「それでも、好きだから」
体感は木曜日なのに実際は月曜日。週7日のうち2日を休みにした人間は割り算が出来なかったのだろうか、と思う今日この頃。
いつもなら学校が終わればすぐに家に帰って動画でも見るのだけど、昨日のこともあってかそんな気にはなれなかった。
一日考えて、結局結論は出ないまま。ただ、もうみゆりさんは諦めるしかないと、そんな気がしてる。そうやって、諦めきれないからずっと言い聞かせて、現実から目を背けていた。
校門まで歩いていると懐かしい声が俺を呼ぶ。
「ねえ晴人、今ちょっと時間いいかな?」
振り返ると、太陽のような笑顔が特徴の女の子、
「いいよ。どうしたの?」
背が高くて少し褐色肌の芽依花は、目を細めて首を傾げる。彼女の、笑みで他の感情を隠すときの癖。
「
建って言うのは山内のことなんだろう。俺は下呼びになるまで数ヶ月もかかったのに、と気づけば傷心している。
でもそれ以上に芽依花は傷ついているようで、声も手も細かく震えてる。初日であそこまでしておいてスキンシップが激しいって何言ってんだ。
「私から振ったの。晴人が、どれだけ私を大切にしてくれてたか、よく分かってなかった。ごめん、私、出来れば晴人とやり直したいって思ってる」
視界が歪んでいる気がした。毎度のことながら、俺の声は掠れて消える。俺を振っておいて、山内と馬が合わなかったから別れて、数日後にまたよりを戻したい? 無い話ではないんだろうけど、ふざけてる。
「虫がいいのは分かってる。でも、私、晴人が好きだから、また、付き合って欲しい」
2日連続で告白されるなんて、モテ期でも来ているのだろうか。未練はあったはずなんだけどな……今は、心の底からどうでもいい。
「俺、好きな人できたんだ。ごめん」
皮肉にも、芽依花が俺を振ったのと同じ理由。恨みや妬みがあったわけじゃないが、心残りを解消できてすっきりした。
「そっか……どんな人?」
「芽依花に振られて泣いてる時に励ましてくれた人。片想いだし、もう報われないけど」
自慰的な笑みとともに、不気味な嘲笑が漏れる。
「報われないなら、なんで……」
「それでも、好きだから」
それだけは曲げてはいけない気がした。断ってから気づく。亜美さんの告白には瞬時に答えられなかったのに、芽依花からの告白には案外すんなり断ることができた。何が違うのか。
俺が言い切った後、運悪く校舎の影から男の影が姿を表す。その男は––––。
「あれっ? 芽依花じゃん。と、誰だっけ、
どうも何とかです。と、出てきたのは山内。噂をすれば影がさすとはよく言ったものだ。山内はごく自然に芽依花に話しかける。
「何してんの?」
「別に、なんでもないよ。あっち行ってて」
「あー、何、告白でもしてた? ごめんごめん」
嫌味のように笑いながらこっちに歩いてくる。振られた女にここまで嫌らしく接するのが女たらしたる所以。無理矢理俺と肩を組むと、そのまま芽依花に背を向ける。
「告白されたんだろ? 俺の使用済みで良ければ楽しんでくれ」
クソうぜぇ。みゆりさんに出会ってなければ退学沙汰になるところだった。
「いや、もう芽依花に興味は無いよ。告白も振ったし。そうだ、あの動画消してやれよ」
「あれか、いいぜ。一回ヤれたから用済みだし」
山内はなんの抵抗もなく俺の目の前で動画を削除していく。あの動画を送ったのは俺だけだったみたいで芽依花に何か起こるはなさそうだった。
「貸し1つな」
「それでいいよ」
俺に貸しを作ったところで大したメリットにならないだろう。山内は「末永くー」なんて言いながら去っていった。
「何の話してたの?」
「大した話じゃないよ。それで、まだ何か?」
芽依花はキッと俺を睨む。
「なんか、晴人変わったよね。前はもっと優しかった」
「そうかもね」
そりゃ付き合ってたからな。とは言わず、波風立てずに端的に返す。
「正直に答えて欲しい。私のこと、嫌い?」
「嫌いじゃないよ。でも、魅力は一切感じない」
芽依花とよりを戻すなら、まだ亜美さんと付き合う方がいい話のように思えた。
「そっ、か……。ありがとう」
最後の質問はありがたかった。俺の心の整理もついたし、芽依花も俺に未練なんて無くなるだろう。
瞳に涙を浮かべて、彼女は背を向けて走っていく。胸がチクリと痛んで、下唇を強く噛む。
「なんか、失恋ばっかだな……」
俺はスマホを開いて、亜美さんへ週末に返事をしに行く旨を知らせた。
見上げた空は、まだ青い。
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