第12話 前々日準備は安心できず。
「胡桃ー、すのこもう一個運んでくれる?」
「いけまーす!」
「胡桃ちゃん、こっち手伝ってくれない?」
「りょーかいっ!」
前々日準備。
この学園では、明日は幼稚園生と小学生の運動会、明後日で中学生と高校生の体育祭が開催される。
同じグラウンドを使われるから、私たちは幼稚園生と小学生、通称下級部の準備をしないといけない。
高校生の募集定員は240人、中学生の募集定員は160人、小学生の募集定員は120人、幼稚園生の募集定員は80人。
唯一小学生だけが受験が無く、抽選だ。
だから、6×(120+80)で……うーん……。
ん? あー……1200? 人分のすのこ。
※幼稚園生は年少、年中、年長で構成されてるから、120×6+80×3=960人だよ。このくらいの計算はいくら中一だからってできるよねっ? ねっ???
全員で協力してすのこを運んでるから、そろそろ終わりそう!
1つのすのこには6人座れるから、人数分ってわけじゃないけど。
「よーっし! 終わりだぁ! すのこお疲れ~!!」
陽ちゃんが叫んで、すのこ運びが終わった。
疲れたぁ……。
「次は入場ゲート作るよ~。実行委員は倉庫前に来てください! ……って、」
かずかずがメガホンを通して言う。
次の瞬間……かずかずがいるところが、グラウンドの砂ぼこりに巻き込まれた。
「わぁっ!!」
もう一度目を開けた時には、かずかずから遠い私の周辺までめっちゃくちゃ風が吹いている。
「ああああああああー!!!!!!!!!」
という絶叫が、かすかに聞こえるような?
目を開くと、遠くの方にいるかずかずが、斜め上に向かって手を伸ばしている。
その先には……実行委員の手先が器用な女子たちが作っていた、入場ゲートにぺたって貼る予定の紙の花だ!
※ペーパーフラワーって言うんだよ。
それも十個くらい宙に舞っている。
作っていた女子たちも呆然だ。
紙の花は私たちからどんどんどんどん離れていって、すのこを乗っけていた台車を片付けようとしていたつばっさーのもとへ。
もとへって言っても、頭上3メートルくらいなんだけど。距離もまだ10メートルくらいあるし。
誰もが諦めた――その時。
ガラガラガラガラ~ッ
遠くの方から台車の音が聞こえる。
見てみると、強風にあおられながら台車に乗ってスケートボードみたいに速度をつけているつばっさーの姿が。
「えええええ⁉」
サポートのために遠くから全力疾走で風をよけながらつばっさーの方に向かう大和くんも。
目が合った時には意思疎通ができていたようで、つばっさーは台車の手すりを蹴り、大和くんは速度を落とさないカツレツ台車が倒れないようにちょうどいい角度で台車を傾けた。
※カツレツじゃなくて「かつ」ね。あれもこれも同時に、って意味だよね。
「ふぉぉぉぉっ!!」
つばっさーが今までに出したことのない声を出す。
そして陽ちゃんは自力で走って来て自力で小学校の正面玄関の階段を蹴って跳び、二人して宙に舞った。
「ほわぁ……陽太くんかっこいいっ!」
「あんなアクティブな翼くん初めてじゃないっ⁉」
「大和くん、数学が得意なだけあってめちゃくちゃ翼くんが跳びやすいようにしてるよねっ?」
強い風の中お互いを支え合って、イケダリフォートップに興奮する女子たちがいる。
この状況でよく語れるね……?
そして遅れてかずかずもはぁはぁと言いながら台車の方へ。
大きな木の幹を蹴って――掴んだ!
……とはいかず、そのまま地面へ一直線。
ドサッ。
かずかずが落ちた音と同時に、5個ずつ紙の花を持った二人が着地した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アハハ……情けないね……」
ここは保健室。
暴風が通り過ぎてもなかなか立ち上がらないかずかずを私が見に行ったら、落ちた時に見事に足を捻挫していたそうだ。
「でもまぁ、ペーパーフラワーは確保できたし、別によくね?」
「かずかずは体育の授業で鍛えよっか」
大和くんはかずかずを励ましているけど、つばっさーはいつになく毒舌。
あ、あの紙の花、ペーパーフラワーって言うらしいね。
つばっさーは勉強第一とかかと思ってたけど、運動もめっちゃ得意らしい。
あとから聞くと、中学生の時は運動能力検定で満点をとっていたそうな。
本人は運動が好きじゃないみたい。
もちろん、陽ちゃんも大和くんも満点をとってるらしいけどね。
「これからはそんなに無理すんなよ?」
陽ちゃんがめっちゃ優しい。
え、なんで?
いつもだったら、「ふんっ、俺運動得意だからあんなの楽勝だもんね~。あ、つばっさーが持ってたペーパーフラワー5個も取れたけどな~」と自慢しそうなところ。
「うん……でも、今は歩くのが結構キツいから、体育祭は難しいかもしれないね……」
「……そっか」
息を吐くようにさらっと言うかずかず。
想定外のはずなのに、まるで前から知っていたみたいだ。
「とりあえず、三週間後の演奏会には万全にしておくよ」
「うん……」
外では未だ暴風が吹き荒れ、前々日準備は中止となってしまった。
幼稚園生と小学生の運動会は――恐らく、開催できたらしい。
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