第16話 理想の妹


「お兄ちゃんここの小籠包美味しいよ!」


「え、ああ、台湾の有名店らしいぞ」


「へーーー、チャーハンも美味しいね」

 私達は某有名中華店に入り、二人で適当に注文をし飲茶を堪能している。

 少し高いけど。味は最の高、さすが兄ちゃんだ。

 美味しい店を知っているなと感心させられる。


 ただ私は楽しく食事をしているのに、なんだか兄ちゃんはさっきから浮かない顔をしていた。


「どうしたの兄ちゃん、やっぱり佳那さんの事気になる?」


「え、そんな事ないぞ、ちょっと薄味かなって思ってただけだよ」


「そう?」

 いや、絶対に佳那さんの事を考えていたと思う。

 ……兄ちゃんひょっとして焼け木杭に火でも着いたか?

 

 私に気を使って急にニコニコし始める兄ちゃん。

 でもその笑顔はやはりどこかぎこちない。


 少し派手だったけど綺麗だったよな~~佳那さん……おっぱい大きかったし。

 兄ちゃんに分からない様にさりげなく自分の胸を見る…………はあ……これで高校生かよ。


 まだまだ成長期とは言え、身長は前から数えた方が全然早いし、一番前ではないぞ……2番目……くらい? 調子の良い日は?


 まあ、佳那さんが中学生の頃なら、そこまで差はなかったと思う。

 妹と言う身近な存在が兄ちゃんにとってプラスになるなら、佳那さんと私を比べた時に私を選ぶかも知れない……でも今だったら勝負は見えている。


 本当に小説の兄ちゃんは春ちゃんのの何処が良いんだろう? 

 仮にモデルが私だとして、性格だってそんなに良いとは思えないし、顔だって髪だって……地味だし……。


 本当に兄ちゃん何で佳那さんと付き合わなかったんだろうか、何度考えても疑問に思ってしまう。


 そもそも未だに彼女を作らないし。

 小説を書く為にモデルである私に遠慮しているから?

 でもそんなの彼女を作らない理由にならないよね?

 別に兄ちゃんに彼女が出来たって私との関係は変わらない……一生変わらないのだから。


 うーーん、兄ちゃんに彼女が出来たら私と一緒に旅行とか行きづらくなるから?

 私と一緒だと彼女が焼きもちをやくかからとか?


 兄妹に嫉妬するような人には見えなかったけどなあ。


「はる、どうした?」

 兄ちゃんは心配な顔でそう声を掛けてくる。

 しまった……今度は私が考え事をしてしまった。


「え! ああ、そろそろお腹一杯かなって」


「えーーー全然食べてないじゃん」


「あ、えっとそうそう、ダイエットダイエット」


「そんな細い身体でダイエットって、身体悪くするぞ?」


「うるさいな兄ちゃん、付いてるところには付いてるんだよ! 家に帰ったら見せてあげようか? 何なら今ここで!」

 私はそう言うと服を捲った。


「待て、服を捲るな、分かった悪かったよ!」


「分かればよろしい、でも残したら勿体無いからもう少し食べるよ、兄ちゃんも食べてね」


「え、ああ、無理しなくて良いぞ」


「うん……」

 そう言って私は残りの料理を一生懸命食べた。

 でも……さっきの事をまた考えてしない、全然味がしなかった。



 昨日今日と連続で出掛けて少し疲れたと兄ちゃんに言い買い物を途中d3切り上げ家に帰る。

 部屋に戻り着ていた服を脱ぎ部屋着に着替えようとした時また佳那さんの事を思い出す。


 部屋に立て掛けてある鏡に下着姿の自分が映っている。


 ……私はその貧弱な身体を見て思わずため息が出てしまった。


「はあ……マジで幼児体型……泣けてくる」

 家では下着姿で家をうろうろしている分けではないが、部屋着だとスタイルが出やすい。

 特に今まで気にはしてなかったから夏はかなり薄着で生活していた。


 兄ちゃんはそんな姿の私を見て……どう思ったのか?

 兄ちゃんの本意が分からない……それこそ本当に妹が好きなのかさえ疑う。


「見ない方が良かったのかな」

 今更ながら兄ちゃんの小説を読んでしまった事への後悔の念に駆られる。


 アタリマエだけど、今まで兄ちゃんと接してきてこんな事なんて考えた事なかった。


 私達の仲は決して悪くない、友達の兄妹なんて口も聞かないって事も良く聞く。

 中学生になってからは二人日帰りで少し遠くに出掛ける事もあった。

 舞浜にも何度も二人で行ったりした。


 兄ちゃんと出かけるのは楽しい、常に私に気を使ってくれるから。

 でもそれは母親が仕事で忙しいから兄ちゃんは親代わりとしてそうしてくれているってずっと思っていた。


 でもあの小説を読んで私の考えが少し変わった。


 兄ちゃんが少なくとも妹に興味があると言うことを知ってしまったのだ。


 兄妹なんだから結婚は出来ない……当然子供だって作れない。

 恋人にはなれるかも知れない、でも誰にも祝福はされない……一生隠し続けなければいけない。


 一生隠し続ける…………ずっと隠し続ける……続けていた?


 そうか……そうかも…………兄ちゃんは私の事に興味があることを隠す事に耐えられなかったのかも知れない。



 誰にも打ち明けられない、そんな想いが文章と漏れたのかも知れない。


 やはり兄ちゃんは妹が好き……妹に恋をしている。


 でも……兄ちゃんが恋をしている妹は、私ではない、春という妹だ。

 春は私に似ている……でも読めば分かる、私に似ているだけで私ではない……。


 兄ちゃんは春と付き合いたいのかも知れない……でも春は存在しない。

 これからも絶対に現れる事はない。


 自分の理想の恋人って誰にでもいると思う、いつかその理想の人に会えるかも知れない。


 でも兄ちゃんは一生会えない……春はこの世には居ない……今後現れる事もない




「兄ちゃん……兄ちゃんは春が好きなの?陽が好きなの?それとも……」


 私は春の代わりなの? お兄ちゃん…………。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る