魔女
第2話 転生
彼、夏川 誠はその日も何ら変わりない日常を送っていた。学校に行き座っているだけでしっかりと聞きはせず、適当に過ごしていた。
学校も終わり下校中、いつもと同じ光景。
軽い鞄を置いて、少し長い信号を待っているときだった。
瞬き一つ。
そこはいつもと違い、知らないところだった。
荘厳な造りの大きな部屋、微かに地面が光っていて謎の文字が書かれている。
日本語ではない。英語でもない。理解はできないがなぜか読めている。まったく見たこともない字が読めている。
そんなとことに疑問を持っているのもつかの間、後ろから斬られる。そして意識が無くなり、現在。
──また、知らないところ。
辺りを見渡すが知らないところだ。さっきのところとは大きく違い貧民街のようなところに立っている。建物はボロボロで住むのには向いていないだろう。
人はいるようだが、みな覇気がない。あまり食べれていないのか、痩せている。
人だけではなく、ふさふさとした耳が頭について尻尾も付いている、
「獣人? あーー……あ〜ね」
『──により称号:《転生者》を入手しました。《転生者》により一定以上の力の譲渡が行われます。第三者からの妨害を検知しました。能力の引渡しが大幅に遅延します。』
『──回収に失敗しました。常時更新して──』
『──憶の確定が不安で──』
『妨害が入りました。対処には時間がかかります。』
『──失敗しました。』
『──器が足りません。』
『魔力の上限の拡張──』
『──称号が失われました。』
『失敗しました。』
『──情報過多。』
『失敗しました。力の定着が強いです。』
『強欲の魔女──ため、使用が一部解放。』
『──には失敗、並びに他38件も失敗しました。』
『接続出来ました。不安定なため、時間がかかります。』
『新たな存在を確認──』
『────』
何十にも重なった同じ声が頭の中に響き、聞き取ることが出来ない。無数に聞こえてくる声が頭を痛くする。
しかし、分かった事もある。転生してきたということだ。
少し振り返ると痛みまで思い出せる。背中の傷と胸に突き刺さる剣。
あれ? 体はどうなっているんだ?
「──傷がない」
背中を切り裂かれ、突き刺された傷が全くない。しかし、服は破れているためあれは本当に遭ったことだと確信させる。
突き刺された痛みなどから、これは夢ではないことなどは、分かっていたが、本当にあそこで自分は死んでしまったのだと実感させる。
「……けど、生きてるな。」
何ともあっけなく第一の人生が終わってしまったものだ。なぜ俺は死んでしまったのか、だれに殺されたのかも全くわからない。
「……転生って本当にあるんだな。」
でも、まだお約束の可愛いヒロインが見当たらないぞ?
もしかするとハーレムでも作れるのではないか? という下心満載の異世界ライフを思い描くが、そういう感じの世界線ではないということはもう気づいているため、少し落胆する。
……もしや、さっきの声の人がヒロインなのか? なら俺、死んでしまったぞ?これ……詰んだやつか?
少し冷静に考えてみると、色々気になる。あのヒロインであろう人の言葉。どこか不穏な空気を感じる。何のためらいもなく人を殺す狂人。まず普通の人間ではないだろうということは分かる。
しかし、この世界のことなど分からない。現状一番僕を導いてくれる人であろう。ならばあのヒロインであろう人物に俺を見つけてもらい、助けてもらうしか生きていく自信がない。
「となると……まずはヒロインを見つけ出し、助けてもらおう!」
「──男が最初から助けを求めて行動するとか、ダッサイな。」
勢いよく振り向くとそこには、自分よりも身長の低い少女が立っていた。
着ている服などからして、ここに住んでいるのであろう。服が少し破けているが、お構いなし。だが、顔立ちは整っており長く綺麗な金髪が後ろで結ばれている。
この世界は貧民でも可愛いという事が分かった。
ハーレムライフは完全には終わっていないようだな。
「……なんだよガキ。男だって知らないところに来たら助けを求めるんだよ」
「誰がガキだよ!? 一応これ でもアタシは10は越えてるんだからな!」
いや、ガキだろ。というか、10才の子供がこんなところに居るってことは、あんまり良くない国に来ちゃったようだな。
「おい、お前さっき『知らないところ』って言ってたよな?もしかして奴隷で捨てられたのか?にしては……傷はないみたいだが。」
今いる場所からして治安とか社会構成もやばいんだろうなとは思ってたけど、奴隷までいるところに来ちゃうとは……
──絶望的すぎる。転生者とか高値で売れるんだろうな。
「別に俺は奴隷じゃねーよ。ただ、……気が付いたらここに居たんだよ」
「まぁ、捨てられたんだな。ドンマイ、ドンマイ! 強く生きなよ!」
なんだこのガキは。煽りに来たのか?こっちは急に飛ばされてこっちに来ちまって頭に来てるんだぞ。茶化されるだけならもう行くか。
少しずつ苛立ちを覚えてくる。
「けど、捨てられちまったのは可哀そうだしな。アタシがこの辺りを教えてやってもいいぞ?」
この言葉で一気に気持ちが晴れる。
見知らぬ所に一人で行こうものなら、絶対にこの世界の地雷を踏みまくって、いちゃもんつけられて最悪の場合捕まったりするかもしれないが、現地住人と一緒に回れば色々小技的なものまで教えてもらえる。ならば断わる理由がない。
「ぜひ頼む! 助かるぜマジ!」
「分かった。助けてやろう! アタシはテルフォード・クエイよろしくな。」
「俺は夏川 誠だ。」
クエイは少し首をかしげた。
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