霰琳妃の悪戯嗤い

天之那弥日神(アメノナヤビノカミ)

序章 

 の世には神が存在する。

 人の子の守護者で在るが、互いに相容れぬ存在、れが神だ。

 国を護る神、国守神くにもりがみと呼ばれる神らは、壱国いっこくに付き数柱在している。万壱まんいち、国守神を有する国同士で戦が起きたのであれば、神の神格や数にって勝敗が決まるであろう。れ程までに、神は世界にとって重要なのだ。



 此処ここ鬩霓国かくげいこくは〝五神獣ごしんじゅう〟と呼ばれる五柱の国守神が在している国。



 〝麒麟きりん〟。彼の者は中央に位置し、『富』をつかさどりて四季にたける。

 〝青龍せいりゅう〟。彼の者は東に位置し、『流』を司りて春に躍る。

 〝白虎びゃっこ〟。彼の者は西に位置し、『豊』を司りて秋に駆ける。

 〝鳳凰ほうおう〟。彼の者は南に位置し、『祓』を司りて夏に舞う。

 〝玄武げんぶ〟。彼の者は北に位置し、『武』を司りて冬に歩む。



 五神獣の神格は其処そこらの国守神を軽く超え、負け無しの戦を引き起こした。

 国の各方位、東西南北には神獣を信仰するよんの一族が居を構えており、その権威は帝に次ぐ程。

 東端のリゥ家、西端のハオ家。南端のフゥア家と、北端のリー家。 中央の麒麟を信仰する一族とは即ち皇族である。

 五族に生まれた女には、壱世代に壱度いちどだけ神が憑く事があった。必ず各家の女児が毎度神憑きとなり、かんなぎと称せられる。の任は神の意志を伝える事だが、求められるのは神の制御と徹底した管理だ。

 巫と成った女は彼らと対話する異能を手にし、国家繁栄の為皇帝に嫁ぐ。要するに後宮入りだ。四家の巫は人々の崇拝の対象でもあり、蝶よ花よと育てられて上級妃となり、果てには国母にさえ成り得る。


 神は人の子に執着した。己と遺伝子の遠い存在に焦がれるからだ。人の子は神を利用し、神は人の子に安らぎを求める。



 ——れは、そんな玄武の巫である妃の、たのしい喜劇である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る