第5話 復活と演奏会⁉
「くーるみっ!」
「わぁっ!」
急に呼びかけられて起き上がると、すぐ横には陽ちゃんがいた。
「熱、測って?」
かずかずにも言われる。よく見たら、周りはイケダリフォートップで囲まれていた。
こんなの高校生に見られたら、殺されるぅ!
「う、うん」
つばっさーに手渡された体温計を、脇に差し込む。
「顔を見た感じ、戻ってるけど」
「生命力
そんなことを言われながら半分うとうとしていると、
チリリリリッ、チリリリリッ
と電子音が鳴った。
そろりそろりと、体温計を取り出す。
バッと体温計を見ると……。
35.3度!
やったぁ!!
「あれ? さっきまで生命力の塊じゃなかった?」
「超低いじゃん」
「えっ、ダメ?」
条件は達成したよ?
「いや、別にいいけどさ」
大和くんに言われて、ガッツポーズをした。
「じゃっ、いこー!!」
ピョンッとベッドから飛び上がり、無事地面に着地。
スキップ、ルンルン気分で保健室を出たけど。
「……あれ? どっちだっけ?」
みんなはもう先に行っている。あっち?
でもあっちには音楽準備室があるような気が……集まりは部室だよね?
「3人は準備室に楽器取りに行くの。俺らはこっち」
首根っこを意外に優しく掴まれて、私はつばっさーに引きずられるようについていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
部室で待っていると、やっと三人がやってきた。
「おう、おまたせ」
「歌っていい⁉︎」
私の喉がうずうずしてるの!
「その前に話があるんだ。胡桃ちゃん、ちょっとだけいい?」
「え……? いいけど……」
かずかずに急に真剣な面持ちで言われたから、なんだろうと心配になる。
「大事な話なんだ」
「うん」
部室の冷たい白い床に正座する。
※さっきまで体調不良だったんだから悪化させるようなことしないで!
「胡桃ちゃんは……やる気はあるの?」
「ありますっ。おおありのありです!!!」
あのダミ声を早くなんとかしたい!
「じゃあ、来月の演奏会でてくれる?」
「はい!」
自信満々に答える。
答えたけど……あ、れぇ……⁉︎
「今、来月って言ったぁぁっぁあ⁉︎⁉︎」
よく聞いてなかったぁぁぁ!!
来月に演奏会なんてあるの⁉︎
「言ったよ」
陽ちゃんが珍しく冷静に言う。
来月なんて無茶だよ!
でも歌いたいなぁ……。
「胡桃にとってはキツいかもしれないけど、俺たち軽音楽部は声のせいで甘く見られてるんだ。だから、この演奏会で見せつけて、知名度上げた状態でコンクールに出たいんだ」
つばっさーが真剣に言う。
これだけみんな、真剣なんだ。
私だって、やるって決めたんだもん。
それに、追い打ちをかけられる。
「やるなら当日ストロベリーホイップフローズン3個買ってやるよ」
ストロベリーホイップフローズン⁉︎
「やるっきゃないよ!」
「胡桃ならそう言ってくれると思った!」
大和くんも笑顔を見せて、頭をくしゃくしゃしてくる。
「そうと決まれば練習練習っ!!」
「やるー!!」
全員笑顔で、このみんなはサイキョーの部員だなって、どこか冷静に考えてる私がいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「じゃあ、本当だったら基礎練からやるけど演奏会まで時間がないから、まずはこの楽譜読んでくれ。読めるか?」
「読めるよっ」
これでも一応絶対音感あるんだよ!
渡された楽譜は、昨日聴かされたあの曲だった。
「できた! だいたい歌える」
決して上手いとは言えないけど、頑張りたい!
「よし、
「うん!」
「じゃあまずは最初のとこ、四小節行くか」
「はいっ!」
やる気だけは満タンです!
「よしっ、頑張るぞぉ〜、」
「「「「おーーー!!!!」」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁっ、はぁっ……」
「お疲れ様!」
一時間のドトーの練習が終わり、地面に倒れ込んで足を崩して土下座する。
※「ひれ伏す」が適切だね!
何回も同じところを歌わされた上に声が小さいって言われるし、お腹から出したら喉が壊れて声が出なくなっても出せって言われるし、もう本当に怒涛だった。
「よく頑張ったな」
「これだけできるのはすごいよ」
大和くんとかずかずから褒められて、口元が綻んでしまう。
「よっしゃ、ストロベリーホイップフローズン買いに行くかー!」
「僕はいらない」
「正気ですか⁉︎」
和やかな会話を交わしながら、部室を出た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ぴーん……ぽーん……
コンビニという娯楽へ入ると、気の抜けたチャイムが鳴る。
また来ちゃった〜〜〜!!
と嬉しくなったのも束の間、なんか視線を感じるような……?
「あの男の子たちかっこよくない?」
「女子も可愛いだろ」
おそらく二十代のカップルが、私たちを見ていた。
ふぇっ、女子も可愛い⁉︎
「ちょっと、あの女の子に惚れた⁉︎」
「先に言い始めたのお前だろ!」
二人は取っ組み合いを始めてしまっている。
「人の未来をも変えられる可愛さがあるんだから、演奏会も楽勝だな!」
陽ちゃんが頭の後ろで手を組んで、コンビニの中で大声を出す。
「ちょっと、陽ちゃん⁉︎」
慌てて後ろを見るとそこに女性はもういなくて、男性の方が頭をくしゃくしゃとして、虚しそうにみんなを見ていた。
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