壱 『妃』

 今現在其処そこでは、貴妃主催の茶会が行われてる。上級妃達にって定期的に開催されるの茶会は、交代制で主催者を変えていた。


「次の茶会、主催はわらわで合っておるな? ほんに楽しみな事じゃのう。次回とて、よい茶会にしたいものだ」

 賢妃、リゥ 菫花ジンファ。現帝の寵愛ちょうあいを己の物にしてる、現在の後宮にける寵妃ちょうひだ。の賢明さと堅忍質直な性格、妖艶ようえんな容姿で多くの支持者を抱えて居る。彼女の腕に絡み、愛撫あいぶされて猫さながらに喉を鳴らすのは青龍だ。

 の場でわざと己の神を顕現させた状態にするのは、神の存在はある種の地位だからである。神は普段眼晦めくらましで姿を隠すが、今は彼女らの命に従い顕現して居るのだろう。


「はい、菫花様で間違い無いのです。菫花様が主催でらせられる茶会に参加出来るなんて、夢の様なのです……~」

 徳妃、ハオ 月汐ユーシー。愛らしい容姿と柔和で客観的な性格故に、下級妃や官女達の庇護欲をき立てる存在だ。寵妃の座は程遠いが、菫花妃一筋の狂信者と化している。月汐妃の膝に乗り、温かそうに丸まって眠るのは白虎。


「この茶会は、私達の交流を目的としたものですからね。今回は大変良い回となりましたし、次回にも期待していますよ」

 貴妃、フゥア 藜蘭リーラン。現寵妃は菫花妃だが、彼女とは寵妃の座を奪い合う仲だ。明朗な性格と先見性が在る事が、菫花妃と渡り合える所以ゆえんろう。肩に止まって羽を休め、くちばしで体を整えるのは鳳凰だ。


「時に、月汐殿と藜蘭殿よ。れは如何どうしておるかえ?」

「——嗚呼、嗚呼、菫花様。あの者の事等捨て置いても良いのです」

 一瞬にして空気が凍り付く。妃らの傍に控える其々それぞれの侍女達に緊張が走った。

「月汐殿よ。不本意じゃが、わらわらは彼奴あやつと地位の等しき上級妃。最低限の世話や生存確認程度は、公務と見なしてやらねば」

「……確かに、れは否定出来ないですね。私もしばらく経てば見に行く事にします。れは今頃黒曜宮こくようきゅうの隅にでも居ると思いますし」

 藜蘭妃はふふ、と人畜無害な笑みをこぼす。薄く開いた瞼から、わらう蕉紅色チャオホンスーの瞳が揺らいだ。

「そうか、れは上々。れには、後に顔でも見せてやろうかのう」

 艶麗えんれいな菫花妃の口から紡がれることに、月汐妃は相貌を崩した恍惚の笑みを浮かべる。


瑠璃唐草(ネモフィラ)君影草(スズラン)仏桑花(ハイビスカス)の花が飾られた室内で、和やかで冷ややかな語らいは続いた。れを彩るは花々の色。天色あまいろ月白げっぱく濃紅こいくれない……、東西南を司る神獣の色だ。だが其処そこに漆黒は無い。彼女らの中に、〝黒〟は存在していないのだ。

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