第8話 ズームレンズ
「ノクト君、次は君のD70のレンズを見て」ニコ先輩がぼくの手に持ったカメラを指さした。
「はい」
「ズームリング、そのレンズの一番太いリングだけど、数字があるでしょう」
「18とか35とか、70までありますね」
「それがそのレンズの焦点距離。ズームレンズは、一個のレンズで焦点距離を変えることができるのよ」
「ああ、この数字は焦点距離なんですね」
「ええ、だから、18mmに設定してカメラを覗いてみて」
「小さく見えますね」
「その分広い範囲を撮影できるわ」
「じゃあ70mmにすると…、ああ、大きくなります」
ぼくはズームリングをくるくる回しながら、ファインダーの中で景色が大きくなったり小さくなったりするのを改めて体験した。
「AF-S DX Zoom-Nikkor 18-70mm f/3.5-4.5G IF-ED、D70とセットで売られていたレンズよ。D70はAPS-Cだから、焦点距離は1.5倍すれば35mmフイルムやフルサイズのカメラの焦点距離に換算できるわ」
「1.5倍、ですか?」
「さっきも話したでしょう。写真に写る大きさは、『フォーマットサイズ』と『焦点距離』の両方で決まるって。『フォーマットサイズ』はフイルムならフイルムに写る写真の大きさ」
「フイルムですか」
「部室で見たでしょう。35mmフィルムは36mm×24mmがフォーマットサイズよ。案外小さかったでしょう」ニコ先輩は人差し指と親指でフィルムの1コマの大きさを表現した。
「そうですね」その指の間に、部室で見たネガを思い出しながらぼくは相槌をうった。
「『フルサイズ』のデジタルカメラは、あれと同じサイズのセンサーがあるの。だから、フィルムカメラのレンズをそのまま同じように使うことができるわ」
「フルって、そういうことなんですか」
「ええ、そして、『APS-C』とか『DXフォーマット』っていうのはフルサイズの2/3の、ちょっと小さい寸法なの。だから、写真に写る範囲が狭くなって、逆に言うと、写真をそれだけ拡大することになるから、フルサイズレンズの焦点距離の2/3倍のレンズで、ちょうど同じ大きさに撮れるわ」
「焦点距離が短いレンズで同じ大きさに撮れるんですね」
「だから、APS-Cのカメラのレンズの焦点距離は、2/3の逆数がフルサイズの換算倍率になるわ」
「2/3の逆数だから……3/2で1.5ですか?」
「そうそう」
「そうすると、18-70mmは換算すると……27mm〜105mm?」
「ええ、広角から中望遠、この85mmより大きく撮れる範囲まで変えられるわ」
ぼくが焦点距離と写せる大きさについて理解したと分かると、先輩はささっと花壇に移動し、咲いている花を撮影しに行った。
バシャ!
シャッ!
シャッターを切る音と、フィルムを巻き上げる音がした。
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