拾壱 『亡人』北亀

 玄武の巫は、代々非常に短命であったとされている。巫の役七割が衰弱死だ。歴代の玄武の巫女の中に、定められた天寿を全うした女は一人も居ない。

『どの人の子もやっぱり弱いなぁ、此れ位の神気にも耐えられないんてねぇ』

 どれも此れも期待外れだと、玄武は退屈極まりない顔をぐでんと横に傾ける。


 人の子は、精神や体に於いてどの生物よりも脆く作られていた。

 麒麟を除いた四神の、最も古くから存在する玄武は他より保有する神気量が多い。故に、玄武から溢れ出る強い神気を人の子の身体が受付けず逝った。

 もう、誰の名も顔も覚えていない。



 ——あ■者は■■で選定さ■れ、■■■で死■だ。実在す■のかも曖昧■が、風に揺■■■の子の髪色■油煙■色だっ■■だろ■か。

 ——ある者は齢■で選定され、元■病弱でしとねに伏■■た状態だった。彼女は選定の祝■にて、身罷みまかる。

 ——ある者は■歳で選定され、誕辰を迎えた明後日には棺の中に居た。命を受けた記憶もなく、涙乍■に白詰草(シロツメクサ)の花冠を作る姿だけを覚え■いる。



『誰だっけ、君』

 頭の中で描いた一世代前の巫は、顔だけもやが掛って名が出てこない。影法師と輪郭が浮かび上がり、すうっと記憶の彼方に消えていった。

『まぁいいや』

 如何でもいい。

 安らぎ等求めてはいない。

 巫の存在に胸が高鳴る事、惹かれる事は一度たりとも無かった。

『年端も行かない、十に満たぬ頃に死ぬ気持ちはど~う?』

 褥で浅い呼吸を繰返くりかえす巫達に、毎度玄武はそう問う。今迄答えた者は居ないが、玄武を睨み付けてそのまま逝った者は大勢存在した。

『そっかぁ、人の子にとって此れは不幸と呼ぶものなんだねぇ』

 ——玄武からすれば命など、容易く奪って与えて嬲る事のできる玩具に過ぎない。

『——〝たかが〟人の子が一人死んだ処で、何にも変わんないのに』

 生殺与奪の権を握るのは、如何なる時も神である。

 其れを制御するのが巫だが、玄武の巫に限っては全く機能していなかった。


『あ~ぁ、もっと面白い子が来ないかなぁ』

 例えば、僕の神気に耐えるばかりか命を下す子だとか、と妄想に笑む玄武だった。

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