第4話 人生初の体調不良。

 翌日。

 朝一番に入部届をもらって書いた。

 もっちろん、インカンも持ってきたよ♪

 よし!


 だって今日からあのストロベリーホイップフローズン食べられるんだよ⁉︎ 昨日食べたけど美味しかったなぁ……!


「ほ〜ら、こっちの世界に帰ってきな」

「わわっ、ごめん!!」


 そうだ、今は昼休みだ。

 昨日のあの一件のおかげで、昼休みに毎日付きまとわれることもなくなった。

 なくなった。

 なくなったんだけど……ね。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あれだよ」

「わー、男子は可愛いって言ってたけど、ちょっと地味じゃない?」

「髪の毛下ろしてるしさ」


 廊下側の席でお弁当を食べていると、窓の向こうから、そんな声が聞こえて来た。

 ちらっと見ると……先輩だった。

 制服のリボンが中学生の赤じゃなくて緑だから、高校生。

 上履きは青色だから、1年生だ。


「芦田くんと一緒にいるとか、ずるすぎない? 三個も年下なのにさ」

「それ思った! しかもイケダリフォートップ全員一緒にいるんだよ。私たちも軽音楽部入んない?」

「友達が言ってたよ。部室の前に行くと、中が急に静かになって、ドアで見えてないのに視線で圧倒されて、入られる感じじゃないんだって」

「あの子どうやって入部したんだろう?」


 悪口と疑問が、右側からいっぱい聞こえてくる。

 やっぱり、イケダリフォートップは全員に人気なんだ。


 クラスの子たちは、四人が私を迎えにくる時に教室に入るだけで満足してるそうで、逆にお礼を言われるけど、他の人はそういうこともないから羨ましいらしい。

 やっぱり、他のクラスの子とも、先輩も仲良くしたいけど、難しそうだ。


「ほ〜ら、気にしない気にしない! 部室に入る度胸がないあの人たちが悪いんだもん」

「イケダリフォートップは人気者なんだから、しょうがないと思った方が気が楽だと思うよ」

「あんな奴らなんて無視しちゃお! ガチで、悪口言って満足するのって子供だよね!!」

「ちょっと、莉乃声デカい!」

「あっ、ごめ~ん」


 彩里も七羽も莉乃も、それぞれの意見で励ましてくれるけど、私のガラスのハートには届かない。


「まぁ、ホントに気にしないことだよ。悪いのはイケダリフォートップなんだから」

「うん……」


 あー、頭がふわふわする。この現実に居たくなくなったからかな?


「あれっ、胡桃? ちょっと~? まだ昼休み中だし、食べ途中だよ⁉」

「いや、普通に寝てるわ」

「こりゃダメだ」

「胡桃の現実逃避力尊敬する」

「それな」


 そんな和やかな会話を聞きながら、私は眠りの世界に引き込まれた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「……さすがにムリだよ、あいつを出させるのは」

「でも、また呆れられる。次回でいいのか? 来年だぞ?」

「でも……あいつの負担になるって。きっと今回もそのせいだ」


 緊迫した空気に、目が覚めた。

 あれ……? ここ、どこ?


 起き上がった時のふかふかのベッドがきしむ音と、三百六十度囲まれているカーテンを見て、ここが保健室だということが分かった。

 私、なんでここにいるんだっけ?

 確か……お昼ご飯中に寝ちゃったような?


 でも、寝たんだったらみんなが起こしてくれるはずだよね……?

 シャッ

 カーテンが音を立てて開いた。

 入ってきた人を見ると、大和くんだった。


「あれ、大和くん。私、なんでここにいるんだっけ?」


 他に誰の気配もしなかったから、大和くんに聞く。


「俺らが昼休みに練習に迎えに行こうとしたら、お前が寝てたからさ。やけに顔が赤いなって思ったからおでこで確認したら、熱あって」

「えっ、熱?」


 私は元気でパワフルだから、今まで体調フリョーなんてなかったのになぁ……。

 っていうか、イケダリフォートップの誰かは知らないけど、おでこで確認されたの、私⁉


「そろそろ昼休みが終わる。今日は寝とけ。完全下校の十分前に迎えに来る」

「えっ? 私大丈夫だよ? 部活の時間には治るって」


 今までこんな風に体調崩したことなかったから、すっごい身体も頭もふわふわするけど、まぁすぐに治ると思うんだけど?


 ※けどけどうるさいなぁ。


 次は体育で好きな教科だから、行きたいんだけど。

 私はベッドから降りようとしたけど、悟ったのか大和くんに制止されてしまった。


「とりあえず寝とけ! 放課後になったら四人で迎えに来る。その時に熱が36.3度以下だったら部活やるぞ。部活行きたいならそれまでに治せ!」

「ええっ⁉ ムリムリ! 私の平熱0.4度上だもん!」

「そんなの知らね。とりま治せ」

「はぁい」


 私に対して強気で言った大和くんに驚いたけど、もう考えられなくなった。

 さっき何を話してたんだろう? って考えながら、大和くんの前でまたうとうとしてしまった。

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