第7話 追放
そして現在――
「強欲の魔女の使徒など今すぐ処刑だ!」
「何を言っているのですか? こいつがいなければ今頃二乗の魔女によって国は莫大な被害を受けていたんですよ? 国の恩人を死刑にはできません。」
「お前らは魔女の使徒の肩を持つというのか!? さてはお前らも魔女の手先なのだろうな!」
「何を言っておられるのですか?恩を仇で返すなどありえてはいけない。死刑にはできません。」
傷がまだ完全に癒えてない中、僕の運命を握る裁判と言うか、ただの言い争いが起きている。有罪だと困るので無罪にしてほしいものだが、『強欲の魔女の使徒』という身分が足枷となっている。
「――そもそも強欲の魔女に使徒を死刑にしたとなったら、強欲の魔女がこの国を終わらせに来るかもだろうが!」
「貧民は黙っていろ! なんだその身なりは汚らしい。部外者はさっさと帰れ!」
「アタシも魔女倒すのに協力したんだけど? 部外者じゃねーし!」
なんかノリノリでクエイも口論してる。貴族への日頃の鬱憤を晴らしているのが分かり、いつになく生き生きとしているのが窺える。クエイの体の傷はそこまで重症なものは無かった。問題は僕の方でなぜ動けていたのか、なぜ生きているのかというレベルだったそうだ。
しかし異世界、回復速度はすさまじく一ヶ月足らずで一人で動き回れるようになった。これも強欲の魔女のおかげなら感謝をしたいところだが、こうして嫌われるのも強欲のせいなので何とも言えない。
「そもそもこいつが簡単に死刑にできると思ってるのか? 魔女を倒す力を持ってるんだぞ!」
入院中に色々検査されて俺の強さは英雄級の力があることが分かった。人間の中で一番強いとされるのが『勇者』であり次に『英雄』、『兵士』という序列。さらに強欲の力もある。
そう、俺は世に言う異世界でチート無双して最高の人生を送ります状態と言うわけだ。
あとはハーレムパーティーを作るだけだ。すべてがうまく行っている
「――ならば、国外追放だ!! こんな奴が国に居たら夜も眠れん。」
***
……そうだな、うまく行ってない事というと魔女がめっちゃ嫌われていて、国外追放になったことだな。
「さてどうするものか……」
「今日中にだろ? まだ時間はある。案内の続きだっただろ?」
「お金は無いからな。勘弁してくれよ?」
クエイの報奨金があるそうなので。国中を練り歩いた。この世界に来てからこうもすぐに出て行く羽目になるなど思ってもいなかった。
時間を忘れ楽しんでしまった。異世界は見たことの無いものが沢山で、でっかいトカゲみたいのにも乗ってみた。聞いたことの無い肉の部位は意外とおいしかった。この世界の事を聞き、元居た世界の話をした。
行くあてもないし、そもそもこの世界の事なんて全く分からない。この先は何が起こってもおかしくない。一人でやっていかなければならない訳であって。助けは望み薄だ。
「……本当に行っちまうのか? 大丈夫だバレやしないからここに居ようぜ?」
消してここから居なくなりたい訳では無い。この国で暮らしても良かった。だが、強欲の力がそうさせない。魔女の端くれと転生してしまったから。
無言の返事を察するが、クエイは引き下がらない。
「じゃあアタシも付いていくよ! これならいいだろ?」
……正直言ってありがたい。だが、クエイにはきついだろう。
人から嫌われ、何故か魔女からも恨まれている。絶対に助けられる自信は無い。俺に着いて来たらまずまともな生活にはならない。
「――ごめん。連れては行けない。危なすぎる。」
「アタシだって役には立つだろ? 確かに魔女とかには全く歯が立たないけど……お前はこの世界の事全く分からないだろ? ほかの街に行ってもボッタクられたりして終わるだけだ!」
……その通り過ぎる。何も言えない。痛い所をついてくる。
「それでも、連れては行けない。クエイ、君はここに残っててくれ。確かにここに居ても裕福には暮らせないかもしれない。それでもここの中なら安全だ。せっかく一回守った人が死ぬのは嫌なんだ。だからクエイはここに居てくれ。」
「――でも、」
「それに、クエイは強欲が嫌いだろ?過去に何があったかは知らないけど、間違いなく何かはあったんだろ?」
クエイの言葉が詰まる。
「クエイはここに居てくれ。いつか勝手に門をくぐって会いに来るから。」
「――そんな事したら捕まっちまうぞ?」
決心したのだろう。クエイは少し笑いながら答えてくれた。
「まぁ、今日はもう日も暮れ始めているからな外には出れないぜ!」
「……確かにな。今日くらいはまぁ、良いだろ」
***
クエイの家にお邪魔する。見た目は寒そうだが、風などはしのげて意外と寝れる環境だった。旅のアドバイスという名目で話は進む。実際にはこの世界の根本的な話であり、硬貨の数え方などの五才から分かるような物から異世界特有、この世界の当たり前のことも聞いた。
まず魔女。伝承や物語ではその上の存在がいるとかの設定があるそうだが、現状最強は魔女だそうだ。しかし初日から魔女を倒している為あまり脅威とは思っていない。自分の今の力を深く過信している気はない。
種族。異世界にはやはりコミュニケーションを取ることが可能な生物が沢山いるらしい。身近な者だと獣人。希少価値の高い者は高値で売れるらしく、やはり転生者も範囲内なのかもしれない。まともな監視は無いためすぐ連れ去れれると聞いた時には息を飲んだ。
次に魔法。戦闘に使えたらラッキーだそうだ。大半はそこまでの高出力では出せない。出せるだけの魔力があるならば『勇者』、『英雄』になれるそうだ。
そしてご飯はちゃんと食べる事と水は定期的に浴びろと言われた。あと服も変えろと言われたが唯一のもとの世界の遺品だ。多少血にぬれても大丈夫と押し通した。
「……お前には関係ない。とは言い切れないけど、アタシは強欲の魔女が嫌いなんだ」
静かな夜、日中とは違い静かな声でクエイが話す。それは強欲の魔女の事でなぜ嫌いで何があったかを断片的にだが教えてくれた。
聞いている限り強欲の魔女は何故この世界中の奴らから嫌われているか分かってきた。
「――旅する形になるんだろ? ならさ、もしテルフォードの名前がいたら私を知ってるか聞いてみてくれ。あんな事しに行って生きてるか分からないけどさ」
「分かった。次来た時には他の国の事とか、野宿の事とか勿論今の事も色々教えてやるからな」
「約束だぞ?」
返事を返し、静かになった空気から微かに寝息が聞こえ始める。ゆっくりと目を瞑り、眠りについた。
「――また、会いに来いよ! アタシはここに居る。絶対に死ぬなよ?」
クエイから渡されたナイフとその他の多少の旅道具。決して上物とは言えないが心強い。
「俺は意外と強いんだぜ!? また会いに来るからな。元気でいろよ?」
そして二人は別れた。早朝から行くあてもないまま馬車の通った跡を沿って歩き出す。
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