弐 『黎 霰琳』
その一族に生まれた娘——名を、黎
——黒曜宮。
「邪魔するぞ、淑妃殿?」
——ふと、衣擦れの音が聞こえたかと思えば、
「菫花様、要件をお話ししては
「
菫花妃は長い
「あ……
ひく、と間を置かずして顔を上げた霰琳の身体が跳ねる。思わずといった風に上げた顔には
彼女らの侍女が見当たらない辺り、寝殿の外に置いてきているのだろう。
——霰琳は、淑妃として正当に扱われては
「怯えておるのかえ? 可愛らしい者よのう、淑妃殿は。まあ
「…………ふっ」
「菫花様に対し
「い、いえっ。申し訳御座いません。わたくしの失態ですわ」
——そんな彼女は、気弱な豆腐精神の
(ふふふふふ。
心で
(それにしても——、見に来て〝やった〟とは余りにも
現後宮には皇后が居ない。後宮の主は帝だが、其れらを
「申訳御座いません、申訳御座いません……」
がたがたと肩を震わせ、菫花妃の足元に
「
「っ……?」
逆光を受けた菫花妃の、
(ふふ、恐い恐い。わたくしをどれ程
綻ぶ口許と笑声を抑えて、陰気な顔を
「
「い゛っ」
菫花妃は霰琳の髪を乱雑に引っ掴んだ。苦痛に
「菫花様! 此の愚者の所為で菫花様の御手が汚れているのです。」
自らが慕う者の愚行を目の当たりにしても、一切の動揺無く受入れる様は驚きを通り越して滑稽だ。
(
「……
未だ激昂している菫花妃を見上げて
「ぶへ」
意図せず
(嗚呼っ、そうでしたわ。
「……っう……」
途端にはらはらと涙を
「よく、そうも涙を流す者だのう。興が削がれたわ」
「そうなのです。
一言残して去る二人の背を潤んだ瞳で見送った。
「んふふふ、ふふふ」
薄笑いを浮かべ
「こうして相手の反応を窺うのはとても娯しいわ……
場を作り、自らを偽り続けて作り上げた賜物だ。
霰琳は、
「次は、どんな
——直後、黒曜宮内にて菫花妃と月汐妃、其の侍女らの悲鳴が聞こえた。
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