第10話 救出
もう王都に帰ってくるとは、思ってもなかった。王都を出てまだ一ヶ月も立っていないだろう。クエイに挨拶とでも思ったが今はアセナのことに集中する。
どこから入ろうか。飛ぶことは出来ないし、正面突破しかないか……
堂々と門の方へ歩いていく。予想通り門番がいる。彼らをどう切り抜けるかが重要となってくる。なるべく平和に関係のない人は傷つけないように。
「止まれ。通行証明書があるならば提示しなさい、無いなら銀貨一枚だ。」
そんなものは持っていない。そしてお金もない。つまり止まらずに歩くしかない。何をしに来たなど言ってしまえばまず捕まるだろう。
「それ以上近づくならば容赦はしないぞ!」
それでも止まらない。兵士が槍を構える。一触即発状態。
「止まることは出来ない。」
そう言い放った後最高速度で前に突き進む。槍を難なく交わし、門を潜り抜ける。
「敵襲ー!!」
掛け声と共に街中にカンカンと鐘の音が響く。
追ってはいるが撒くことは容易。視界に映る赤い線を辿り、一切迷うこと無く突き進む。路地を曲がり、家の塀を乗り越え、隠れ逃げながら場所を追いかける。そして少し大きな扉を指す赤い線。
武器を構え、ゆっくりと扉を開け中に入る。見た感じは一般の家という感じだが外から見た時よりも広い気がする。日常生活を送っているような感じではないどちらかといえばしっかりと店のような室内。人は見当たらない。線を辿り、壁の前に着く。
「行き止まり?」
壁を触り仕掛けを探す。奥に押し込めるタイルを見つけ押す。
チリーン……
客が来た合図だろう。線が消え、点に変わる。数は一個。敵は一人だ。ゆっくりと階段を降りていくと、そこには広い空間が広がっていた。檻が沢山あり、中には魔獣や、獣人、人など様々な種が囚われていた。
「トラップか、ただの結界か……」
これだけの生物がいるにもかかわらず音が全く聞こえない。
ゆっくりと足を進める。一歩、また一歩。そして、一気に耳に多くの鳴き声が聴こえる。一種ではない多種多様獣のように咆哮を上げるもの、言葉を話す者、狂ったように叫ぶ者も諦めたのか静かな者も各檻に捉えられている。
「お客さんには見えませんね〜もしかして騎士の方ですか?こりゃ困った、困った。」
なんとも胡散臭いおっさんが話しかけてくる。椅子の背を見せながら顔が分からない。こんな仕事をしている人間にまともな人間がいるとは最初から思っていないが。
「今日ここに黒狼族の子が入ったと聞いたんだが、そいつは何処にいる?」
「……これは、これは、お客様でしたか! 確かに今日、上物が入荷しましたよ!」
手に持っている杖を地面に強く打ち鳴らす。音はこの空間に響き先ほどまでうるさかった音がまた聞こえなくなる。音を聞き大人しくなる者もいれば獣などはまだ口が動いているが声は聞こえない。ただの人間ではない。
人の仲間を上物だとか、言いやがって……!
今にも殺したいが、簡単には出来ないと理解する。檻に入れられていない数人、おとなしくこちらを窺っている。奴隷商ならば、操ることも可能であろう。丁寧に武装までしており、一人で太刀打ちは難しいだろう。
……こいつ、強いな。いや、めんどくさい相手だな。
「にしても、情報の速いお客さんですね~。ついさっき入ったばっかりですよ。ずっと追っていらっしゃったのですか?」
「そういうわけではないが……」
「では、大事なお知り合いさんですかね? そんなに服を汚してまで追ってくるとは、感服ですな!」
人攫いの血で赤く染まり、まだ乾ききっていない服から、滴る深紅の水滴。肌にくっつき不快感を感じる。暗くなった外では無いため火の明かりに照らされよく見える。
「その、大事なものを奪ったお前を殺してやってもいいんだぞ?」
「やってみては? 私の奴隷が返り討ちにしてあげますけどね。」
脅しも通じない……勝てる自信しかないのだろうな。
「そんなことより、こちらが本日入荷したばかりの、黒狼族です。」
大きくしっかりとした檻が運ばれてくる。太い鉄格子の中には黒く艶やかでふさふさな毛。ぴくぴくと動く耳が生きていると伝える。何よりも顔だ。幸せそうに目は閉じている。
……こいつ、寝てやがる!?
傷一つなく、綺麗なアセナが目の前で寝ている。幸せそうによだれを垂らしながら。
「もう食べられない~……」
「……なんでこんなに良い状態なんだ?」
「あぁ、それは、これを連れてきた人たちによると、睡眠薬を注入した肉を置いておいたら食べたらしいです。これほど綺麗な状態での提供は少ないですからね~」
まぁ、無事ならばそれで良い。さて、
「起きろ、アセナ!! いつまで寝てる!!!!」
地下いっぱいに響く声に反応し、起き上がる。
「……んぁー? 使徒様~どうしたですか~?」
「寝ぼけてんじゃねーよ。お前は何をしてるんだよ?」
「ちゃんとお肉は獲ったです! それで……お肉を食べたら眠くなっちゃったです」
「周りを見ろ。肉はどこだ?」
眠たそうな半開きの目のまま辺りを見回す。周りを確認しここが森ではないことに気づき目が大きく開く。落ち着きなく辺りをキョロキョロと観察し驚いた表を浮かべる。
「アセナなんでこんな所に居るですか!? 使徒様なんでそんな血だらけか!?」
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