拾参 『人殺し』
——後宮入りの為に皇都へ向かう際、父と母を殺した
「こんなにも座席を汚してしまっては、もう座れないわ」
困り顔で頬に手を添えたまま、広い馬車内で立ち
悲鳴が漏れぬ様、事前に閉めた窓越しに明るい陽光が入り込んだ。薄手の黒
「もう昼時なのね」
窓掛を横に流し、窓を開けて車外に顔を突き出した。
其処から更に身を
身を乗り出した状態から一歩下がって馬車内に戻った瞬間、がたんっと馬車が大きく揺れた。
「ふひぇっ」
『おぉっと』
ひっくり返る様に後転しかけた霰琳を、咄嗟に顕現した
「ん、あわわ、なな」
『
其の呑気な声音に、霰琳は正気へと戻った。熱を持った
「な、何でもありませんわ……」
『んはは、可愛いなぁ。
「あっわ、わたくしを降ろしなさい、北亀!」
『あ~ぁ、折角小霰の照れてるとこ見れたのに。だけど、真名を使われちゃぁ絶対服従なんだよねぇ』
普段の北亀は、真名を呼び命ずれば嬉々とした表情を見せる。己に出来る事があるのが堪らなく嬉しいのだという。しかし、此の時に
互いの新しい顔を見つける事に正の感情を抱くのは、新たに知った北亀との共通点だ。
「何だかとても疲れたわ」
黒
「幼き頃から殺しを習っては居たけれど、いざ己の手で
ふる、と微かに身震いした霰琳。隣で其れに気付いた北亀は、横から彼女に 耳元でそっと囁いた。
『此の世に幾億万もある人の子の命をたった二つ奪った処で、何にも変わんないよ? 小霰は、そんな事で怖がる様な子じゃないもんねぇ』
「……幾億万分の
『そうそう。僕の小霰は臆病なんかじゃなくて、強い人の子なんだよ』
「わたくしは、強……」
とろんと
「……わたくしは、〝
魔性の声音に流されて、洗脳の如く思考が揺らぐ。頭にぼんやりと
此れぞ神の御業。肉体と共に精神にも働きかけ、其の領域に連れ込む。武を司りし玄武が、武術の次に得意とするものだ。
『………ふ~ん、そうかぁ。此れが人殺しって言うんだ? じゃあ小霰も人殺しだねぇ、まあ小霰は幾ら
——神に殺しの概念はない。
神の手で冥界へと
『小霰は
——其れは、只単に北亀の願いだ。
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