第18話 カメラの構え方と撮影会解散

「ちなみに『バヨネット』という単語はカメラでたびたび出るわ」駅までの道を歩きながら、ニコ先輩が雑談してきた。「覚えておくといいわね」

「『バヨネット』ですか」

「日本語だと『銃剣』という意味で、フランスのバイヨンヌで発明されたと言われるわ」

「銃剣なんですか」唐突に物騒なものが出てきた。

「ネジでくるくる取り付けるんじゃなく、あまり回さずにカチっと装着できるのが『バヨネット式』。銃剣も金具で小銃にカチっと止められるの」

「カメラの話がミリタリー方面に行ってますね」

「カメラはある意味兵器だから」先輩は話をつづけた。「ドイツ軍の宣伝中隊は多くのカメラマンがライカを持って戦場に行ったわ。連合軍も戦後マグナムを結成したカメラマンとか有名よね」

「ええと」先輩は楽しそうに語りかけてくれたけど、ついていけそうにないので、ぼくは音を上げてしまった。「そっち方面の話、まだ続きますか?」

「ああっと」先輩は少しはっとして、話をカメラに戻した。「デジカメの交換レンズのマウントも『バヨネットマウント』というの。他にネジ式の『スクリューマウント』と、レンズを回さず、接続用のリングを回す『スピゴットマウント』というのもフィルムカメラにはあったわ」

「なんかいろんな用語が出てきましたね」カメラの話もけっこう分からない><。

「『バヨネットマウント』だけ覚えておけば人生困らないはずよ」

 あちこち話が飛んだものの、覚えることは一つだけのようだった。


「話が脱線したわね」遠くに飛んで行った話題を先輩が軌道修正した。「レンズフードの効果は余計な光線をカットする庇、だけじゃなくて、他に、レンズ前面の保護と、レンズが持ちやすくなる効果もあるの」

「レンズの保護ですか」

「ほら」先輩がカメラバッグを開けるとF3をまた出した。「このレンズでは、保護フィルター使ってないでしょう」そう言って85mmレンズのキャップを外して見せた。

「保護フィルターは少しだけど画質に影響するから、つけるかどうかはケースバイケースだけど……」先輩はさらに話をつづけた。「フードは画質にはいい効果だけがあって、その上レンズ保護にもなるから、使わない手はないわ。それでもレンズが傷つきそうな過酷な条件なら、フードと保護フィルターを両方使うの」

「なるほどー」ぼくは、今リュックの中にあるD70がフードと保護フィルターの両方を使っていることを思い出しながら相槌をうった。

「そしてレンズをしっかり持てること」

「しっかりですか」

「ほら」先輩はもう一度、フードをくるくる回してレンズに取り付けた。「前の方まで持てるでしょう」そして右手でカメラを構え、左手をレンズフードの下に添えた。

「そうですね」

「一眼レフのカメラは右手でボディのグリップを握り、左手は下からレンズを支えるのよ。それから足を肩幅ぐらいまで開いて脇を締める。そうするとカメラが自然に顔に当たるから、両手と顔の3点でカメラを支えるのよ。これで手ブレをだいぶ防げるわ」

 そう言って、先輩は立ち止まりF3を構えた。黒髪がさらっと背中に流れ、いつか見たようなかっこいい姿になった。

「ここで、フードに指が届くようにレンズのできるだけ前を持てばカメラが揺れにくくなる。指がレンズに触れてしまうミスも防げるわ。それに、ブレやすい超望遠レンズもフードをつけると前の方で保持できて、手ブレ防止に役立つの」

「レンズの前の方を持つんですか」

「そうよ」先輩はカメラを構えたまま、85mmのレンズのフードの先端のさらに前まで左手を伸ばし、た。小指の付け根でようやくレンズを支えるかっこうになった。「これぐらい前」 

 ぼくは、先輩のカメラの前に、その左手の位置まである長いレンズを想像した。

「まあ、今日はこれぐらいにしておくかな」そう言って先輩はまたフードを外し、レンズにキャップをつけてF3をカメラバッグにしまった。「じゃあ、帰りましょう」

「はい」

「あと!」先輩が急におどけた顔になって、付け足した。「今日花咲さんが撮った写真、消しちゃダメよ」

「!」

「こんど学校で見せてくださいね♡」

 花咲さんも微笑んでそう言い、向き直ると、先へと歩きだした。

 その後ろで、肩で弾む明るい色の髪を見ながら、ぼくも帰り道を進んだ。

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