陸 『悪戯娘』
神の御業でも無く力技で牢を脱した後は、北亀と共に後宮へ戻る。外は
右へ左へ、機嫌良く曲がる。
「あら?
気が付くと、
「
『だいじょーぶ。後宮程度の構造なら一通り覚えてるよ』
不敵に笑み、『小霰は黒曜宮から
「だって、
慌てて
『あは、分かった? 流石は小霰』
北亀の指示通りに歩いてゆくと、見知らぬ宮に辿り着く。
「何だか娯しくなる気がするわ」
胸を躍らせてかたっと木製の扉を開けると、
——其の時、霰琳は扉の後ろに倒れる宦官に気付いていなかった。仄暗い笑みで其の者達を見下ろす北亀にも。
「まあ、美味しそう……」
元淑妃ではあるが、
『ちょっと位なら、食べてもいいんじゃないかなぁ?』
悪魔の声……
「美味しいわ」
素直に零れた感想と
「あ」
「誰だ、お主は」
新しい玩具を見つけたかの如く霰琳の瞳が輝いたのを、姿を消した北亀は見逃さなかった。
「あら、
最大限礼儀作法は学んでいる。皇帝に鉢合わせした処で何ら問題は無い。
右の手で拳を握り、左の手で其れを包み込む様にして美しい
「……ほう、黎族の淑妃か。して、お主は余に一度顔合わせした身で有りながら、
「んふふふ。
皇帝に
「
「ええそうですわ、自身の感覚に頼って
他に何か、とでも言わんばかりに笑みを向ければ、帝は
「主上‼」
焦った様な声が次々と側近らから放たれ、皇帝は眉間に皺を寄せた後に彼らを手で制した。
「霰琳よ。お主が妃らにいびられていると聞いて居るが」
「嗚呼、
何時の間にか敬語も抜け落ち、帝からの質問に応える
「
ぐっと顔を近づけて、菫花妃の真似事をした妖艶な笑みを作って見せる。……と
誰にも見えない様に、
「おい、こんな物
突如腕を掴まれ、待針を手に帝は霰琳に食って掛かった。
「お気付きになりましたか。常日頃から命を狙われる帝でしたら
「随分な悪戯娘だな、お前は」
「あら、
皇帝は、この件を大事にする気は無い様だ。仮にそうでなかったとしたら、霰琳の命は
「なぁに、深い意味は無い。過ぎた悪戯ばかりする女だと思った
「んふふ、帝がそんな事を仰るなんて。わたくしは
(自覚は有りますけれど、少々不快ですわ)
「ぅわははは、良く言う。町娘も驚く程の転婆さだ」
機嫌良く豪快にからからと笑う帝に辟易し
「では、そろそろ
扉に手を掛け、勢いよく開け放つ。
「また、御会い出来る事を娯しみにして居ります、天子様」
霰琳らしからぬ毒々しい微笑みを
「あ、御料理はとても美味しかったですわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます