第14話 連射は無料

「拡大しすぎてピントがなかなか合わないときは」先輩がまたアドバイスした。「連射しながらカメラを前後に動かすのもいいわ」

「え?」ぼくは連射というのが特別なことに思え、うっかり聞いてしまった。「そんなことしていいんですか?」

「いいに決まってるじゃない! カメラの機能なんだから使わなきゃ!!」

「でも、なんかもったいないじゃないですか」

「フイルムならまだしも、デジカメなら失敗した写真は消すだけよ」

「でも、ベテランは一発でビシって撮るんでしょう?」

「プロは必要なら写真は何枚でも撮るわ。テレビの記者会見で分かるでしょう。フラッシュをバシャバシャ炊いて撮って、それで新聞とかで使うのは1枚か2枚よ。プロがそれだけ撮って、厳選して、『作品』を手に入れているのに、初心者が枚数をもったいぶってどうするの?」

「そういえばそうですね…」先輩の言うことももっともだった。

「それに、確率が低いものは」先輩が不穏なことを言い始めた。「回数で殴るのよ」

「殴る、ですか」

「連射すればその中にいいカットが撮れるというときは、遠慮なく連射すること。めったに会えない景色や生きものなら、何度も現場に行くこと。素晴らしい写真の奥には、そういうカメラマンの努力があるわ」また先輩のアドバイスをいただいた。「言うなれば、ガチャを天井まで回すようなものよ」

「は?」先輩が天井とか言い出して何事かと思った。

「ガチャと違って」先輩は補足した。「天井はなくてSSRも必ずもらえるわけじゃないけどね」

「まあ、デジカメで連射してもお金はかからないと思老いますが……」

「『写真講座』は画角がどう、露出がどう、そんな話ばかりで、それでみんな納得してるのかしら?」先輩はまだ話し足りないらしく、ふらっと歩き出すと、芝居がかった仕草で背中を丸め、手を左右に広げた。そして首を振った。「いい?」

 そしてこちらを向くと、キリッとした顔になった。ぼくと花咲さんは先輩を見つめた。

「シャッターチャンスをものにするには、シャッターを切らないといけないわ。この当たり前のことが、まずは自然にできるようになってちょうだい。シャッターを切ることに抵抗感を無くすこと。それが一番最初に覚えるスキルよ。とにかく、撮るかどうか迷ったら撮る。そうやって何百枚、何千枚、何万枚も撮っても、『あれを撮ってなかった!』と悔やむことが多いのが写真よ」

「「はい」」

 ぼくらはそう応えるしかなかった。

「そうやって沢山撮って初めて、そこそこ納得できる写真が、何枚か撮れるようになるの」

「『何枚か』、ですか」

「ええ。たくさん撮ってやっと何枚かいい写真が撮れる。だから、まず撮影のチャンスを増やすことが大事よ」先輩はまた芝居がかったしぐさで、目を閉じてうなずいた。「デジカメなら実質無料」

 真面目な顔で、余計な一言を追加した。

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