第17話 神の大虐殺
周りにとてつもない質量のオーラが漂う。部屋を埋め尽くすオーラが一瞬にして解き放たれる。
「こっ、この魔力の量は……!? おかしいてすわ!?」
これが魔力だったんだ……魔力ない異世界なんて有り得ないと思ってたけど、ちゃんと使えるのか。
実際のところ、これは魔力ではない。《オーバーエフェクト》による幻覚である。召喚時、転生時に力の譲渡で大量の魔力は持っているが解放の仕方がわかっていないため、まだ使えていない。今までの戦闘は全てスキルだけで乗り切ってきた。
「アセナ雑魚は任せるぞ!」
鎧に剣が刺さらないため打撃であるアセナが適任でもある。任せるしかない。あいつはドレスだ、余裕で切り裂くことは可能、面倒な敵は全部アセナに任せるとして戦闘に集中することにする。
「さて、行くぞ?」
一瞬にして姿が消す。
「どこを見ている? 後ろだぞ?」
勢いよくふりかえるが、居ない。速いなどの領域では無い。目にも捕えられないスピードでの瞬間移動をしている。もちろんそんなことは出来ていない。これもまた幻覚である。
《オーバーエフェクト》の効果を上げる方法はいくつかある。第一に相手が自分より上の存在と認識される事で効果が上がる。先程の魔力量に圧倒され自分では勝てないと、認識してしまった事により瞬間移動していると捉えてしまったのだ。
第二に本人の想像力。《オーバーエフェクト》は自分にも効果があるため、基本的に本人の思う移動方法が行われる。速さを意識した結果がこれというわけだ。今回の場合、誠視点では周りがゆっくりになって動いているように見えている。本人は瞬間移動はしていない。ただゆっくりな世界で速く動いているだけである。
――邪魔しかしないのか強欲の奴らは! 国を滅ぼして、勝手に私を引き入れ、こんな体にして……!
「……死んでよ。強欲……」
右手を前に出し、何かをつかむような動きをする。魔力がある以上何が起こるか分からない。十分な距離を取ろうとしたときだった。
「――
何かに腕が掴まれるような感覚。手の動きと連動し段々と握り潰されていく。
魔法ってやつか!? 左腕が痛い! 速くあいつの腕でも切り落とさなきゃ……腕だからまだいいが、胴とか掴まれたら終わりだ!
掴まれた感触はあるがその場を動けないわけではない。がら空きの右腕に向かい刃を下ろす。切られた腕が吹っ飛び、地面にはね落ちるが何かがおかしい。血が一滴も垂れていない。
避けられたか? いや、腕は落ちている。どういうことだ!?
「私は生身の肉体ではないのですよ!」
まだ潰されていっている。一度蹴り飛ばし、呪いが解けたことに安堵する。
「――何したんだよ?」
少し眉を顰められる。手の内を明かす訳が無いだろと言う視線かと思えばつらつらと話し始める。
「何って、魔法ですわよ。あなたもそれだけ魔力があるんだから、身体強化以外の魔法使ってはいかが? 舐めてると潰しますよ?」
どうやって使うんだよ!? まずは魔力を感じろみたいな事してないんだよ。だが、こいつは普通に切っても意味が無い。それは分かっている。魔力を剣に流し込む的な事をするんだろうけど……
「俺は魔法が苦手なんだよ。どうなっても知らないぜ?」
身体の奥底から魔力を引き出すイメージをする。心臓から溢れ出すのか、何が魔力を司っている特殊な場所があるのか、身体全体に満ちている感覚をイメージする。
今広がってきているのが魔力か?
体内の血液と一緒に流れるような感覚を掴む。さらにイメージを重ねる。血液と一緒ならば心臓がこの魔力の源。大きく鼓動に合わせるようにして膨らませる。血管を流れる魔力はやがて溶け出し筋肉まで染みる。さらに出して体外に溢れるほどに。
周囲の魔力がより強く、より濃くなり、その魔力を剣に集める。凝縮されていく魔力はやがて色を持つ。しっかりと目に見えるようになった。しかし、出した魔力が多すぎたのか上手く剣に乗らない。漂う魔力を魔力でさらに凝縮していく。剣より周りの魔力の方が密度が高くなってしまった。
――こんな感じか? あとはカッコイイ技名でも言って振り下ろすだけか。
「なによこれ……この辺り一帯吹き飛ばす気ですか!?」
えっ? マジで? それじゃ金貨も吹き飛ぶかもしれねーじゃん!?
振り上げている剣は既に魔力が詰まりまくっている。出すことは出来たが、戻す事は本当に出来る気がしない。 なるべくゆっくり振って分散させながら威力を落とすしかない。
「――ディヴィニティ・カルネージ――」
ゆっくり剣を振る。しかしこれは幻覚だ。スローモーションで動いてるかの様な感じにただなっているだけだ。《オーバーエフェクト》が入ってしまったのだ。遅く振っているように見えるが普通に振っていると同じ威力となっている。振り下ろした瞬間魔力が解放され辺り一帯に衝撃波が伝わる。轟音と共に天井には穴が開き、床はひび割れる。魔力が辺りに拡散し追撃となる。完全にフロアは壊滅した。飛んだ瓦礫が街に降り注ぎ二次災害となるも魔力は届かなかった。
「……ここまでとは、恐れ入ったな俺……」
自分自身が恐ろしく感じる。正直ここまでとは思ってなかった。金貨も吹き飛んだかもしれない。魔力を扱う事ができるようになった今、今までに戦った相手は簡単に倒せるだろう。異世界チート攻略が始まったのかといよいよ異世界らしさが出てきた。
――死んだのか? せっかく強欲の配下を見つけたのに、殺しちまったのか? アセナ消えたぞ? ……!?
「アセナ!? あいつ無事か!?」
「使徒様! 凄いのです! 一瞬で倒したのです!」
「生きてたか、良かった良かった。さて、金貨探すか。」
衝撃で大きく開いた穴からひょこっと顔を出すアセナを連れてさっさと退散したいが呼び止める声がする。振り向けば瓦礫の中から這い出ようとしている。
「――待ちなさいよ。私はまだ死んでいませんわ。強欲は絶対に殺す……の……」
大きく体が欠けた姿のまま動き出しあれでもまだ生きているのかと少し恐怖する。
さすがにあれを受けて元気な訳はないか。だがどうしたものかこのまま放っておくのもあれだしな……
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