第21話 軽コンと玲奈先輩の言葉

 演奏会は……大成功を収めた!

 最初は40人だった観客も、最後には満席どころか立って見てくれている人もいたんだっ。


 超嬉しい!

 私たちの演奏が他の人を呼び寄せたのかな?

 ともかく、最後には観客全員が声出したような大盛況になったってことー!

 でも、でもね……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 土曜日、演奏が終わり、ステージの片付けも無事終わって、体育館を出たのは午後1時。

 お腹が空いている中、黒ブレザーに緑ネクタイ藍色上履きの人に呼び止められた。


「桜庭さんたちですね」


 紳士的な声で話しかけられてゾクッとする。

 7人の中で一番背が高い男の人だった。


「演奏、聴かせてもらいました」


 男の人がそう言った瞬間に、私たち5人は全員振り向く。


「……いい演奏だったと思います。特に、ボーカルの桜庭さんの透き通ったような声が、ね」


 え、私、強豪校に褒められた⁉


「芦田さん」

「は、はい」


 急に話しかけられたかずかずは、


「花里学園軽音楽部は、小中高軽音楽コンテストに出場するのですか?」

「……もちろん、そのつもりでいます」

「きっと、今のままでは皆様は優勝を逃します。私たちがいるからです。出場するならば、私たちを倒してくださいね」


 男の人のセリフに、びっくり。


 でもね?


 私たち、決めたんだ。

 絶対に、あなたたちを倒すって。


「――その勝負、受けて立ちましょう」


 かずかずらしくない強気な口調に、男の人は微笑む。


「あ、名乗り忘れていましたね。桜庭さんはきっと知らないことでしょう。私は北原学園軽音楽部部長の高校3年生、北原きたはらしゅうと申します。それでは、またコンテストで会いましょう」


 男の人……改め北原さんは、そう言ってその場を去ったのであった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 週が明けて、月曜日の放課後。

 私たち部員は部室に集まっていた。


「一昨日のことは、みんな覚えてるよね?」

「もちろん」


 かずかずが確認をとる。

 きっとかずかずにとっては、北原さんと話せたことは財産になったと思う。


 だから絶対に忘れないと思うし、あの会話はかずかずの心の中にずっと残り続けると思う。


「俺たちは、北原学園を倒して優勝することを目標に、これから3ヶ月間、練習をします。それでいい?」


 小中高軽音楽コンテストまではたったの3ヶ月。

 時間は決して多くはないけれど、演奏会ほどじゃないし、大丈夫かな?


「もちろん」

「絶対勝ってやるぅぅ!!」

「あそこまで言われるとムカつく……燃える……」


 勝ち誇った顔の大和くんと拳を突き上げる陽ちゃん、いつになくピキピキッと顔に青筋を浮かべているつばっさー。


「俺たちがやることは、2つある。一つ目は、曲の練習。でもその前に……」


 え? 曲だけじゃないの?


「――作詞作曲もしなきゃいけない」

「ええええ⁉」


 え、それって自分たちで曲を作って、それを練習して演奏するってこと?


「これからこのコンテストは軽コンっていうね。軽コンは一次選考から四次選考まであって、一次選考は市大会。市民会館で演奏して、例年では20チーム出場するんだ。その中で必ず5チームが二次選考に進出する」


 そんなに選考あるのー⁉

 しかも一次選考突破するのも……えっと……4分の1のチームじゃん!


 ※びっくり。割り算がちゃんとできたね!


「二次は撮影された一次の時の演奏の動画で審査をする。県大会みたいなものだね。例年30チームが出場して、突破できるのは3人」


 え⁉

 いやいや……狭き門すぎるでしょっ。なにそれ!


「三次選考は各地域での屋外ライブなんだよ。もし俺たちが三次選考までいけたとしたら、国立磯辺公園だね」


 国立磯辺公園は、めちゃくちゃ広い広場みたいなところ。公園、というか……んー、ちょっとしたアスレチック場、みたいな?


 ※例えが思ったより良いっ。アタシがやることはなくなってきたねぇ……。


「20チーム中1チームが突破する。最後、四次選考は首都圏ドームで行われる。軽音楽部は動員数が多いからね。毎年2万人くらいになるんだ」


 2万人がどのくらいすごいのかはよく分からないけど、まぁ東京ドーム使うくらいなんだからすごいんだよね!


「北海道は東北地方と同じくくりになるから、6チームで戦うんだ。優勝は例年だと4800チームくらいで優勝を争うって感じだね」

「ええええええ⁉⁉」


 いやいやえぐいえぐい。

 なにそれ、よんせんはっぴゃくちーむ? は?


「でもさっ」


 例え不可能だと感じてもさっ。


「決めたじゃん! 北原学園を倒す、って!!」


 あの演奏会は、私たちにとって大きな宝物だ。

 きっとあれがなければ、今年、軽コンに応募することは無かったと思う。


「そうだな。たとえムリだとしても、俺たちはやるから」


 大和くんは分かってくれてるっ。


「そうだな……頑張ろっか」


 つばっさーもそう言う。


「不可能を可能にする……それが俺らの得意なことだ!」


 陽ちゃんも……。

 全員、私の思ってる事、全部わかってくれてるんだ。


 その時。


 ガチャ……


「演奏会、お疲れ様」


 ドアが開いて、玲奈先輩が入ってきた。


「ありがとう、玲奈ちゃん」


 かずかずがそう返す。


「軽コン、出ることに決めたのよね。柊くんから聞いたわ」

「うん」


 もしかして玲奈先輩のお友達って、北原さん?

 凄い人と繋がってるなぁ……。


「私はね、北原学園も、花里学園も、どっちも応援してるわ。今年の軽コンは――あなたたちに懸かってるわよ」

「分かってる。見てろよ」


 大和くんが返す。


「もちろん。大和たちの勇姿を見ているわ」


 そう言って部室を出て行くのかと思いきや……。


「あ、胡桃さん」

「な、なんでしょう」


 ピンと背筋が伸びてしまう。


「……今回の軽コン、もし3位以内に入れなかったら大和を北原学園の軽音楽部に入れるから。覚悟しなさい」


 ヒヤッとした視線で言われた。

 玲奈先輩らしくない。


 でもその凍り付くような視線で、あぁ、誰にも言ってはいけないんだなと悟った。

 こんな私でもわかるくらい、それは分かりやすすぎた。


 私は右にも左にも動けず、ただ固まっていた。

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