練習に犬を使うって、動物虐待で通報するぞ兄ちゃん。
しかも人聞きの悪い! 私50キロ無いもん!
そしてやっぱりこれ……兄ちゃんの理想の妹なんじゃない?
全然私じゃ無い、春ちゃんめちゃくちゃ可愛い誰これ? って感じだよ
そして兄ちゃんまさかあの時私の胸、意識してたのか?
さ、さすがにちょっと、ううんかなりキモいんだけど。
やっぱり次行くの……止めようかなぁ。
一抹の不安を抱きながら私は続きを読んだ。
▽▽▽
「お、俺と一緒に行ってくれないか……」
一世一代の告白に妹は俯いたまま何も答えない、俺はそのまま何も言わずにただ妹を見つめていた。
妹はゆっくりと俺を見上げる。
恐らく数分だったのだろう、でも俺にとってその時間は何年にも感じられた。
そして妹は俺を見つめて笑顔で言った。
「うん……お兄ちゃんと一緒に……行きたい。私を連れてって……お兄ちゃん!」
妹はそう言ってくれた、やった、やった、やった~~~~~~~~
俺は飛び上がりそうになるくらい、叫びたくなるくらい嬉しかった。春ありがとう、ありがとう、ありがとう!!
可愛い春、俺の春、はる……大好きだあああああああ!
△△△
「ちょっ……」
兄ちゃんの喜びが全面に出ているそのバカっぽい文章に思わず絶句した。
そしてなんだろうこの素直な妹は?
当て付けか?
やはりこれは私じゃない……私は……あんな素直に返事してない。
やっぱり私はあくまでも取材対象なんじゃないか?
そう疑いたくなってしまう。
でも……この最後の文字、この二文字に兄ちゃんの本心が出ているかもと思ってしまった。
『はる……大好きだああああ』
『はる』
ひらがなで書かれたその文字は、春では無く、陽……私に言っているって……思わずそう思ってしまう。
兄ちゃん……私は兄ちゃんを思い浮かべる。
優しい兄ちゃん、いつも私を一番に考えてくれる。
頼りになるし、頭もいい……兄ちゃん、兄ちゃん、お兄ちゃん。
「兄ちゃん……」
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