第18話 演奏会前日は推しの似顔絵大会?

「ん~、ちょーっと違うな……」


 びっくりなことに今日は、前日の朝にも関わらず、演奏会の宣伝ポスターを作ってるんだっ。


 昨日までずっと曲の練習をしてたんだよね……三日間家での歌詞暗記レッスンは続いて、やっと昨日覚えきることができたんだ!


 音楽準備室……ではなくおんぼろ部屋に集合……したんだけど。

 絵が上手い彩里、七羽、莉乃ら三人も一緒に来ている。

 多分ね、イケダリフォートップ目当てだと思うよ。


 ※前、七羽ちゃんにおんぼろ部屋って教えてもらったんだよね。少しだけ国語のテストの点数が上がったかも?


「翼先輩の似顔絵、ホンットーにダメですか?」

「ん~、どうしよっかなー」

「俺はいいぜっ☆」

「陽太先輩は別にいいです」


 この1時間ですっかり仲良くなった7人。

 七羽もずっと一緒にいるからなのか、口が悪くなっている。

 っていうか七羽とつばっさーって仲良いよね。体育祭からかな?

 なんでみんな、自分の推しの似顔絵しか書きたくないの……?


「これでいいの?」

「もちろんですっ!」


 彩里がかずかずをギターを持たせて、立たせている。

 シャッシャッと鉛筆を動かす音が響く。

 かずかずがモデルになってるね。表情が一ミリも動いてないの、尊敬する……かも。


 そういえばね、かずかずの捻挫はまだそんなに治ってないらしいけど、誰かの肩を借りれば少しずつ歩けるようになってるんだって。

 演奏会は明日だけど、ステージに上がって楽器の演奏をするくらいなら問題はないらしい。


 できれば治って欲しかったけど、さすがにまだ全然時間が経ってないし難しいよね。

 ここまで治っただけでもすごいと思う!


「大和先輩っ。もうちょっと、バチをこう……そうですっ」

「あと何分こうしてればいいの?」


 莉乃の指図に、大和くんからグチが飛び出す。

 だって今見てたらさ、バチ動かしたのたったの3センチくらいだったよ。そりゃめんどくさいって!!


 そんな中私は、黙々とイケダリフォートップの姿を想像して書いている。

 勉強は全くできないしするつもりもないけど、音楽とか美術とか、創作系は得意なんだよねっ。マルとかバツとかないから。


 私が想像しているのは……なんか華やかな場によくある天井にくっついてる銀色のボールのやつがあって。その下で大和くんがドラム、陽ちゃんとかずかずがギター、つばっさーがベースをやっている状況だ。


 あれ、そのままだね? わざわざ楽器の説明しなくても良かったかな?


 ※華やかな場によくある天井にくっついてる銀色のボールのやつは『ミラーボール』って言うんだよ。


「あ~っ、できた!」


 一応、ミラーボールも楽器も4人も描けたよ!

 画力には自信があるんだ~。


「すごー! ちょっと胡桃、見せて~!」


 莉乃がそう言って寄ってきたから、下に置いて見せる。

 すると、他の全員も私の絵を覗き込んだ。


「えっ、上手いんだけど!」


 と莉乃。え、嬉しい。


「俺の魅力が溢れ出てるぜ!」


 と陽ちゃん。相変わらずジョナゴールド高いね。


 ※いや、なんでリンゴの種類を知ってるわけ? 多分ね、自己肯定感って言いたかったと思うんだけど、英語の肯定文と否定文と疑問文の見分けがつかないような人はわかんないよネ。


「俺がかっこよく描かれてて照れる……」


 あれ、もしかしてかずかずって照れ屋さん?


「いや、かずかずの包帯描かれてなくね?」


 とツッコミを入れる大和くん。


「別によくない?」


 と牽制けんせいするつばっさー。


「えまって翼先輩かっこいい可愛いマジ神……ハッ」


 七羽、超小っちゃい声で言ってたから、周りにはそんなに聞こえてないと思うよ多分。タブン。口を押さえてる七羽も十分可愛い気がするよ。キガスル。


 ※曖昧あいまい過ぎるにもほどがある。


「陽太先輩キラキラ~~~!」


 周りのことなどお構いなしに陽ちゃんを褒めまくる彩里。


「なんで胡桃はいないの?」


 急に、大和くんがそう言って来た。


「え、私は別に顔いいわけでもないしどこかすごいってわけじゃないから、イケダリフォートップのみんなだけでいいかなーって……」

「…………」


 シーンとする部室。

 な、なんで?


 私は要らないと思ったから書かなかったんだけど……。

 そう思っていると、かずかずが私の耳の方に口元を寄せて、


「多分ね、大和は体育祭の時の借り物競走のお題……」

「かずくん黙れぇぇぇぇえ」

「ふぐっ」


 机の反対側にいた大和くんが軽々と机を飛び越え、かずかずに飛びついて口を塞ぐ。


「大和くんっ。なんか智紀に似てない?」


 何日か前の智紀のキョドった? ってやつと似てる気がする~。


「……そうか?」


 なぜか大和くんは、悔しいような嬉しいような顔でそっぽを向いたのであった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 大和Side


 ポスターが決まり、無事に胡桃のボーカルの姿も描き上げて、学園のポスター掲示のところに貼って、ほっと一息。

 今はかずくんと一緒に歩いている。


「智紀と似てるって言われるとさ、内心すっごい複雑になるんだよね」


 かずくんが唐突にそう言う。

 それ……俺も思ってたんだよね。


「分かるっ。なんかさ、智紀と似てるならちょっとは好かれてんのかな、でも智紀との接し方とはちょっと違って悔しい~っていう感情になるんだよね」

「結局はさ、智紀のことを胡桃ちゃんがどう思ってるかだよね」

「そうだよな……」


 はぁ~とため息を吐く。

 本当に、あいつは鈍感だ。

 俺とかかずくんとかのまだ薄い感情とか、智紀の胡桃に対する特別な感情とか。

 そういうの、全く気づいてないよな。


 いつでも元気で溌剌ハツラツとしている陽ちゃん。

 無口な方だけど優しいつばっさー。

 基本的に誰にでも優しくてふわっとした雰囲気だけど、スイッチが入ると止まらないかずかず。

 鈍感すぎて何もできないけど……少し可愛い、胡桃。

 そして――俺。


 こんなんで、うちの部活は大丈夫なのだろうか……。


「とりあえずはさ……明日の演奏会を終えて、軽音楽コンテストを終えてからだよ」

「そうだな……」


 これからもまだまだ、俺たちの怒涛の毎日は続いていく。

 友情だったり、恋愛感情であったり、男づきあい、部活、勉強。

 やることはたくさんあるけれど、みんなでなら……乗り越えていける気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る