第22話 調決めから大難航?
次の日、音楽準備室にて。
「まずさ、調決めないと」
調は、曲の雰囲気を決める。
調というのは、多分小学校の授業でやったことがあると思うけど、長調とか短調とかのこと。短く言うと、明るい曲か暗い曲か、って話。
ポップスは、ラップとかイキり系の曲以外はほぼ長調だ。
一次選考だからしょっぱなってこともあるし、もし一次選考を突破したら二次選考でもその映像が使われるわけだから、きちんとした曲を作らないといけない。
「最近の人気曲……演奏会でやったものだと、『triangle story』は変ホ長調、『サイダー』はト長調、『It's a friens』はニ長調、『レインタウン』はホ短調、『Strawberry Night』は変ト長調だね」
音楽界で言う『変』はフラットのことだ。
ホはミの音、トはソの音、ニはレの音。
調を表すこのカタカナの音は、日本で言うドレミファソラシドを表しているんだ。
いろはにほへとって聞いたことあるよね?
『ドレミファソラシド』を『ハニホヘトイロハ』にするんだ。ちょっと順番変わってるけど。
このようなカタカナの音は、大体その音で終わるっていう意味を持ってるんだ。
変ホ長調のとらいあんぐるすとーりーはミのフラットで終わるってこと。
長調か短調か、だけじゃなくて、このカタカナの音も曲の雰囲気を左右するんだって。
※これは全部つばっさーの受け売りだね。
「僕は……神秘的な雰囲気を出したいから、変ホ長調でサビで変ト長調への転調がいいと思う」
「一次選考なんだから、自信に満ち溢れた感じがいいしヘ長調とかどうだ?」
「最初はシンプルにハ長調がいいと思うぜ!」
「審査員の人が絶対に驚いて覚えてくれるように、もうロ短調でよくね?」
全員意見が割れた。
「じゃあ……僕が全部の調で作ろうか?」
つばっさーがらしくなくそう言った。
やっぱり、軽音楽のことになると性格変わるんだね。
「マジ⁉ 作ってくれるの?」
「ありがたやありがたや……」
陽ちゃんとかずかずがつばっさーを崇めている。
ということで、つばっさーが一日で四つの調の曲を作ってくれることになったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふわぁ……」
あくびをしながら、午前7時。
最近、早く起きるのが得意になってきたかもしれない。
それもこれも、軽音楽部のせいだっ!!
いいことだからいいと思うんだけど。
ガチャッと部室のドアを開けると……つばっさーだけがいた。
ソファに座って、パソコンを開いている。
よく見ると……あれ、うとうとしてる?
「つばっさー?」
呼びかけてもこくりこくりというだけ。
最近寝不足なのかな?
「つぅぅぅばっさぁぁぁぁ!!」
「うふわぁっ⁉」
大声を出すと、つばっさーは起きた。
真面目に寝てたんだね。
「あ……僕、寝てた?」
「バリッバリ寝てたよ。大丈夫?」
「んー、昨日さ……最終下校時刻までここでやって、家帰ってご飯食べたら、すぐに部屋にこもって、徹夜で曲作ってたから……」
「て、てつや⁉」
つばっさー、そんなに頑張って曲作ってくれたの……⁉
私たちが軽コンに思いをはさんでる中、つばっさーは黙々と作ってくれたんだ――。
※『はさむ』んじゃなくて『はせている』だよ!
「でも……全部できたよ。あとは頼んだ」
つばっさーは、そう言ってパソコンを私の方に向けてくれた。
File1、2、3、4。
イケダリフォートップ全員の意見を取り入れてくれたんだ。
マウスを動かして、ファイル1を開く。
これは……シンプルなハ長調の曲だ。
つばっさーはキーボード担当だから、キーボードだけで作ってくれたんだ。
ドドドレミソーソソーミレドレーミーミー
ミレドレレレードレドレドレミファミー
このまま前に突き進んでいこうっていう感じの曲。
ギターっぽい音色で、自信に満ち溢れている。
いつの間にか部室に入ってきた大和くんと陽ちゃんとかずかずも隣で聴いていた。
今回は、曲のベースになるモチーフを使ってサビだけ作ってくれたらしいんだよね。
これで曲を決めたら、そこからは全員で曲調を作っていくらしい。
ファイル2は……勇気がいっぱいのヘ長調の曲だ。
ファーファーソラーシドーレドシラソファー
ファレドシラソファミファラシドレファミー
ピアノが主役の音だ。
きっとつばっさーは、ピアノとボーカルで透き通った感じを出したいんだろう。
こんな私でも分かるよっ!
ファイル3は……ロ短調のイキり調の曲だ。
シシシドレーミファーソファーレドシシドレー
レミファレソファミレドシシーシラララソファー
おぉっ!
すごい鼻で笑ってる感じの雰囲気だけど。これまたいいっ。
エレキギター主役で、いい感じっ!!
ファイル4は……変ホ長調の綺麗な曲だ。
ミファソーシファーシシシドーレドーシドシー
シドラーラシソーソラファーファファーミソラソファー
ストリングスでゆったりとした曲調。
和音はギターとベースが弾いていて、一体感がものすごいっ。
「私、これはやるべきだと思う!」
私がそう言うと、かずかずが口を開いた。
「4パターンあるから、四次選考まで行くのを前提として3曲選んだほうがいいと思うよ。みんな、2曲投票できるかな?」
「えっ、2曲⁉ つばっさーが作曲上手すぎて難しいなぁ……」
みんな悩んでいる。
でもねっ、私はもう決めてあるんだ!
「じゃあ、投票するよ。ファイルを指さしてね。せーの!」
シンプルな曲、1票。
勇気いっぱいな曲、2票。
イキり調な曲、2票。
綺麗な曲、5票。
「えー! 俺の案、1票⁉」
そっか。このシンプルな曲、陽ちゃんのアイデアなんだ。
「じゃあ、ファイル2、3、4を採用しようか」
「はいはーいっ!」
私が手を挙げると、
「はい、胡桃さん」
とかずかずが指名してくれた。
「イキり調な曲は屋外の3次選考でっ。四次選考は東京ドームだから、盛り上がる勇気いっぱいなやつがいいと思いまーす!」
「じゃあファイル4は一次選考?」
「うんっ」
「えっいいと思うぜ!」
「胡桃にしてはいいアイデアだね」
「楽しそう!」
4曲を全部聴き終わった時に、私には構想が出来上がってたんだっ。
「ホントに、胡桃は想像が好きだよな……」
なぜか大和くんがはしゃいでいる私を見て、微笑んでいた。
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