第30話 神の破壊
はっきりと聞こえる声、見えない姿。前と同じ嫌悪感。強欲の魔女だ。幻覚で彼女が出るとは思っていなかった。意識も遠くなり今もなおこうして魔力を固め続けているのは意思とかではない。作ってしまったブラックホールに溢れる魔力が吸われているだけだ。
『幻覚じゃないのよ? ちゃんと話しかけているの。相当弱っているから、助けたいのだけど、少し離れているし、強制の魔女が邪魔でね……ごめんねぇ。助けてあげられなくて、そんなに傷つけちゃって……』
感覚も消えたはずだというのに全身をまさぐられるような感覚が駆け巡る。頭から足の爪先までの全てに伝わる。
『私が守ってあげるからね――』
声が途切れ、解放される。そして響く声。
『条件が満たされました。強欲の呪いが付与されました。《欲望過多 》によりシンクロが起こります。』
痛みが消えた。それどころか、さらに魔力が増えた様な気がする。しかし慣れた力ではない。嫌いな魔力。不快な魔力が体内を流れるのを感じる。想像するような立ち上る魔力ではなくドロッとした後に続くような重く深い魔力。
さっさとすべを吐き出したい。
増えた魔力をすぐさまに吐き出す。放出された魔力は生み出した星に吸収をされる。その魔力に耐えられなかったのか、拒絶したのか黄金に閉じ込められ暗い牢獄に光が差す。火傷してしまうほど熱い光にてらされ視界が真っ白となる。
「――ディヴィニティ・デモリション 」
魔力を流し続け中心のエネルギーを抑えていた魔力を止める。抑圧が無くなり、解放されたエネルギーが爆発する。一瞬の光を感じ取り、意識が無くなる。
「セレーナ!! ヤバいのです!!」
いとも簡単に黄金を砕き、粉々にし、塵まで消す勢いの爆発。激しい光と衝撃波が伝わり、少し遅れて何もかもが崩れ壊れていく音が聞こえる。まるで一つの星が爆発したような大きな爆発。
何も残さない光に包まれる。
***
やがて国土全てを包んだ光は消える。そしてそこにあったはずの物も全てが消えている。辺りは更地と化し、立派な黄金の宮殿はどこにも見当たらない。小さな金が辺りに散らばるばかりである。
黄金が散乱する地面がもぞもぞと動き四人の顔が見える。衝撃波により元居た場所からズレているのは頷ける。だが、辺りを広く見まわし全員が困惑する。ここはどこだ。と、
「使徒様ー! どこですー?」
呼ぶ声に反応はない。どこから探そうか悩むほどである。なにせ記憶には無い地形へと変貌しているためである。一目で分かる爆発の中心地は大きく抉れ、そこだけが異様に窪んでいる。さらさらとした黄金が風に吹かれ舞い上がる。窪みの淵に刺さる黄金の残骸が確かにここに都市があったことを指し示す。
「……この中から探すです? 一生終わる気がしないです……」
その力に感服し、ただ唖然とするのも可笑しい話でない。十三の魔女の使徒とは言えこれ程の力があってよい物ではない。驚きながらも流砂を滑りながら下って行く。これ程の技の中生きている筈がない。それは敵と同時に今探している人も同じだ。三人の声が聞こえるだけで応答はない。
「生きていらっしゃるのでしょうか」
「大丈夫ですわ。あれほどの力の持ち主が自分の力で死にましたなんてあり得るはずがないですわ!」
出まかせにすぎない言葉を吐きながら祈る事しかできない。アレを耐え抜くことなど人間である彼は疎か魔女でさえ、最強の名を持つ十三人にも大きなダメージを与えられることだろう。日も長くは持たない。息があったとしても砂に埋もれ気を失っているならばそこで死んでしまうかもしれない。
「――使徒様!!」
その祈りは幸運にも届いた。
遠くから声が聞こえる。ぼんやりとする意識の中で確実に聞き取る。
あの爆発で何故か生きているようだ。運がいいな……
手を伸ばし自分の位置を伝える。
『《希望の魂 》が発動しました。想定以上のシンクロが起きました一度中断します。』
頭に響く声『発動しました。』土壇場で能力を獲得していたのだろう。
「使徒様ー! 生きていらっしゃいますわよねー?」
声が聞こえるが、中々ここまでたどり着かない。こちらも呼ぼうとするが、声が出ない。体に痛みはあまりない。バフの効果を受けているのだろう。《起死回生》か、《死に物狂い》。どちらにせよ瀕死でしか発動しない。状態はあまり良くない。
「使徒様居たですー!」
視界の上からひょっこりと顔を出すアセナ。見た感じ重症では無い様だ。逃がして正解だった。
「使徒様体がないですよ!?」
「うぇ!?」
「生きてたです! ちなみに体もあるです」
無かったら死んでるだろ……
確認の仕方に少し思うところはあるが、良いとしよう。セレーナ、ララノアも合流しする。皆あの勇者との戦いより酷くなっていない。あの爆発からも逃げ切ったのだろう。
生きているとは言え魔力を使い果たしたためか思うように力が出ずアセナにおんぶされて近郊の街まで行くことにした。
黄金の宮殿は跡形もなく。散らばる砂金が多少すごいと思える程度にしかならない。黄金の魔女の消息は分からない。たが多分生きているだろう。目の前に現れたのは黄金の形を変えて本体に似せただけのただの黄金だろう。おそらく本体は地中の中にあるのだろう。あのまま下の棘に刺して暴発させるのが一番早い方法だと言うのにわざわざ空中で捕らえたのが分かりやすい。
「そう言えば、あの勇者はどうしたんだ?」
「適当に置いて来たです。生きてるです」
「ならいいか」
「また、襲われるかもしれませんわよ?」
「使徒様の方が強いから大丈夫でしょう」
「俺は魔女も退けたからな!」
他愛もない話、金も集まり、日常へ戻る。
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