第16話 背景をぼかそう
「こんな木の下でいいんですか?」
昼休みを終えてから、ぼくらは撮影の準備をして、木立の中に移動した。木漏れ日が注ぐよさげな場所を見つけ、そこでぼくは斜めに立ってポーズっぽいものを作ってみた。ただ、案外暗い場所なので先輩に訊いてみた。
「太陽の下だと眩しくて目が細くなったりしたでしょう」
「ああ、そういえば」
「木陰ならそういうことはないし、木の葉の間から見える空が玉ボケになっていい感じよ」
「「なるほどー」」
ぼくの返事と、花咲さんの返事が重なった。
モデルはぼくと部長なので、ニコ先輩と花咲さんとがカメラを構えてぼくらを見ている。
花咲さんの手にはぼくが借りていたD70があって、レンズは60mmマクロをとりつけていた。フルサイズ換算では90mmだから、先輩の85mmとほぼ同じ画角かな。
「じゃあ、まずは木を挟んで二人、幹に寄りかかってみてください」
ポーズの指示は主に花咲さんが出していた。気持ち、表情が輝いて見える。そういえば、ぼくらがモデルをやると決めてからバッグから櫛を取り出し、さっそくぼくらの髪をすいてくれた。どこからそんなやる気が?
「そう、そんな感じです!」
「じゃ、撮りましょう」花咲さんが納得したようなので、先輩が撮影開始を宣言した。
「先輩!」先にシャッターを切り始めた先輩に花咲さんが訊いた。「この『A』とか『F2.8』とか見えるのが合ってるんですよね」
「ええ。ここだと露出補正はいらないかな」手を止めて、先輩が教えてくれた。「『F』の数字が小さいほど背景がぼけるわ。私のレンズは1.4よ」
カメラの設定は先輩がやってくれて、花咲さんはそのモードで撮っていた。
「カメラの撮影モードの話は、学校で改めて、写真を見ながらしましょう。そのほうが分かりやすいと思うわ」
「はい」
それから、二人が本格的に撮りはじめた。
「うわあ、本当に後ろがぼやけて、人が浮き上がってる!」撮影した写真を液晶で確認しながら、花咲さんが感嘆した。
「それが明るいレンズのボケ効果よ」
「『アカルイ』、ですね!」
「『明るい』の説明もまた後でゆっくりするわ」先輩が説明モードになった。「ボケ効果は最近はスマホもアプリとかで対応するようになったけど、まだまだ一眼のカメラほど自然な感じにはならないわ。『望遠で撮る』、『マクロレンズで近くを撮る』、『背景をぼかして撮る』。このあたりがスマホと違う写真が撮れるポイントよ」
「はい! 今日はすごくよく分かりました!」
ぼくと部長は並んで木に寄りかかりながら、女子二人のカメラ談義を聞いていた。うーん。自分で撮ってないからまだよく分からない。
「今度は壁ドンでお願いします!」唐突に花咲さんがリクエストしてきた。
「は?」
撮った写真を確認して気持ちが高ぶったのか、だいぶ大胆になってきた。
「男性モデル二人」ニコ先輩も乗り気になっていて、カメラを覗きながら息を弾ませた。「こういうのも、案外、悪くないわね」
「壁って……」ぼくは左右を見て戸惑った。
「木の幹でいいですよ!」
花咲さんが指さすので、ぼくは木の幹に背中を預け、おずおずと部長の方に目をやった。部長はぼくの正面に立つと、真面目な顔のままぼくと目を合わせ、突然にぼくの顔の横に右手を突き出した。木の幹をドーンと突いた。
「えええ?!」ぼくは変な声を漏らしてしまった。
「きゃー♡」
「これが壁ドン……なるほど」
午後の撮影は、すっかり女子主導になって進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます