肆 『茶会』

 寝醒ねざめると、目前には北亀が控えている。霰琳は間近の美貌に驚くこと無く、太々ふてぶてしい顔を見せた。

「起きてすぐに、顔面で攻撃するのは止めて欲しいわ」

『えぇ、何でぇ? 寝てる時の小霰も可愛いから、ずぅっと見てたいんだけどなぁ。嗚呼、そう言えば昨夜、れを拾ったんだったぁ。小霰、れは必要な物?』

(今、話を逸らしたでしょう)

 すたれた紙を手渡され、付いた土を払う。

 〝这次由龙剑公主主持茶道。这个物品是为了公主们之间的交流而设计的。〟

れは……茶会への招待状ですわ。妃同士の交流を目的とした琉賢妃主催の茶会行う……という風に招待されて居ますが、如何どうしたら良いでしょう?」

『まぁ、僕は小霰が危険にさらされるものじゃなければ別にいいんだけどぉ』

「わたくしもこんな物を貰ったのは初めてですし……抑々そもそも、北亀が拾って来た物ですからててったのではないかしら」 

 二人揃って顎に手を当て、顔を見合わせる。

「ですが、折角ならば参加してみましょう!」

 何時いつも以上に瞳を輝かせ、期待と悪戯心に心を躍らせた。

流石さすがにわたくしが参加した茶会で何も無いなんてことは無いでしょう。嗚呼、どんな事が起こるかしら」

『侍女が一人ぐらいは死ぬんじゃないかなぁ』

 ——の時、の予想が大凡おおよそ合ってたとは夢にも思わず。


 ~~~


れにしても、誰が淑妃に招待状を届けたのか。誰も知らないのね?」

「はい。存じて居りません」

 従順な侍女らの声を聞き、赫貴妃は困り眉で上級妃達を見回した。

 ——其処そこには、獣型の北亀を抱き抱えた霰琳がる。

「ふん、まあ良い。わらわは淑妃殿等呼んでは無いが、の場に留まる事は許してやろうぞ」

「あ、有難ありがたく参加させて頂きますわ」

 何時何時いつなんどきも、しおらしい演技は忘れなかった。

 各妃の侍女が茶を淹れるが、霰琳付きの侍女は存在しない。誰も霰琳に茶を運ぶ事無く、茶会が始まった。

 こくり、と喉を鳴らして茶を飲む妃らを眺めて惚けていると、突如月汐妃が倒れる。

「きゃあああぁ」

「月汐様!」

 正に阿鼻叫喚の地獄絵図。妃も侍女も見境無く、誰もが叫んで絶叫を撒き散らしていた。

 かしゃんと音を立てて床に落ち、砕け散った白い茶器。

「あら、だ何も起きていないのに毒殺騒ぎでしょうか。少しだけでも余興として何かあったら良かったのだけれど」

「毒見役、前に出て来てなさい‼」

 頬に手を当て悄気しょげた様子で嘆くが、周囲はどころでは無いと騒ぎ立てる。

「……あ」

 あたりで霰琳ははたと気付いた。の展開では、霰琳が疑われるのが必然ではないのかと。

「ど、毒見役は私で御座ございます。あの、の茶を事前に毒見した時は毒など入ってらず……」

「だとすると、直前に毒を盛ったに違いありません。の香は鳥兜とりかぶとですね。確か黒曜宮の庭では、鳥兜を含め数多の草花が咲乱さきみだれる百花繚乱の光景が見られるのだとか……」

まずい……面倒臭いからと放置した庭があだとなってしまいましたわ。何時いつの間にか知らない草が生えている事も多いですし)

「図星ですね? 黎淑妃」

 意味有り気なの視線に、霰琳の背筋が凍り付いた。嗚呼、れは駄目なやつだと。

 ——そうして、霰琳は牢へと放り込まれた。

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