第21話 次は泊まりで

 

 いつの間にか寝落ちしていた私は、翌朝起きると眠い目を擦りながら、スマホで兄ちゃんの小説を確認した。

 すると兄ちゃんからの返信が書き込まれていた。


 私は一気に目が覚めると、慌てて返信を見る。


 ▽▽▽



 感想ありがとうございます。

 これからもよろしくお願いいたします。



 △△△



 ……これだけかよ兄ちゃん……。




 定型文の様な兄ちゃんの返信にがっかりしたが、何事も無かった様に朝食を済ませ家を出た。

 とりあえず現状兄ちゃんとは別々に登校している。


 学校は家から歩いて行ける場所にある。

 まあそれで入学を決めたんだけどね、私が教室に入り席に着くと中学からの友達数人が集まってくる。


 いつもの様に他愛もない会話、私は基本聞き役でうんうんと頷きながら皆と会話する。


 その時、近くの男子が話している話題が私の耳に入って来る。


「最近さ、小説投稿サイトでさ、なんか面白いの見つけたんだよね」


「あー? またどうせ異世界だろ?」


「異世界意外おもしれえのあんの?」


「いや、なんかさ、妙にリアルな兄妹ものがあってさ」


「妙にリアルって?」


「いや、妹にメチャ惚れてるシスコンの兄貴がいてさ、同じ高校に入って来るとか超喜んでるシーンとかあってさ」


「それの何処がリアルなんだ?」


「いや、なんか最近その妹とバイクで出掛けたりしてるんだけどさ、なんか場所がこの辺なんだよ、この辺でバイクOKな学校ってうちぐらいじゃん?」


「そうなん?」


「まあ隠れてこそこそ乗ってる奴等は居るけどさ、堂々と乗れるのってこの辺じゃ、うちぐらいなんだよ、でさあ、なんか季節とかタイミングとかも正に今だしひょっとして……」


 そんな会話が聞こえてくるって、これ兄ちゃんの小説じゃん?!


「……はる……ねえ陽聞いてる? ねえったら」


「え! ああごめん考え事してた」


「えーーーもう、ほらこれ春物のワンピースなんだけどさ~~」

 そう言って私に意見を求めて来るも、私の全然耳に入って来ない。


 てか、兄ちゃんの小説の読者が同じクラスにいた! 兄ちゃんヤバいよ、兄ちゃんのペンネームの名前と私の名前でバレるよ!


  もう一度男子の会話に意識を集中したが、既に違う話しをしていた。

 ……ああ、その先が聞きたかった一体どこまで疑っていたんだろう……。


 どうしよう……お兄ちゃんに知らせてあまり詳しく書かない様に言う……いや、どうやって?


 そのまま授業が始まるが未だに内容が全く耳に入らない。


 私は悩む……うーーーん、どうしたらいい?


 書くな! とは言えないよね……そうすると。


 兄ちゃんと出掛けたりするのを止める?

  それだと家や学校での事をもっと書かれるかも……


 小説を終わらせる……私が見ているとバラす……うーーん、そうしたら兄ちゃん家出しちゃうよね……妹に妹が好きだ何てバレたら……


 私から告白して兄ちゃんと付き合う……

 いやいや、そんな事したら益々小説が……


 うーーーーん、多分行った場所が少し近すぎたんだよね、スタート場所がこの辺ってバレたって事だよね、だったらもっと遠くに行けば



 でも遠くへって、長い時間運転するのは無理があるし、私も後ろでずっとしがみ付くには限界があるし。


 だとすると……泊まりがけで行くしか。


 兄ちゃんとお泊まり…………べ、別に兄妹だし……付き合ってる訳じゃないし。

 変な事にはならない……よね?


 この間も関ヶ原とか言ってたし、兄ちゃん多分遠い所も言ってるんだろうし。


 そ、それに、色んな場所に行けば、兄ちゃんの小説の幅も広がる!


 そ、そうだそれしかない……た、ただの家族旅行だと思えば問題無い。

 ほら、仲の良い姉妹とかで良く旅行に行く動画やブログなんて見るし、其と同じだと思えば……。


「……おい、……おーーーい」

そう考えていると、私は誰かに呼ばれているのに気が付く。


「えっと、何?」

 そう言いながらその人物を確認すると、の前に兄ちゃんが! 

 あれ? いつの間に家に? って辺りを確認するとまだ学校内だった。

 しかも私の教室……えええ! 兄ちゃんクラスに入って来ちゃったの?

 ヤバいよ兄ちゃん、私たちの事がバレ…………あれ?


「はる、一人で何してるんだ、帰らないのか?」


「あれ? 授業は?」


「授業って……とっくに放課後だよ、俺ちょっと先生の手伝い頼まれて、そこ通ったらはるがボーーっとしてるから」


「え? あれ? お昼休みは? あれ?」


「何言ってるんだ? とっくに放課後だって言っただろ?」


「えーー!」

 な、何? 私……時をかけちゃった?

 兄ちゃん、新しい小説が書けるぞって、ネタは使い古されてる。


「大丈夫か? ちょっと心配だなぁ、俺これ先生に届けたら終りだから一緒に帰ろう、ちょっと待ってろ」


 そんなわけのわからない考えが湧き右往左往している私を見た兄ちゃんは、真剣に心配し始め、そう言って持っていたプリント数枚をヒラヒラさせて教室を出ていく……


「私……何時間考え事してたの? って言うか誰か声かけてよお」

 いや多分声はかけられたんだろう、なんか生返事をした記憶がうっすらと頭の片隅に残っている。


「あーーやっちゃった……絶対変な奴って思われちゃってるよお、 もう……兄ちゃんのせいだあああああああ!」

 私は一人教室でバンバンと机を叩いた。


 ###



  なんとか気を取り戻し、放課後兄ちゃんと帰宅する。

 兄ちゃんと学校から一緒に帰るのは初めてだ。

 まあ兄妹だし別に変じゃないけど、あんまり仲良くしてると、小説に疑いの目が。


「ねえ兄ちゃん、今度のツーリングなんだけど……」

 家に入ると私は早速兄ちゃんに次の予定に付いて話を振った。


「おお、今度はな、都内とかどうかと思ってるんだよ、まあ詳しく言うと面白くなくなっちゃうからさ、そんなに時間もかからないしさ」

 嬉しそうに、心底楽しそうに話す兄ちゃん……言えない、中止処か延期って事も言えない。

 そもそも中止にしたらしたで、小説は日常の話しが書かれちゃうだろし。

 今日の事なんて書かれたら本当ヤバいよね? 妹がクラスでボーッとしていたとか。


「ねえ……兄ちゃん……えっと、今度はもっと遠くに行こうか……例えばさ泊まり掛けとかで」


「え、えええええええ!」


「そ、そんなにびっくりする?」


「いや……だってはる、こないだ関ヶ原の話をしたら乗り気じゃなかったから、しかも……泊まりって」


「嫌?」


「全然、全然嫌じゃないぞ! 問題無い、バッチ来い」


「バッチ……いつの時代の人よ? えっとじゃあ……週末泊まりで宜しく」


「お、おお、分かった」

 兄ちゃん少し戸惑いながらも、嬉しそうにそう言って承諾した。


 とりあえずこれで一時的には特定されないと思うけど……。

 今後どうするかだよね、まあ最悪バレても知らない振りをしておけば良いかな?


 期待と不安……色々な思いが入り交じる。

 

 今週末のツーリング……一体どうなるんだろうか?。


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