第2話 写真部

 部室棟の2階。その廊下の一番奥に写真部の部室があった。ぼくはそのドアの前に立った。

 入学式から数日。学校にもだいぶ慣れた頃合いで、部活の紹介をひと通り見て、「やっぱり写真部に入ろう」とぼくは決心した。

 決心した理由はもう一つあった。「写真部」の腕章をした黒髪の先輩が、先輩たちの新入部員募集の活動を記録に収めていた。この前と同じように、大きいレンズがついた、黒い、四角ばったカメラを使っていた。その先輩に近づきたいと思った。

 ドアの前でしばらくすると、なにやら楽しそうに話す声が聞こえてきた。ならば特に心配することはないかもと、ドアをノックした。

 コンコン。

「どうぞ」

 男の声でうながされ、ぼくは部室に入った。金曜日の放課後。外では運動部のかけ声や吹奏楽部の楽器の音が響いていた。


 さほど広くない部屋にテーブルが一つ。その奥に机と椅子が一セット。窓の側は白と黒の二重のカーテン。廊下の側の壁にはホワイトボードがあった。そして、入ってすぐのところにはスチール棚があった。

「入部希望かな?」黒縁メガネをかけた男子生徒がにこやかにぼくに訊いた。

「はい」

 部室には3人の生徒がいた。ぼくに話しかけた人は先輩で、入学式のとき写真を撮っていた人だ。もう一人、その先輩とテーブルの窓側の椅子に並んで座っている先輩も、興味深そうにぼくを見ていた。その鋭い視線は、あの黒髪の女子の先輩だった。

「野区都君、やっぱり写真部に入ってくれるんですね!」

 手前の席に座っていた明るい髪の色の女子生徒がさっとこちらにふり返ると、ニコニコしながらぼくに話しかけた。

「花咲さん、もう来てたんですね」

「見てくださいよ、私たちの写真ですよ」彼女は僕の答えを聞くより早く、テーブルに広げられた何十枚もの写真を示し、その中から1枚を選んでぼくに見せた。

「入学式の写真だよ」

 男の先輩が説明した。花咲さんが選んだ写真には、微笑む花咲さんと、その後ろでぼくがぼんやりした顔で写っていた。花咲さんは写真を撮られることに気づいていたらしい(ぼくももっとマシな顔するんだった!)。


「僕は後藤江渕(ごとう・えふち)と言います。3年生で、一学期の間は部長です」

 ぼくが花咲さんと並んで椅子に座ると、男の先輩が立ち上がり、改まって自己紹介してメガネをくいっと上げた。それから、隣の先輩を促した。

「私は色消ニコ(いろけし・にこ)。2年生です。視力2.0が自慢です。よろしく」

 黒髪の先輩はあっさりとした自己紹介を終えた。

「で、君は?」

「はい、花咲さんと同じ1年A組の、野区都五十八と言います」

「ああ、彼女と同じクラスなんだ。じゃ知ってるよね」

「ええ、入学式の日はぼくの後ろの席でした。その後席替えで離れちゃいましたが」

「席は離れたけど、部活は同じ写真部になりましたね。仲良くしましょう」

 花咲さんが親しそうに話しかけて笑った。

「うん。よろしく」

 ぼくが花咲さんにうなずくと、部長が入部希望用紙をぼくの前に置いた。

「本当に入部するということでいいんだよね」

「ええ、そのつもりで来ました」

「入学式の日にもう、『写真始めます』って言ったんですよ」

「そうなんだ。それは有力新人だな」

「いえ、他の部活もちょっと見てから来たので、花咲さんより入部が後になりました」

「気にしなくていいよ。他と比べてやっぱりここがいいというなら、僕らは嬉しいから」

 先輩の話を聞きながらぼくは入部届を書き上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る