第34話 酔いしれる

 窓からでも飛び降り全力で向かう。間に合ったとて憤怒の魔女には勝てない。待機しているであろうあの三人なら尚更である。


「憤怒の魔女!!!」


 更地と化した辺りを見回すが、誰の姿も見えない。感じる冷気がこの辺に居た事を指し示す。ならば確実にこの技を食らった事になる。


「呼びましたか? 強欲の使徒さん」


「何をした……!! ここに居た仲間はどこにやった!!」


 少し困ったような表情を浮かべ答える。『知らない』と、雑魚の事など見えていないと言っているのだろうか、憤怒の念が押し寄せる。


「なぜ怒っているのかは分かりませんが、とっても良いですね」


 何がいいのか、どこがいいのか、魔女はまともな奴が居ないのだろうか。


《執行者》、《オーバーアクション》、《オーバーエフェクト》頼れるのはこの三つだけだ。攻撃の規模からして一撃で死ぬ。他の能力はピンチでないと使えない。十分にピンチだと言うのにだ。


 アセナ、セレーナ、ララノアそしてクエイ。今日一日で何人の仲間を無くせばいいのか、心をえぐり取られる様な痛みが走る。憤怒はエフェクトを通して目に映る。立ち上る魔力が死を彷彿させるような形になり消え、また立ち上る。


「ディビィニティ・カルネージ・パニッシュ!!」


 有無を言わさずに攻撃を仕掛ける。怒りに駆られた体だからかいつになく動く。目に映る執行対象であるマークを目掛け突っ込む。ただそれだけが目に映るような感覚、今はただこの魔女だけを何としても殺したい。


「憤怒の魔女!!」


「いいですね。伝わりますよその感情! その感情こそがもっとも人を突き動かす魔法です!」


 予想はしていた通り攻撃は当たらない。踏みしめる地面はオーバーアクションにより地割れ、自分の魔力もいつもよりどす黒い色をしている気がする。


 憤怒の魔女も一振りの騎士の剣を抜く。恰好からして騎士であろうと思っていた。あれほど立派な鎧はついさっき戦ったばかりの王国騎士団よりも見た目は美しい。姫騎士のようなところも見受けられる。


「実に愚かです。勝てる見込みもないのに戦いを挑んでくるとは……これだから……」


「そんなこと関係ない! 愚かかもしれないが勝てるわけが無いのも自覚しているが! それでもお前を許す事は出来ない!!」


「私が何をしたというのですか!? いつもそうです……私は正義のために動いているのに……!」


 まだ拙いが覚えたばかりの先ほどのステップを実践。体力消費を抑えつつギリギリのところで何とか避け切る。


「ディヴィニティ・カルネージ・バースト!」


「甘い! そんなもので私は倒せません!」


 簡単に折れそうな細い剣でいとも簡単に弾く。先ほどの王国騎士団の盾使いと言い憤怒の魔女と言いどうやっているのか。そんな事を考えていたら距離を簡単に詰められていた。何とか受け切るも大した魔力も乗っていないはずなのに大きく吹っ飛び倒れ込む。


「ッつ……ただの剣だろうが……」


「使徒様! 大丈夫デス!?」


 幻聴まで聞こえ始める始末。このタイミングなら走馬灯の方が正しいのだろうか。アセナが上から見下ろしている。遅れて二人の声も聞こえてくる。


「さっきから何事ですか!? 異常ですわ……」


「この魔力は……憤怒の魔女ですか……!?」


 身体を大きく揺らされ、そもそもこんな記憶はない。走馬灯ではない。


「お前生きていたのか!?」


 思いっきり飛び起き目を見開く。アセナの尻尾を撫で結界を張り魔力を確認する。本人だ。死んでいない。生きている。


「良かった……!」


 生きている事に喜んでいる暇はない。ゆっくりと歩いてくる憤怒の魔女を視界に捉え立ち上がる。全力でここから離れるように指示をする。また勘違いから始まったのだ。これ以上の戦いは無意味だ。ゆっくりと剣を収める。


「さすがに二度目はありませんよ」


 一番被害が少ないように。この場での最少は死なない事。一撃でももろに食らえば死ぬだろう。あいにく自分を守る能力を持ち合わせていない。死ぬまで攻撃をしてくるかもしれない。生き残れる確証の無いまま何とか一本の光の道筋をたどろうとする。


「いきます――」


 言い訳のする暇もなく間合いを詰められる。おかしい。なぜわざわざ剣で戦うのか、国を壊すのは簡単だと豪語していた魔女がなぜ剣で戦うのかが不思議でしかなかった。そしてここに可能性を見出した。


 能力の制限。何らかの制限があり力が出せない。一度だけ見えたあのカタコトとした喋り方、今とは違う性格。導き出した結果は『ビースト化』強大な力を受け取れる代わりに知能を失いあのカタコトとした言葉になった。そして『ビースト化』はあまりにも強大であるためにクールタイムが存在する。使いすぎたら人格が壊れるなどというペナルティがあるのかもしれない。


 分析は終わった。現状これ以外の可能性が無い。倒すなら今、逃げるなら今しかない。ただの魔力の多いい騎士に過ぎないのだから。


「何か考え事ですか? 魔力操作がさっきより荒いですよ」


 目に元止まらない攻撃。まるで光のように素早い。『オーバーエフェクト』を使わずしも光の速さになっている。流石『十三の魔女』と思う所もあるが瞬殺されていないだけ自分の強さに酔いしれる。


 ……勝てるのではないか――


 遂にそれは油断となり隙を生む。たった一瞬の揺らぎを見逃すほど甘くない。


「……天撃――……」

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強欲の使徒 天然無自覚難聴系主人公 @nakaaki3150

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