第6話 条件
「アンタが頑張っても十秒ももたないでしょうね。だったらアタシも殺ってやろうじゃない!」
「カッコつけたかったんだけどな、まぁ、ありがとな」
「ハイハイ、かっこいい死にざまね~」
覚悟は決まった。クエイも、もちろん俺も死にたくはない。一斉に走り出し、殺しにかかる。能力の差は明らかだ。が、こんなところで死ぬ気はさらさらない。挟み撃ちにして攻撃をけしかけるが、
「当たらないよ? 本気でこの私を倒そうとか考えてないでしょうね? 笑わせないでよね、これでどう勝つって言うの? 大人しく無惨に殺されればいいのにね」
やすやすとかわされ、当たる気がしない。宙をただ切り裂く音とあざけ笑う声しか聞こえない。無駄にナイフを振り下ろし、体力だけが減っている。
期待をしていた。もしかすると力が覚醒すんじゃないかと、奥底では勇者になってみたかった。そんな妄想は現実を前に役に立たない。未来も見えなければ、いきなり動けるようにもならない。圧倒的な差は縮まることを知らない。
「もう遊びは終りね――」
振り上げた拳は、殺しにかかるように固くは握られていないが、二乗……どうなるかは分からない。
クエイが死を察知したのか、苦笑いを浮かべる。
――死なせない――!!
一丁前に動いた体に鈍い音と共に痛みが駆け巡る。反動により吹っ飛ばされ、地面に伏す。口の中に広がる血の味、覚えのある味。
――また、死ぬんだろうか。
少しでも動こうとすると痛みで死んでしまいそうになる。
「マコト!! 生きてるんだろ? 死んでも生き返られるんだろ?」
――生き返るか……これはコンテニューできそうにないな。一回殺させて、また殺されて、一日に何回死ねばいいんだよ? せっかく異世界に来たのに、まだ何も成せてないじゃん。
「――まだ死にたくない……こんなところで……!!」
『条件を満たしました。強欲が発動。
突如として頭に響く声。転移した時から頭に響く声、こういう展開を俺は知っている。
起死回生……これならやれる気がする。
「……おっ、おい大丈夫なのか?」
「まだ生きてたのか、頑丈だな。全体的に能力値が高いのか。だからと言ってももう死にかけだッ――」
真っすぐ最高速度で突撃。一点集中の一撃。完全に油断し反応が送れている。一瞬にして片目を刺す。
「ッツ、クソガァァァァ!!」
……とっても冴えてる気がする。相手の攻撃が見える。この傷も浅くはないはずなのに、調子がいい。
大ぶりの拳をかわし、左下から右上へと一気に切り裂く。魔女の攻撃が空を殴り、切り傷を確実に当てていく。
「ッチ! 調子に乗るなよ!! 魔女に勝てるわけがないだろうガァァ!!」
一撃、一撃が着実にダメージを重ねていく。浅い傷口から血を垂れ流し、服のにじみを通り越し宙に跳ねる。力任せにただ暴れるだけしか考えていない頭は失血死などという言葉は詰まっていないのだろう。
「クッ――ッツ雑魚ガァ!」
魔女も負けずと地面を思いっきり叩きつけ破片が飛び散り土埃が舞う。視界を遮断し体制を立て直そうと考えているのだろうか、だが読める。動きが分かる。考えられる。大振りの一撃だった。そう簡単には動けないはず。
ナイフを一本、魔女がいた所に投げる。
「どこに!?」
反応した。魔女は位置を移動していない、立ち位置からして狙うはこっち側から……
片目を潰したことによる死角からの一撃。首を切り裂き、確実な致命傷を与える。薄い悲鳴が聴こえボタボタと血が溢れ出る。
「私は……魔女だぞ!! それがこんなやつに! せっかく貰った力なのに――」
ぼやける視界の中魔女が倒れていくのを見届ける。
地面に倒れ動かなくなり勝ったと気を抜く。
「マコトー! やったぞ! 魔女に勝ったんだぞお前! すごいな!」
油断しまくってるとは言え、この世界で一番強い種族をこんな序盤で倒すとは、俺の異世界ライフも、もうぶっ壊れちまったのだろうか。きっとこのまま強くなって、
「異世界ハーレムライフを堪能するんだろうな……」
「助かった。ありがとな。お前のハーレムライフに参加する気は無いけどアタシは最大限お前に協力するぞ!」
「無事でよかったよ」
「ごめんな。私のせいでそんなにボロボロになっちまって。すぐに直してくれるよう頼むからな」
全く感じない傷口のおかげで全然痛痛いとは思はない。さっき手に入れた能力の効果だろうか? だが、血が止まってないな。
「大丈夫か!? ふらついてるぞ!? 血もめっちゃ出てるし、どうすれば……街の連中がなんて言うか分かんないけど、助かるよな?」
「――それでは、ご一緒にご同行願いますか?」
後ろから声を掛けられる。見知らぬ人だが、身に着けているものからして……
「誰だよ。今忙しんだ、早くこいつの血止めないといけねーんだよ」
「申し遅れた、王国騎士団のものです。魔女の件でお聞きしたいことがあるのでついて来て頂きたい。もちろん傷の手当などもする。」
「そうか? ならついて行こう。安心しろマコト。助かるからな、ゆっくり休んでくれ」
この言葉を聞きすっかり安心してしまったのか、ここから先は記憶はない。
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