第17話 結局三人で歌詞暗記⁉

 放課後になって、家に帰ろうとしたけど。


「優弥くんに時間聞かないの? 今日やるんでしょ?」


 としっかり者の七羽に言われて、思い出した。

 ありがとう、七羽っ!


「優弥~!」

「んっ? なぁに?」

「今日中に歌詞覚えろって言われてさ……」

「あ、そうなんだっ。じゃあ今日やる?」


 優弥の席の方に行くと、なぜか智紀もついてくる。


「なによ智紀っ」

「俺、優弥と帰る予定だったから。でもさ、雨降ってるくね?」

「あ……それじゃあ、公園ではできないね……」


 あからさまに優弥が落胆している。


「じゃあ、私の家でやる?」

「いーや! 俺の家でやろう!!」

「え? なんで? っていうか、二人押し掛けて迷惑じゃない?」

「俺もやる!」


 という智紀のゴリ押しで、智紀の家でやることになった。

 なぜか、勝ち誇ったような顔をしている智紀を見て優弥がムスッとしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お邪魔しまーす……」


 久しぶりの智紀の家。

 なんかコウロギになってる気がするな……こまめに掃除してるのかな?


 ※たぶんだけどコウロギじゃなくて小綺麗こぎれいだと思うよ……。


「あっ、胡桃ちゃん、いらっしゃい!」


 リビングの方から、おばさんが顔を出した。

 智紀のお母さんだ。


「お久しぶりですっ。なんか前より綺麗になってますよね……?」

「そうなのよ。智紀が胡桃ちゃんがいえにき……」

「母さん黙って!!」


 え? おばさん、なんて言おうとしたんだろう?


「優弥くんもいらっしゃい。智紀の部屋でいいわよね?」

「はいっ。ありがとうございま~す」


 それぞれおばさんへの挨拶を終えると、智紀がその場にうずくまる。


「はぁぁぁぁぁ~……マジキョドった……」

「キョドるってなに?」

「挙動不審になったってことの略称だよ~」

「挙動不審ってなに?」

「え?」


 ※落ち着きのない立ち回りのことだね。立ち回りの意味? そんなとこまで聞かないでね……?


「じゃあ行くか……」


 なんか智紀、めっちゃくちゃ疲れてるね。

 なんでだろ?

 大和くんといい智紀といい、みんなおかしいな?

 ドアを開く。


「智紀の部屋は、相変わらずだね~」


 ほこりとかそういうのがないのはいつものこと。

 でも物は少ないんだよね。

 全部一つの棚にしまってあって、あとは勉強机とベッド。


「あ~っ、ベッドだぁ!!」


 そう言ってダイブ……は失礼かな、って思ったから、座る。


「「⁉」」


 智紀と優弥が同時に驚いた瞬間、


「お菓子持ってきたよ~」


 とおばさんが部屋に入ってきた。


「あっ、胡桃ちゃん懐かしいわね~。5年前はここで智紀と一緒に座って歌ってたわよね~」

「え⁉」


 優弥が驚く。


「俺らは数年前は……ボソボソ」

「なにそれ、まじよくないって……ボソボソ」


 何か二人でナイショ話してるんだけど……?


「あ、胡桃ちゃんごめん!」

「やるかっ」


 なんか二人のペースに振り回されてる気がするんだけど……?


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「だから、次は『サイダーのようにはじける』だって!」

「い~やいや、次は『サイダーの泡が消えていく』だから~!」


 目的は私が歌詞を覚えるためなのに、なぜか二人で対決してるよ……?


「じゃ、見るね~」

「「ダメぇぇぇぇ!!!!」」


 自分の負担を少しでも軽減するためにノリにのって見よっかなって思ったんだけど、ムリか……。


「ほら~。はじけるの方だぜっ、18対15な~」

「くっそ……次は絶対取るよ!」

「じゃあ胡桃。二番から歌ってみて?」


 うっ……。

 智紀がニヤッてしながら聞く時って絶対に私、歌詞覚えてないんだよね。


「智紀っ、胡桃ちゃんがかわいそうだよっ!」

「ハイハイ教えてあげますよ~」

「やだっ、僕が教える!」


 なんでちょっとケンカしてんの?

 ちょっとさっきから疑問形が多すぎてよく分からないんだけど……?


「じゃあ二番の二小節覚えるか」

「ここはラップから入るからラップからやった方がいいんじゃない?」

「そうだな。

 炭酸イコールサイダーなんだよそんな決めつけマジやめて?

 サイダーと炭酸はね、漢字と外来語っていう壁がありまして

 炭酸を英語で言うとサイダーなんですよねぇこれ~。

 え一緒だって? そんなこと言わないでよ~照れるじゃん~

 なんだこの歌詞」

「わかんない……」


 しかもこれをさ、四小節の中で全部言わないといけないんだよ。

 曲じゃなくない?


「じゃあ胡桃、言ってみて?」

「はいっ。炭酸イコールサイダーなんでしゅああ~」

「なんで敬語になるの? ハハハッ」

「え、笑われたんだけど~」


 和やかながらも全く歌詞暗記が進まない。

 もう始めてから1時間経つんだけど……。


「炭酸イコールサイダーなんだひょ……」

「え?」

「もうさ、アドリブで良くね?」

「は?」


 私は体育祭を思い出す。

 そうだよなぁ……実況も、アドリブで上手くいったし……。


「ちょっと俺、百航先輩にボーダーしてみる」

「えぇっ、智紀、あの百航先輩とボーダー繋いでるの⁉」


 あ、そういえばまだ優弥のことぼーだー繋いでなかった。追加、っと。

 そっか。優弥はかずかずたちイケダリフォートップとそんなに接点ないからなぁ……。


「体育祭の時に、実行委員だったから」

「そういうことかぁ……」


 これには優弥も納得。

 いつの間にボーダー繋いでたんだ……。


「あ、返信きた」

「はや⁉」

「『逆にそっちの方がいいと思ってた』だって」

「えぇ⁉」


 ちょっと驚きすぎて言葉が出ないよ……!

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