第24話 4:24
ルースヴェンさんから信じられない一言が飛び出しました。
「エレンさん、本当に離婚してよろしいのですか?」
私は耳を疑いました。
今日一日いっしょにいて、私がこの人から嫌な目にあってたのを知ってるくせに、何でそんな事を言うのか?
私には意味が分かりませんでした。
ルースヴェンさんは私の困惑の表情をすぐに読み取ったようでした。
「すいません。私はエレンさんの離婚に反対している訳ではないのです。ただ、今回の事……ご主人にはこの先の話を聞かせられないですね」
ルースヴェンさんはそう言うと、グスタフの目の前に左の手のひらをかざしました。
「おやすみなさい」
するとグスタフはバタっとソファにもたれかかったまま、寝てしまいました。
「……失礼しました。私が懸念しているのは、離婚をした後、本当に私といっしょに本当に魔界にきていいのだろうか? という事なのです」
「え? だって……そもそもベリアルが今朝までに離婚して結婚しないと命はないって……」
「ええ。そうなんです。そうなんですが、あのベリアルは約束を守る訳がないのです。まして私を今回の騒動で始末しようと企むような悪魔が……。私はエレンさんも殺される対象に最初からなっていると思うのです」
ゲゲゲ! 確かにその通りだわっっ!
私は自分も踊ろされていた事にようやく気がつきました。
「で、でもでも、じゃあどうすれば……」
「今、私が考えている事は、この世界の吸血鬼に助けてもらうという事です」
「え? だ! じゃあルースヴェンさんは?」
「私は魔界に戻ってベリアルと決着をつけます」
「え? 待って? それって、ルースヴェンさんの命は大丈夫なんですか? 危険なんじゃ……」
ルースヴェンさんは左手を口元に持ってきて言いました。
「これがあなたを守る最良の策かと……」
最良の策……待って待ってっっ。絶対嫌だ! これでルースヴェンさんの身に何かあったら……そう思うだけでゾッとするっっ。胸が張り裂けそうっっ! 他に何か何か……
「ル、ルースヴェンさん。その前に夜明けまでに私たちが婚姻関係を結んだ事を魔界のあのお城であのモンスター達の前で発表したら、そうしたらベリアルは手が出せないとかはないんですか?」
「それも無意味だと思います。むしろ何かしらの理由をつけて城ごと炎に包み始めると……」
「じゃ、じゃあ夜明けまで逃げまくってこっちの世界でいっしょに暮らすのは?」
「いえ、そうなると魔界の世界の住人たちに迷惑がかかります。これでも私はあの城の主。彼らを放っておく訳にはいきません」
ああ~~~~~~っっ! もう! ああ言えばこう言うっっ! どうしたらいいのかサッパリ思いつかないっっ!
「でもでもルースヴェンさんっっ! 私、ルースヴェンさんの身に何かあったら……そんな辛い事……ない」
何だか今日は、一日でいろんな事があり過ぎて、情緒不安定になってきたみたいで、涙がぼろぼろ出てきて止まりませんっっ。
ルースヴェンさんは、そんな私を見て優しく微笑んでくれました。
「ありがとう。エレンさん。私は初めて会った時、つい『運命の人』と口走ってしまいましたが、本当に今はあなたを運命の人なんじゃないかと思い始めています。もしそうなら……いやいや、これは私のタワゴト。忘れてください」
ちょっとちょっとちょっとちょっと! そんな大事な発言、忘れる訳ないじゃない!
私は思わず机を乗り越えてルースヴェンさんに抱きつきました。
「忘れません! 今の言葉は忘れません! 私もあなたと離れるのは嫌です! これがいっ時の感情かどうか分かりません! でも私はあなたと離れたくない!」
自分でもビックリするくらい、【愛の告白】をしてしまいました。もう顔は真っ赤! もう情緒不安定が行き過ぎて、血圧がまた上がって寝不足と空腹も手伝って平常心を失っているかもしれません! いや失っています! でもいいの! かまいません! この人を失いたくないから!
私は思いっきりルースヴェンさんを抱きしめました。ルースヴェンさんもそれに応えて私を優しく抱きしめてくれました。
今は抱き合っているだけ、でもこの時間がとても愛おしく、永遠に感じられて、私の心は満たされたのでした。
ルースヴェンさんの身体は、吸血鬼らしく全く暖かみを感じません。しかし私を抱いてくれている感覚、これだけでとても幸せな気持ちになれました。
こんな時間がどのくらいあったのでしょう。
しばらくすると、ルースヴェンさんは私を少しだけ離して、私の顔をじっと見つめてきました。
その顔には仮面。やっぱり素顔が見たい。
「ルースヴェンさん。私、やっぱり素顔のルースヴェンさんがいい。きっと素顔でもあなたは素敵だから」
「……ありがとう。エレンさん。あなたは私のダメな部分も受け入れてくれる素晴らしい人だ。私はこんなに素晴らしい人を手離そうとしていた。私はバカです。どうか私と共に生きて頂けませんか?」
「素顔で言って」
ルースヴェンさんは何も言わずに、仮面を自ら外しました。
その素顔はやっぱり美しく、肌は透き通るようにキレイで、瞳は少年のような幼さを残してとても優しく潤んでいます。
「ボ……ボクと、い、いっしょになってほしい……」
「はい。私でよかったら」
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