第29話 Final music
「でっっっっっっっっっっっっっか!!!!」
初めて東京に来たけど……首都圏ドームでっか!!
2027年9月8日、水曜日。
夏休み明けの平日にも関わらず、花里学園は『校外学習』という名の『臨時休校』。
それは、全員で軽コン4次選考を見に来るためだ。
校長先生から聞いたけど、幼稚園生から高校生まで全校生徒を合わせると4000人を超えるらしい。すっごい学校だねぇ。
幼稚園から持ちあがりの人もいるわけだし、多くなるよね。
軽音楽部は、花里学園の中で唯一と言っていいほど成績が残せていなかった部活だ。
私が入ったことで、少しでもそれに貢献できてるのかな?
今回の軽コンはいつもより動員数っていうのが多くって、3万人くらいらしい。
だからうちの学校が全員行っても、まだまだ人が入ることができるみたい。
※全部『らしい』とか『みたい』とか曖昧だね。
「ついに来たわね」
玲奈先輩が、私にそう言う。
「はいっ。頑張りたいと思います……!」
「期待してるわよ」
そう言って玲奈先輩は颯爽と去っていく。
少なくとも半分以内に入らなければ、大和くんは玲奈先輩に北原学園に引きずり込まれちゃう……!
今でも思惑は分からないけど、絶対にそれを止めなきゃいけないのは確か。
そのために、しっかり歌う!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
関東代表、出場、5分前。
学校とは比べ物にならないくらい大きな控室で、最後の調整。
陽ちゃんは右手の動きの確認。
かずかずは少しだけ陽ちゃんに教えてもらいながら確認。
大和くんは人差し指をバチにしてミニチュアドラムで練習。
つばっさーはミニピアノで最終確認。
私は、歌詞の紙を見ずに歌う。
私は、この曲が大好きだ。
5人で、この日のために、作り上げた曲。
私たちの全てをつぎ込んだ、最高の曲だと思ってる。
それさえ思えれば、きっと最高の演奏ができると思うんだ。
「花里学園さん、残り3分で出番ですー」
スタッフの人が控室に顔を出し、そう言ってくれた。
「よし……じゃあ、やろっか」
その一言だけで、全員同時に親指と小指を突き出す。
「花里学園軽音楽部……最高の演奏するぞっ!! ファイッ、」
「「「「「オー!!!!」」」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それでは皆さんお待ちかねの関東代表の登場ですっ。花里学園軽音楽部の皆さんです! どうぞ~!」
「は~い!! 皆さんこんにちはっ。こんなに見てくださって感謝しかありませーん! 花里学園軽音楽部です!!」
多くの歓声。
拍手。
ペンライトみたいな光。
全部、全部、今は私たちを応援してくれているものだ。
「今日までずっと5人で練習し、修羅場で選考を突破して、ここまで来ることができました。今日は、皆さんに最高の演奏を届けたいと思いますっ! それでは聴いてください。『Final music』」
「「せーのっ」」
わざと声を出してつばっさーと息を合わせる。
「♪この歌を これから君に届けます
悲しくても嬉しくてもずっと一緒だよ
何度でも何度でもこの曲を聴いてください
私たちの努力と友情の
結晶です!」
エレキギターが大きい音くって綺麗な音色を奏でる。
キーボードのピアノの音も、絶妙な音程とリズムでとても胸にしみこんでくる。
「♪怖くて緊張で震えていても
私はあなたの隣にいます
この曲で この歌で
誰かを幸せにできたら幸せです」
ベースの
ねぇ、私たち今最高だよね?
「♪ねぇ、大好きだよ!
今聞いてくれている君も
支えてくれた君も
一緒に演奏してる君も
この場にいる全ての人が
私たちにとっての宝物です
そんな君たちがこれからだって輝けるように
この歌を 捧げます」
高音で綺麗なサビ。
でも意志を持って、大きな声で。
後ろ側の一番後ろの人まで、隅から隅まで、日本中へ届くように。
「♪生きることが怖い?
死ぬことも怖い?
そんなの誰だって同じだから心配しないで
今歌ってる私だって この歌が誰かを
傷つけるんじゃないかって 怯えている」
これは本当の気持ちだよ。
私は、今聞いてる君が好き。
でもね、私だって怖いよ。
優勝したいし、最高の演奏をしたい。最高の歌を届けたい。
でも、誰かを傷つけるかもしれない。
「♪それでも私が今歌えてるのは
みんなが応援してくれるからです!
最後まで 最後まで
私たちの曲についてきてね?
Ah……」
アカペラの4小節。
ここが一番大事。
ねぇ、本当にありがとう。
私を、軽音楽部に入れてくれて。
「♪支えてくれてありがとう
応援してくれてありがとう
リズムに乗ってくれてありがとう
私は数えきれないものを君から
もらってる だから届ける!」
ラスサビだ。
お願い、届いて。
この、感謝の気持ち――!
「♪ねぇ、大好きだよ!
今聞いてくれている君も
支えてくれた君も
一緒に演奏してる君も
この場にいる全ての人が
私たちにとっての宝物です
そんな君たちがこれからだって輝けるように
この歌を 捧げます」
すぅ……と息を吸い、つばっさーと息を合わせて。
「♪大好きです 忘れないから」
一番最後の高音。
私の声だけが響いている。
最後まで、最後まで。
――出し切った。
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