第23話 レンズの掃除
「じゃあ」先輩が道具の中から、小さく折られた紙束を指して言った。「このレンズペーパーを使って」
「動画のと違いますね」棒にくるくる巻くイメージと違うので聞いてみた。
「この6cm×13cmぐらいの、二つ折りの紙が2枚あれば十分よ」
「棒はないんですか?」
「あるけど、なくても平気。逆に、棒は紙の巻き方が悪かったり力を入れすぎたりすると傷がつくから、慣れるまで使わない方がいい」
「たしかにちょっと怖いですね」
「部長は割り箸にレンズペーパーを巻いて掃除しようとして、D700のセンサーに傷つけたって嘆いてたわよ」
「ありゃー」
「写りに全く影響ないって感心してたけど」
「そういうものなんですか?」
「何事も程度問題よ」
かくしてレンズ(の前の保護フィルター)の掃除がはじまった。
「掃除にはこれを使ってね」と言って先輩はレンズクリーニングリキッドなる液体の入った小さい容器をぼくに渡した。「アルコールでもいいけど、これでやりましょう」
「はい」
「クリーニングペーパーを1枚とって、短い方を軸にくるくる巻いてみて」
「こうですか?」ぼくは1cmぐらいの幅で巻いて厚い棒にした。
「そうそう。それで、折って端をつまんで、折り目の方にちょっとだけクリーニング液をつけて……」
「はい」言われたとおりペーパーにクリーニング液をちょっとつけた。
「で、動画みたいに保護フィルターの中心から外にぐるぐる拭く」
「ぐるぐる拭く」言われたとおり、ペーパーの濡れた面を保護フィルターに当て、ぐるぐる外に螺旋を描きながら拭いた。「だいたい指紋は取れたみたいです」
「そうね」先輩も覗き込んで言った。
「ですが、クリーニング液が蒸発しても何か残ってますよ」
「そう、残るのよ。揮発しない何かが」先輩がうんうんと頷きながら言った。「あと、アルコールだと、蒸発した後にちょっとだけ水が残るのよ」
「そうなんですか」
「アルコールは空気中の水分を少し吸収してしまうのね。だから、初心者は純粋なアルコールより、こういうクリーニング液の方がお薦め。エタノールを水が入らないように管理するのは大変だからね」
「そうですね。こっちは水滴は残りません」ぼくは保護フィルタの表面に電灯を反射させ、水滴がなく、クリーニングリキッドの跡が残ってるのを改めて確認した。
「次は、もう1枚のペーパーを同じように巻いて、乾拭きしてみて」先輩が次の手順を示した。「軽く、軽~くでいいからね」
「はい…」先輩の指導で、そっと、そーっとペーパーを押し当て、また外側に螺旋を描くように乾拭きした。
「ほら」
「ああ、拭き跡がほとんど消えてます」
「でしょう」
「案外簡単ですね」
「ええ。クリーニングキットは安く売ってるし、カメラを買うときは一緒に買っておくといいわ」
「はい」ぼくは、きれいになった保護フィルターを見てほっと一息ついた。
「あと、保護フィルターの場合だけど」先輩はまだ何かあるようだった。
「はい?」
「保護フィルターを外して、石鹸水で洗うという方法もあるわ」
「ああ、そんな手が」
「汚れがひどいときわね。でも、あんまりひどい汚れや、傷が目立つなら、保護フィルターは買い換えること。フィルターがもったいなくて画質が落ちるのでは本末転倒よ」
「分かりました」
「もういいですか?」ぼくらの様子を眺めていた花咲さんが、作業が終わった頃合いで話しかけてきた。
「うん」
「甥っ子さんの写真はさっきパソコンに取り込んだでしょう」
「ええ」
「見てもいいかな?」
「どうぞ」ぼくはまたパソコンに戻り、取り込んだ写真をモニターに出した。
「「かわいい〜〜〜!!!」」
甲高い声が部室に響いた。
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