第5話 撮影会
土曜日。朝の10時にぼくらは、町外れにある公園に集まることになった。この公園には芝生と林と池があり、花も沢山咲いていて、いろいろな写真が撮れそうだった。
朝から天気がよくて、公園に着くと朝から芝生に寝転がる人や犬の散歩をする人が大勢いた。
「おはよう、ノクト君、早いね」
待ち合わせ場所の公園入口にいるとまず、後藤部長が現れた。首から大きいカメラを下げ、右肩にカメラバッグを吊るしている。
「先輩、ずいぶん大きいカメラですね」
「デジタル一眼レフのニコンD700だよ。フルサイズなんだけど、古い機種だから中古はびっくりするほどお手頃なんだ」
「イチガン? フルサイズ?」
聞きなれない言葉をぼくが繰り返していると、ぼくが首から下げているカメラを指差して補足した。
「君が持っているカメラも一眼レフだよ。フルサイズじゃなくてAPS-Cだけどね」
昨日ニコ先輩が、撮影会用に手渡してくれたカメラだ。
「エーピーエスシー???」
一瞬分かったような気がしたけど、新たに不思議な単語が加わった。
「ああ、昨日あまり説明してなかったね。『一眼レフ』というのは、撮影用のレンズから入った光を中で反射させて、ファインダーから見えるようにしたカメラだよ。「一眼」は撮影とファインダーで一つのレンズ、『眼』を共有してるという意味。『レフ』はレフレックス、反射という意味だ」
「はあ」
「ちょっと貸してみて、ほら」部長はぼくからカメラを受け取ると、レンズの向かって右にあるボタンを押し、レンズをくるっとひねった。
「あ、取れちゃった」カメラからレンズがポロっと分離したのでぼくがつい驚いて声を上げた。
「ハハ、一眼レフはレンズが取れるんだ。レンズが交換できるんだよ。ほら」そう言って部長は自分のカメラのレンズも外し、ぼくのカメラから外したレンズを部長のカメラに、ぼくの借りてるカメラには部長のレンズを取り付けた。「ボディの『マウント』に互換性があって、いろいろなレンズが使えるんだ。これが一眼レフの特徴だよ。昔はレンズ交換できない一眼レフもあったけどね」
「なるほどー」
ちょっと間の抜けた相槌をぼくは打った。
「そしてほら、中にミラーがあるだろう」またぼくのカメラからレンズを外し、「マウント」と呼ばれたレンズ取り付け金具の穴の奥の小さい鏡を指差した。「このミラーで光を反射させて、上のペンタプリズムで屈折させ、『ファインダー』で写真に写る画像を目で確認できるようにするんだ。このカメラはプリズムじゃなくてミラーの組み合わせだけどね」
「ペンタプリズム???」
「まあ用語は追い追い覚えればいいよ。一眼レフは撮影レンズに入った光を直接見られるから、取り付けたレンズでどういう写真が取れるのか確認できるのが利点なんだ。構図とピントが正確に確認できる。それだけ覚えててくれればいいよ」
「はい」
ぼくがふむふむと感心していると、先輩は元のレンズをカメラに取り付けて、ぼくに手渡した。
「これはニコンD70。20年前のデジタル一眼レフだよ。うちの写真部伝統の機材さ。どんどん使っていいよ」
「分かりました」
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