第8話 事件
「どうぞです。使徒様! 取れたての肉です!!」
目の前にさっきの大きいイノシシの肉が出される。ついさっき殺したばかりの鮮度ばっちりの肉だが、
「処理とかは、してくれないの……?」
力で思いっきり引き裂かれ、小分けになった、獣の皮がついたままの肉塊。火も通しておらず、まだ血が流れている。人間が食べれる品物ではなかった。
……この生活は大変だな。
そもそもアセナにも家らしい家はなかった。縄張りを転々としながら生活していたためである。
「食わないですか?じゃあ食べますです!」
ここで居候するのと、一人で旅しながら生きていくのはあまり変わりがなかった。
「まず焼こう。それから食べよう。」
***
アセナとの生活は消して楽なものではなかった。食事はとって来てくれるがそれ以外が出来ない。火のつけ方など、教えれば出来るのだが理解までが長い。
問題は衣食住の住だ。何分建築のスキルもなければ知識も無い。木を結ぶなどは出来ないことは無いが、それで住めるかと言われれば酷いものだ。
「アセナは狩りに行ってくるです!」
「分かった。俺は木の実とかでも採ってくるよ。」
アセナは肉しか捕ってこない。おかげで顎の力がどんどん上がっていってることだろう。
***
少し離れたところから地響きが聞こえてくる。一回ではなく何回も聞こえてくる。
これの犯人は紛れもなくアセナだろう。何回か狩りについて行ったことがあるが、加減が出来ないのだろう。一撃で大体倒していく。
狩りが終わったのか音が聞こえなくなる。
「そろそろ戻るか──」
所定の場所に戻るが6時間ほど立っても帰って来ない。
迷子になる事は無い。魔物に殺られたのかと思い、音が聞こえた方向へ足を進める。
歩いていくと少し開けた場所に来た。周りの木は折れている。ここで戦闘があったのは間違いない。
少し探索すると、大量の血とアセナと同じ色の毛が落ちている。さらに見回すと人間の使う物がいくつか落ちている。
「──アセナは攫われた……」
***
人間に攫われた。最悪の場合もう殺されているかもしれない。
出会ってからはまだ2週間ぐらいだが、もうアセナは仲間だ。同じ強欲に振り回されている同士。
それを傷つけられたのだ、心の奥底から怒りが込み上げてくる。許せない思いが脳を埋め尽くす。
「何処のどいつだよ……アセナを攫ったのは……」
『条件を満たしました。強欲のスキルが発動。
「アセナを攫ったヤツらは何処にいる。」
目の前に赤い線が現れる。
完全に空も暗くなりる。暗がりを薄気味悪く光る赤い線が消え赤い点が浮かび上がる。
──数は6個。6人か、無理な数ではないがアセナを倒せるとなると一人一人はとても強いだろう。小屋の中だ、狭い中6人と戦うのは分が悪いか……やるしかない。
クエイから貰ったナイフを持ち一気に突撃。武器を取らせる前にドア付近にいた奴を1人殺す。
「誰だ……!?」
大柄の男が武器を取る。しかし家内など狭い場所では動きずらい。すかさず一撃で掻っ切る。弱い……全く簡単に殺せてしまう。あと4人──
壁、天井、至る所に飛び散る赤い血が滴り、天井から落ちる雫の跳ねる音がする。この静かな空間に荒い呼吸音が響く。
「──アセナをどこにやった?黒い狼と出会っだろ。生きてるんだろうな?」
「王都の……奴隷商の馬車に乗っけた……生きてる! から、もう良いだろ……?」
どうにか生き延びようと必死だが遅い。
「生きているんだな……」
心からの安堵。アセナは生きている。まだ希望が見える。
「アセナを監禁している、奴隷商は何処にある。」
また、赤い線が現れる。
「こっちか。……お前はもう要らない。楽に殺してやる。」
「嫌だ! もうしないって約束するからッ──」
最初からやるなよ……
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