第二章 強欲の配下
第8話 居候
「……疲れた。ただ平地を歩くだけとかつまらなすぎる」
これならクエイについて来てもらった方が良かった気がする。たまに魔物が出てくるけど弱すぎる。なんの能力も手に入らない。
平坦な草原がどこまでも続くようで国の道案内すら見えてこない。ただただ歩き続け、腹が減ってくるが、周りには道の駅もない。ふと前の世界と比べる。
意地を張るように高く積み上げた建物が日差しを覆い日の届かない日陰だらけの高層社会。皆何かに追われるように歩き舗装され、ルートの確立された地面。外音をかき消すイヤホンもない。
壮大で広々として、日に当たりながら景色を、音を楽しめる世界。草の上を歩いたり、何回も通り自然にできた道を踏み、何に追われることなく、気ままに自由の意志に歩くことの出来る世界。
「良い世界じゃん。前の世界よりかは楽しいかな」
『強欲の使徒』と重い名分があるがそんなものは二の次でも良い。異世界ライフを満喫する。未だやることは決まっていない。行く道を拒まれ、ここにしか吹けない風ではない。何のための転生か、その真実を知るまでの道のりはいくらでもある。
「まずは、お腹すいたし肉でも探して食べるか」
森に入ればそこは草原のように優しいものではない。木の根が盛り上げ見たことの無い植物が生い茂り足場を悪くする。この場に向いていない元居た世界の制服で歩き回るのは少し難しいが唯一の元の世界の遺品であり手放すのには抵抗があった。
草原とは違い多くの魔物に出くわしたがどれも一人で対処できる程度の魔物ばかり。そしてついに、
「あれは!? イノシシ! ……なのか?」
元の世界では考えられない程の大きさのイノシシ。カバやゾウなどと比べても何ら大差はない程だ。倒すことは容易であろう。そう思い近づいた時、遠方から猛スピードで突撃してくる奴がいる。足音は段々と近づいてき、見事にイノシシに体当し、吹っ飛ばす。
――また敵かよ。どれだけ強欲嫌われてんだよ!?
「――強欲の使徒様! ただいまです! 黒狼族のアセナです!」
「……え?」
「強欲の使徒様! きょ、今日はどうなさったんですか!?」
これが獣人か……近くで見るとしっぽがフサフサしてて可愛いな。
目線は同じようなものだかどこか身体が大きく見える。尻尾、耳の形、その辺の特徴は前の世界と同じだが体は人間である。奇麗な琥珀色の大きな目、尻尾は跳ね上がりゆらゆらと大きく揺れている。
「……何か御無礼をしましたですか?」
そうえば人間の言葉使ってるんだな。敬語とか慣れてないのか?カタコトだけど。
「いや、失礼とかじゃないんだけど、獣人をしっかり見るのは初めてでね、少し見てただけだから気にしないで。」
「え、えっと……もっと見たいなら、服でも脱ぎますですか?」
「えッ! いや違くて、大丈夫……」
獣人ってみんなこんな感じなのか? 確かに獣は服とか着ないし、こういうのも大丈夫なのか!?
「それで今日はどうしたですか?まさか……私を始末しに来たですか?」
尻尾が逆立ち、鋭い目つきでこちらを見据える。少し前傾になった体は一瞬にして距離を詰めれるだろう。うっすらと聞こえる警戒の呻き声。
──何故そうなる!? めちゃくちゃ警戒されている。もしや……強欲の力を警戒してるのか? 溢れ出す何かがあるのか!?
「ただ国を追い出されたからフラフラしてただけ。」
「──じゃあ、強欲の使徒様は私を連れて国を滅ぼそうってことだ!!」
……何故そうなる!? しかもめっちゃニコニコしている! これが黒狼族か……
黒狼は少し怖いなと苦笑いを浮かべる。
いくら強欲の力があるからって国は……何でこいつ俺が強欲の使徒って知ってんの?
「俺が強欲の使徒だってどうやって知ったんだ?」
もしかして、国際指名手配犯になってるのか!?
「それはアセナも強欲の魔女の配下ですから! なんか分かったです!」
って事は、こいつは魔女にあったことあるのか!
「……強欲の魔女ってどんな奴だったっけ?」
「忘れたですか? アセナもあんまり思い出したくないです! 強欲の魔女様はアセナの村を襲ってきたです!」
──もうなんか嫌われる理由分かった。
「──それで、従属の呪いをかけてきたです。けど、そのあとからずっとほっとかれてるです!」
興味が無くなったらどうでもいいってことか。こりゃ仲間にも嫌われてることだろうな。
「見た目とか覚えてる?」
「覚えてないです!」
人柄は分かったからとりあえず良いか……それにしてもめんどくさい人の使徒になっちゃたな。
「それで使徒様は国を滅ぼさないなら何しに来たですか?」
王国を追放され行く当てもなければ、頼れる人ももういない。ならば道は一つ! これにかけるしかない、
「僕をここに居候させてください!!」
強欲の魔女に会いに行くのが目標だが、どこにいるかも分からない。ならばまったりスローライフでもしながら気長に探すしかない。
急に居候させてくれと頼むからだ。アセナもキョトーンとしている。
「良いです!!」
軽く許可をもらった。
***
「どうぞです。使徒様! 取れたての肉です!!」
目の前にさっきの大きいイノシシの肉が出される。ついさっき殺したばかりの鮮度ばっちりの肉だが、
「処理とかは、してくれないの……?」
力で思いっきり引き裂かれ、小分けになった、獣の皮がついたままの肉塊。火も通しておらず、まだ血が流れている。人間が食べれる品物ではなかった。
……この生活は大変だな。
そもそもアセナにも家らしい家はなかった。縄張りを転々としながら生活していたためである。
「食わないですか?じゃあ食べますです!」
ここで居候するのと、一人で旅しながら生きていくのはあまり変わりがなかった。
「まず焼こう。それから食べよう。」
居候となり数週間が過ぎる。この生活もより安定したものへとなってきた。当初の問題は衣食住の住だった。何分建築のスキルもなければ知識も無い。木を結ぶなどは出来ないことは無いが、それで住めるかと言われれば酷いものだ。今ではアセナが大木を見つけ根をかき分けまるでリスのような生活をしている。雨風が多少防げるだけ十分と基準が低すぎる。この生活はあまり続けたいものではない。
食事はとって来てくれるがそれ以外が出来ない。火のつけ方など、教えれば出来るのだが理解までが長い。力で何とかなってきたと本人は語るが良く生きてこれたなと感心するレベルだ。
「――違う。トイレは向こうだ。あとモグモグしたままトイレに行こうとするな」
「は~いです。あとアセナは狩りに行ってくるです!」
「分かった。俺は木の実とかでも採ってくるよ。」
アセナは肉しか捕ってこない。おかげで顎の力がどんどん上がっていっていることだろう。食事に関しては元の世界が恋しいと思うことが増えてきた。せめて前の王国ぐらいの物でもいいからしっかりと整ったものが食べたい。
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