第16話 滅びた国のお姫様
崩れた瓦礫を登ってみたり、木を登ってみたり、時にはアセナに投げてもらい何とかして王宮内に入ることに成功する。元王宮だけあり大きく壁や床まで綺麗に作られている。しかし、戦いの跡か壁や天井には風穴が入り、長年放置され埃まみれである。
「なんも無いな。金はどこにあるんだよ!? もういっそこの辺の奪って売り飛ばすか?」
一階に降り、少し開けた場所に人影を見つける。鎧を身につけ動かない。
――城内ではアンデットは見かけなかった。こいつはここの住人って事か?
「使徒様そいつは――」
「おい、そこの人この国の財宝はどこにあるか知らないか?」
ゆっくり近づく。完全に油断している。敵だとしても一人、何とかなると思っている。間合いに入り俯いている顔を覗き込む。
「おーい生きてるか?」
その顔が生きている人の顔ではないと気づいた時には遅かった。瞬間右手が柄に手がかかり高速での抜刀。反応は出来ない。脳の処理では動いたとしか捉えられていない。避けるという思考まで至っていない。棒立ちの首に一線。後ろからアセナが弾いてくれなければ死んでいだ。
「――使徒様!! こいつの匂い、もう死んで腐ってやがるです!」
弾かれ吹っ飛ばされたのにも関わらず立ち上がってくる。アセナの攻撃を受けても無事。ただのアンデットでは無い。
「デスナイトです!」
デスナイト、一般のスケルトンの中でも上位の戦闘力を誇る魔物で、英雄級の戦士の成れの果てである。元英雄級ともあれば技量はもちろん、さらに死への恐怖もない痛覚も無いためひたすらに攻撃を仕掛けてくる厄介な魔物だ。
「よくも俺を騙し殺そうとしてくれたな。これは、復讐の対象に入るぞ?」
身体強化のバフがかかる。これで反応もできるであろう。解釈の範囲がだいぶ緩い気もするがこれくらいないと生きていけない。
「アセナ手伝え。早く終わらせて金貨を回収しなきゃならないからな。」
「殺ってやるです!」
アセナが勢いよく突っ込む。力を溜め込み、時間差で突っ込む。踏み切った直後雷鳴が響くような音がする。まさに閃光。音のした方を振替れデスナイトだが姿はない。アセナの攻撃の隙をぬい背後に回りデスナイトに刃を突き立てる。
――貫けないか。さすがに鎧は切れないから。殴打でやるしかないか……
オーバーエフェクトは見た目だけの幻術であり見た目通りのバフは掛かっていない。振り向きざまの攻撃を避け大きく後退しスペースを開ける。アセナが戦いやすいようにするため。
「アセナ! 俺じゃこいつを倒せるだけの攻撃ができない。殴って殺してくれ」
「さっさと殺すデス!」
アセナの周りにオーラが出始める。それは自分が出したことのあるオーラと似ていた。それは手に集中し、より濃密となり実体化する。手の形に合わせたオーラは鋭い大きな爪となる。
「……何あれ? オーラってあんなことできるの?」
アセナの身体能力が上がり、一層速くなる。大きく振りかぶり、一撃。鎧事大きく凹み、切り裂かれる。鉄の拉げる音が城に響き立ち上がる音は無い。
「殺ってやったのです! アセナ強いのです! 一撃です!!」
尻尾をブンブンと振りながら成果を何度も報告してくる。子供のようで愛くるしく感じる。
「よくやったアセナ。すごいぞ! ところでさっきの手のやつってどうやるの?」
アセナの説明は擬音が多くてよく分からなかった。理解できない講座を受けながらも,ひときわ大きく豪華な扉の前に来る。この扉をはがして売るだけでも何年かは生きる事が出来るだろう。
「……だから、この辺からブワーってなって、全身がワ~ってなるです。あとは手にやるだけです」
「……分からんて。」
ゆっくりと重厚な扉を開く。中は今までに見て来た部屋より随分と奇麗になっている。だがよく見れば整えられているだけであり血痕などはそこにあるままだ。そして全体を見た視線は正面へ、玉座に座る人影。
「――ここに来られたということは、デスナイトを倒したのですわね。久しぶりの来訪者が無傷でデスナイトを倒す強者とは、骨が折れますわね。」
真っ白な髪は長く腰の位置まであるのではないだろうか。奇麗な色白の肌に白いドレスをまとう姿はどこか不気味な雰囲気も感じ取ることが出来る。ドレスを着ている事からして、この国の元王族とか貴族とかその辺だろう。
「まずはここまで来れた事とお褒め致しますわ」
完全に余裕の態度。彼女も分かっているだろうただお話をしに来ただけではない事など。貴族なのは大体の見当が付くがこの国の現状からして身分階級など通用しないだろう。
「どうしてこんな所に居るんだ? この国は滅びているんだ、王女気取りも良いけどバカなんじゃないのか?」
どこか地雷を踏んだのであろう。表情が変わり、大きくオーラが溢れ出す。完全に敵意丸出し。
「――そうね、この国は滅ぼされていますわね。強欲の魔女のせいで! 王女の身である私も低俗な暮らしをする羽目になったんですから!! 私に隷属の紋をかけた魔女も、その一番の仲間である使徒も、それについて行ってる魔女の配下も、全員殺しますわ!!」
こんな所で聞けるとは思っていなかった単語。彼女がアセナの言っていた強欲の配下なのだろう。しかし聞いて分かる通り強欲の魔女への敵意丸出しで我々も今にも殺す勢いである。部屋全体を包み込む勢いでオーラが膨れ上がる。同時に端にただ立っていただけのアンデットが動き出す。それも全てが先ほど戦ったデスナイトだろう。この国に居た最高戦力たちの亡骸から作ったと考えれば納得が付く。圧倒的な数の不利を突き付けられる。
「あの……話聞いてくれないですかね? きっと考えも変わると思うからね。ねっ? 落ち着いて?」
しかし一向に聞く耳を持たない。そのまま攻撃の命令を出し、兵が攻撃を仕掛けてくる。
「王女は殺しちゃダメだからな。加減しろよアセナ!」
聞くまもなく走り出している。しかし兵に阻まれ王座まではたどり着けない。
アセナは一人で兵を倒すことは出来る。だが、この量となるとキツイのか、先程のようなオーラをまとう事はしない。
「さっきみたいにやっちゃってくれていいよ? 別に兵は殺しても良いし」
「あれ、疲れるデス! 座ってるヤツと戦えなくなるデス!!」
全く……聞き分けのない子だ。早くお金を回収したいって言うのに、ボスと戦いたいから力を使い切らないようにしているだと? 俺じゃこの数は無理だから少なくして欲しいのに……しょうがない、
「さっさと終わらせようか。このつまらない戦いを……」
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