第9話 大きく撮りたい

 気がついたらぼくらは池の近くの木の下にいた。

「今日はさらに、超望遠レンズを体験してもらうわ」そこでニコ先輩は、カメラバッグから1本のレンズを取り出した。「300mm超望遠レンズ〜」

 何かチャラララとBGMが聞こえそうな声で、えらい長いレンズを高く掲げた。

「AI AF-S Nikkor 300mm f/4D IF-ED。通称『サンヨン』よ」

「サンビャクミリ!!」

「そう。そしてそれを、APS-CのD70につけると、フルサイズの何ミリ相当かな?」

「ヨンヒャクゴジュウミリ!!!」

「『!』の数まで正確に1.5倍ね。さすがだわ。じゃあ体験してみよう!」

 そう言って先輩は、ぼくにそのレンズを渡した。

「うわ、重い!」

「1440gよ。カメラより重いわ。落とさないでね」

「そりゃもう。こんな高そうなレンズ、もし落としたら…」

「レンズ持っててあげるから、あんまり心配しないでやってみて」

「はい」

 ぼくはレンズを一度ニコ先輩に手渡すと、左手でカメラのレンズ脱着ボタンを押し、右手でレンズをくるっと回した。あっけなく、ポロッとレンズが外れた。そして、18-70mmと交換に300mmを受け取り、恐る恐るカメラのマウントに当てがった。

「レンズは斜めにして、上がカメラの方の白丸に合うようにね」

「こうですか、あ、入った」

「そう、それでいいわ。あとは回して」

 ぼくはレンズの上面が実際に上になるように回した。「カチン!」と音がして、レンズがカメラに嵌った。

「じゃあ覗いてみて」

 ぼくはカメラの電源を入れ、ファインダーを覗いた。池の向こう岸が目の前にあるように見えた。

「うわあ、大きいです!」

「それが450mmの世界よ。写真も撮ってみて」


「ええ…。あれ?」

「どうしたの?」

「撮れません。なんか『FEE』ってのが点滅してます」

「ああごめん。絞りが最小になってなかった」

「え?」

「今のは気にしないで。これで大丈夫」先輩はレンズの根本にある細いリングをカチカチと回し、何かをパチンと操作して言った。

「本当だ、撮れるみたいです!」

 ぼくは池の向こうの木にレンズを向け、シャッターを押して撮影した。ピントがすっと合い、遠くの景色がシャープになったと思うと、「バシャ!」という音とともに一瞬目の前が暗くなり、また元に戻った。

「確認してみて」

「ああ、撮れてる」

 ぼくはカメラ背面の液晶を見た。さっき切り取った光景がそのまま見えた。

「拡大するとブレてると思うけど、とにかく、焦点距離が長いレンズを使えば、スマホと違った写真が間違いなく撮れる。分かったわね」

「分かりました…。ですが、このレンズ、おいくら万円?」

「そうね。ネットで調べれば分かるけど、高校生のお小遣いでは難しいわね」ニコ先輩はさらっと言った。「でもカタログ落ちしてるし、中古ならあるいは……」

「えっと、ぼくが買う前提なんですか?」

「心配しないで、手振れ補正のついた新しいレンズもあるから♡」

 やっぱり、買う前提なんですか???

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