第4話 入部した動機
「そうだ、君たちが写真部に入部した動機をまだ聞いてなかったね」
後藤部長が不意に言い出した。
「そうですね。私はお花が好きなので、きれいな花の写真を沢山撮りたいです」
花咲さんがさっそく答えた。
「花か。いい被写体だね。今までカメラを使ったことは?」
「お父さんのカメラを少し触ったことがありましたが、最近は自分のスマホばかりでした」
「そうなんだ。でもスマホでも今はいい写真が撮れるでしょう」
「そうなんですけど、同じような写真ばかりになってしまって。インスタにもアップしてるんですけど、よくて10個ぐらいしか『いいね』がもらえないです。でも、入学祝いにもらったカメラも使うのが難しそうで」
「ああ、なるほど。なら、そのもらったカメラで使い方を覚えれば、きっと見違えるような写真が撮れるよ。ね、ニコさん」
「もちろん。指導は私に任せてください」
「お、お手柔らかにお願いします」
あんまり自信たっぷりにニコ先輩が答えたものだから、花咲さんがちょっと弱気な声になってしまった。
「野区都君の動機は何かな?」
「ぼくは、ニコ先輩が写真を撮っている姿がかっこよかったので入部することにしました。そうですね、目標は『ニコ先輩をきれいに撮る』です」
「わぉ!!」
「キャー♡」
後藤部長と花咲さんが同時に驚きの声を上げた。
「あれ、やっぱりおこがましいですか? きれいに撮りたいなんて」
「バカ!」
ニコ先輩がそう叱ると、ぷいっと横を向いた。心なしか頬が赤くなった気がする。
「『大胆な告白は男の子の特権』ですね」
花咲さんがなんだか目をキラキラさせていた。
「本当なんです。今までスマホでしか撮ったことなかったから、人の顔なんて本当に小さく写るだけで、この写真みたいに大きく撮りたいなって、実は時々思ってたんです」
「大きく?」ニコ先輩が真顔に戻ると、テーブルの写真を改めて見た。
「それに、ほら、後ろがぼやけてたり、光が玉になってたり、こういうのって、プロのカメラマンじゃないと撮れないと思ってました」
「ああ、そういう」先輩は何か納得したかのように相槌を打った。
「あのカメラ、あとああいう大きいレンズ、それを使えばこういうふうに撮れるんですね?」
「うん。分かったわ。君は本格的なカメラで、人を上手く撮りたいのね」ニコ先輩が、また自信たっぷりな口調になった。ぼくはゆっくりうなづいた。「いい。教えてあげる。カメラは部の備品があるからすぐ使えるわ」
「本当ですか!? ぜひ、じゃあきれいな人の撮り方を教えてください。
「ええ。あとその前に、あなたの名前」
「はい?」
「野区都五十八じゃ長いから、『ノクト58』と呼ぶわ」
「なぜ名前の話を。それに、『いそはち』が『ごじゅうはち』ってむしろ増えてません?」
「いいの。あなたの名前は写真を撮るために生まれてきたような、そんな運命的な名前なの」
「はあ」
「とにかく、二人とも、私の指導で素敵な写真を撮れるようにしてあげるから。そうね、明日の土曜日は空いてる?」
「はい、大丈夫です」
「私も予定はありません」
「僕も平気だよ」
「じゃあ、明日は公園で撮影会をしましょう」
「はい。じゃあ、明日はさっそく先輩をきれいに撮れるんですね」
「こら、誤解を招くような言いかたしない!」
また先輩が少し赤くなった。
「そうですね。カメラを借りてすぐきれいな写真が撮れるほど甘くないですよね」
ぼくは頭をかいた。
その後SNSの写真部のグループにぼくのアドレスが登録され、明日の撮影会が本式に決まった。
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