第9話 救出
もう王都に帰ってくるとは、思ってもなかった。
どこから入ろうか。飛ぶことは出来ないし、正面突破しかないか……
堂々と門の方へ歩いていく。
「止まれ。通行証明書があるならば提示しなさい、無いなら銀貨1枚だ。」
そんなものは持っていない。そしてお金もない。つまり止まらずに歩くしかない。
「それ以上近づくならば容赦はしないぞ!」
それでも止まらない。兵士が槍を構える。一触即発状態。
「止まることは出来ない。」
そう言い放った後最高速度で前に突き進む。槍を難なく交わし、門を潜り抜ける。
「敵襲ー!!」
掛け声と共に街中にカンカンと鐘の音が響く。
追ってはいるが撒くことは容易。線を辿り、一切迷うこと無く突き進む。路地を曲がり少し大きな扉を指す赤い線。
武器を構え、中に入る。人は見当たらない。線を辿り、壁の前に着く。
「行き止まり?」
壁を触り仕掛けを探す。奥に押し込めるタイルを見つけ押す。
チリーン……
客が来た合図だろう。線が消え、点に変わる。数は1個。敵は1人だ。
ゆっくりと階段を降りていくと、そこには広い空間が広がっていた。おりが沢山あり、中には魔獣や、獣人、人など様々な種が囚われていた。
「トラップか、ただの結界か……」
これだけの生物がいるにもかかわらず音が全く聞こえない。
ゆっくりと足を進める。一歩、また一歩。そして、一気に耳に多くの鳴き声が聴こえる。
「お客さんには見えませんね〜もしかして騎士の方ですか?こりゃ困った、困った。」
なんとも胡散臭いおっさんが話しかけてくる。
「今日ここに黒狼族の子が入ったと聞いたんだが、そいつは何処にいる?」
「……これは、これは、お客様でしたか! 確かに今日、上物が入荷しましたよ!」
人の仲間を上物だとか、言いやがって。今にも殺したいが、簡単には出来ないと理解する。
──こいつ、強いな。いや、めんどくさい相手だな。
檻に入れられていない数人、おとなしくこちらを窺っている。
奴隷商ならば、操ることも可能であろう。丁寧に武装までしており、一人で太刀打ちは難しいだろう。
「にしても、情報の速いお客さんですね~。ついさっき入ったばっかりですよ。ずっと追っていらっしゃたのですか?」
「そういうわけではないが……」
「では、大事なお知り合いさんですかね?そんなに服を汚してまで追ってくるとは、感服ですな!」
人攫いの血で赤く染まり、まだ乾ききっていない服から、滴る深紅の水滴。肌にくっつき不快感を感じる。
「その、大事なものを奪ったお前を殺してやってもいいんだぞ?」
「やってみては?私の奴隷が返り討ちにしてあげますけどね。」
脅しも通じない……勝てる自信しかないのだろうな。
「そんなことより、こちらが本日入荷したばかりの、黒狼族です。」
黒く艶やかなふさふさな毛。ぴくぴくと動く耳が生きていると伝える。何よりも顔だ。幸せそうに目は閉じている。
……こいつ、寝てやがる!?
傷一つなく、綺麗なアセナが目の前で寝ている。幸せそうによだれを垂らしながら。
「……もう食べられない~……」
「──なんでこんなに良い状態なんだ?」
「あぁ、それは、これを連れてきた人たちによると、睡眠薬を注入した肉を置いておいたら食べたらしいです。これほど綺麗な状態での提供は少ないですからね~」
まぁ、無事ならばそれで良い。さて、
「起きろ、アセナ!! いつまで寝てる!!!!」
地下いっぱいに響く声に反応し、起き上がる。
「……使徒様~どうしたですか~?」
「寝ぼけてんじゃねーよ。お前は何してんだよ?」
「ちゃんとお肉はとったです! それで……お肉を食べたら眠くなっちゃったです。」
「周りを見ろ。肉はどこだ?」
眠たそうな半開きの目のまま辺りを見回す。
「──アセナなんでこんな所に居るですか!? 使徒様なんでそんな血だらけですか!?」
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