第13話 マクロでのピント合わせ
「先輩」ぼくが面白がって花を拡大して撮っていると花咲さんが割り込んできた。「そのレンズだとそんなに近くまで撮れるんですか?」
「そうよ」
「そうするともしかして、このカメラで使うと」花咲さんはまたFT1をカメラバッグから取り出した。「ものすごく大きく撮れたりします?」
「察しがいいわね」先輩が応えた。「『等倍』で撮影できるから、そのカメラだと切手が画面からはみ出すわ。『等倍』の相手のセンサーが爪ぐらいの大きさだから……」
「すごい!」花咲さんがなんか興奮して叫んだ。
「これでいいわ」先輩は花咲さんからカメラとFT1を受け取り、さっきまでぼくが使っていた60mmのマクロレンズをとりつけた。「そうね、今度は背面液晶で近くのものを撮ってみて」
花咲さんは先輩から手渡されたV1を手にして、さっそく花壇の端に片膝をついて座った。
「あれ? ピントが合わない」
「そのカメラではピントがマニュアルになるわ。レンズの方はマニュアルフォーカスモードにしてあるから、ピントリングを回してみて」
「はい」花咲さんはさっそくリングを回した。「ああ、本当に大きく撮れますね!」
そう言って、花壇ではなく、芝生の脇に生えている草カメラを向けた。
「あれ? 花咲さん」ぼくは、花咲さんがかがみこんで、地面の上のすごい地味な草にレンズを向けているので、つい言ってしまった。「雑草なんか撮るの?」
「は?」
腹の底から響くような、おそろしく低い声が花咲さんから聞こえた気がした。
「花がきれいだということに、園芸種も野草も違いなんてないと思うの♡」
一転、とても明るい声で花咲さんが付け加えた。
「そ、そうだね。野草もよく見ると可愛い花だね」ぼくは慌てて花咲さんに話を合わせた。膝をついてかがんで、同じ花をまじまじと見つめた。「この青い色、なんだか空の色みたい♡」
「すごい! ちゃんと花の形が撮れる!」
花咲さんはゴマ粒ぐらいの大きさの花が撮れて歓声を上げた。
「先輩!」まだ地面近くの花を撮りながら、花咲さんが話しかけた。「近くを撮るときって、ピントを合わせるのがものすごく難しいですね!」
「ええ、近距離ではピントが合う範囲がすごく狭くなるわ。気をつけてね」
「でも、難しすぎです」
「そういうときは、ピントリングを止めてみて」
「はい」
「それから、花を画面に入れて、カメラを前後に動かすの」
「カメラを、ですか……」花咲さんは、花に向けてカメラを前後に動かしてみた。
「ああ! 本当だ! さっきよりピントを合わせやすいです!!!」
花咲さんはいちだんと感動した声を上げると、花咲さんはさらに何枚も何枚も撮影した。
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