第26話 帰れ
それはさておき黄金の魔女から金貨を貰わなくてはならない。セレーナいわく、気に入られれば良いとの事だが、
「強欲の魔女は嫌われてるしな……正直無理な気がする……」
にしても、意外と人はいるんだな。コイツら全員お金を貰いに来たのか?
黄金で出来た街には人が住んでいる雰囲気がしない。まるで置物の様に綺麗な状態でそこにあるだけのようだ。今周りにいる人達はどれも働きたくないが為に黄金の魔女に取り繕うとしてる野郎共か、
「全く働けよ」
自分も働きたくないが故にここに来ていることを忘れている。呆れるセレーナの目は置いておき、宮殿に続く長い列に並ぶ。とても長い列だが意外とすんなりと動く。一度止まったら長いが滅多にない。気に入られた奴がいるのだろう。
意外と長く待たされ宮殿の前までたどり着く。日光を反射した黄金はさらに輝きを増す。室内に入ると高い天井には豪華なシャンデリアが飾られており当たり前のように黄金に輝く。強欲の使徒のためあまり気にいられるとは思っていないが、それでも期待してしまう。
「欲しいなこの宮殿」
「使徒様には代々続く立派な城がありますわ! こんな光ってるだけのより私の城の方がいいですわ!」
残念ながらそれは無い。昔を知らないがこれには勝てないであろう。
「ドンマイセレーナ……気に病むことは無いよ、人間の技術じゃ勝てないよ。」
ムスッとするセレーナは置いておき、列は進みとうとう扉の前まで着く。これまた大きく、光っている。扉が勝手に開き入れと誘っている。
「……行くぞ、心しろよ」
入ると開口一番に予想通りの言葉を聞く。
「――貴様は……強欲の魔女の使いか?」
背の高い椅子に座る黄金の像が口を動かし喋っている。服すらも着ていない。エッチだが興奮は出来ない。脚の爪から髪の毛一本に至るまで全てが黄金、人間ではないからだろうか。
「はい、そうです。けれど命令されて来たわけではありません。個人的にお金が必要な事をやろうと思いまして」
「――帰れ」
一言、たった一言で全ては破綻した。薄々分かってはいたがここまでとは……
「コイツ失礼です! 殺ってやるです?」
「アセナ、お前じゃ無理だろ……」
口を開け驚きの表情を浮かべるが、当たり前だろう。奴も魔女の一人、常識の通じる相手ではない、
「そこのお前、アセナと言ったか?」
「何です?アセナは今機嫌が悪いんです! 殺るですか!?」
何でこうも戦いの事しか興味無いのだろうか、少し呆れてくる。尻尾が逆立ち魔力が沸き立つ。そんな状況を眉一つ動かさずに堂々と座ったまま眺める。
「お前は気に入った。私の黄金を与えてやろう!」
おいおい、マジかよ!?
予想もしなかった言葉が飛び出し全員が驚きの表情を浮かべる。静まってた空気が一気にどよめく。
「……じゃあ肉が食べたいです!!」
「ちげーだろ!!」
思わず口が出る。しかしこのままではここまで来たのにも関わらず、金の肉が出で終わりだ。何とかしたいがアセナをどう誘導する他ない。認められていない自分の言う事をリピートさせて欲しい物を貰えるとは思えない。
「アセナ、よく考えろ。肉はどうやってとる?」
「――狩るです! はっ……!? 武器です!?」
違う。思った通りに進まない。
「じゃあ、どうやって肉を買う?」
「……使徒様は『いいかアセナ、奪え! そうすればタダだ!』って言ってたです! 武器です!!」
クソ! 過去の俺! なんて事を教えてんだよ!? 何とかして金貨を大量に貰って貰わないと困る……
少しの間試行錯誤を重ねていくが、どれも上手くいかなそうである。どう聞けば金貨という言葉が出て来るのか悩んでいると後ろから一言だけ聞こえる。
「アセナさん。肉を買うには何が必要ですか?」
ララノアの一言、それで全てを理解したようだ。まるで、難問を解いたかのように元気に答える。
「金貨です!!」
何やらララノアに可哀想な目で見られた気がする。普通に言えば問題なかったわけだ。
「――あまり納得はしがたいが、アセナたん本人も困っているようだし……良いだろう。とりあえず十万枚持っていけ」
……アセナたん――
何とも不快感を感じるが、今回は許しておこう。
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