第13話 22:58

 怒り心頭の私を見て、ルースヴェンさんも腹が決まったようでした。


 馬車は自宅マンションへUターン。

 また、漆黒の馬車がマンションの玄関に戻ってきた事で、今度は警官がすぐに飛んできました。


「おい! さっきの馬車だろ? そこは駐車禁止なんだから……」


 馬車から出たマスクの大男に警官は声を失い、さらに催眠術もかけられました。


「もう警察署に戻る……」

「もう警察署に戻る……」


 警官はフラフラと歩いて行きました。

 私はルースヴェンさんに続いて馬車から降りました。

 すると、ルースヴェンさんはいきなり私をお姫様抱っこしたのです。


「急ぎましょう」

 

 怒り心頭だった私なのですが、あまりの事に顔が真っ赤になって、怒りはどこかへ飛んでってしまいました。


「さあエレンさん。部屋を教えてください」


「は、はいっっ。三〇二ですっっ」


 マスクの下のルースヴェンさんの瞳は澄んでとてもキレイ……


 などと見とれていた次の瞬間、身体にものすごいG(重力加速度)がかかり、私は気絶するかと思いました。

 そして気がつけば、目の前には私の自宅、三〇二号室!


 私はかなり頭がクラクラして、とてもしんどくなってしまったのですが、今起こった現象に少し興奮していました。


 今の、よく映画で観る吸血鬼のめっちゃ速いヤツじゃない~~~~~~~~~~っっ? あれ、本当に吸血鬼の能力であるんだあああああああ~~~~~~~~~~~~!


 しかし興奮している場合ではありません。

 何せ目の前に警官が二人、三〇二号室の玄関の前に立っていたのです。


 ゲゲゲっっ!


 しかしそこはルースヴェンさんの催眠術で解決です。

 二人はブツブツ言いながら部屋を後にしました。

 これで部屋の中に入れます。

 が、疑問も浮かびました。


「ル、ルースヴェンさんっっ。変じゃないですか? 玄関前に二人警官が立っているの……」


「はい、私もそう思いました。中に二人がいるのなら、ここに警官が立っているのは不自然なのではと……」


 そこでルースヴェンさんは私を優しく玄関前に降ろすと、二人の警官のところへ一瞬で移動しました。

 そしてしばらく話を聞くと、また一瞬で私の目の前に。


「一〇三号室だそうです」


 そういう訳でまた一階に移動です。

 でも今度は普通に歩いて移動しました。

 だって高速移動は頭がクラクラしてしまいますから。


 こうして一〇三号室の前まできた私とルースヴェンさん。

 今度こそグスタフとセブリーヌの二人と勝負です!!


 そう私が意気込んだ時、一〇三号室の玄関がゆっくりと開き、中からセブリーヌが顔を出したのです。


「え! 警察にもう行ってきたの? あ! それと、え~……と……、私を助けてくれた人!」


 私は驚いて、つい一歩下がってしまいました。それをルースヴェンさんが両肩に手を添えて止めてくれました。


 本当はここで「グスタフもいるんでしょ! キスしてるとこ見たんだから!」とブチ切れモードで行く予定だったのですが、セブリーヌがいきなり出てきたおどろきと、あまりにセブリーヌが平常心に見えるどころかルースヴェンさんの顔を見て、また会えた喜びでいっぱいの様子。

 私は完全にタイミングを逃してしまいました。


「ほらほら、二人とも中に入って。あ、グスタフもいるわよ」


 私はまた唖然としました。自分から私の夫グスタフの名前を出したのです。


「あ、ありがと……中に入るね」


 私は動揺しながら中に入りかけました。しかしルースヴェンさんは何かを警戒している様子。

 無理もありません。あまりにも不自然なシチュエーションなのですから。


「ルースヴェンさん?」


「いえ……いいでしょう。まいりましょう」


 こうしてルースヴェンさんも一〇三号室へ足を踏み入れました。


 その時、私を部屋の奥へ向かわしたセブリーヌは「ピタっ」とルースヴェンさんの左横に寄り添い、自分の右手を絡め始めたのです。


 何かムカつく。


「ル、ルースヴェンさんでしたっけ? 去年の御礼をまだしてませんでしたわ」


 笑顔のセブリーヌとは対照的に無表情のルースヴェンさん。


「何を企んでいるんです?」


「あら、私は何も企んでなんかいませんわ♪」


 何か不穏な二人の会話に、私の足は止まりました。

 その時でした。


 ビシャ!


「っっ!」


 セブリーヌがルースヴェンさんの顔を何か液体をかけたんです! ルースヴェンさんは慌ててセブリーヌの手を振り解き、顔を拭こうと仮面に手をかけました。

 その時でした!


「吸血鬼覚悟ーーーーーーーーーーーーー!」


 グスタフが部屋の奥から杭らしき物を持って私を押しのけ、ルースヴェンさんに突進! 思いっきり体当たりをしたのです!

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