第14話 23:03

 チビでデブなグスタフに体当たりをされたルースヴェンさんは一〇三号室のドアの外に吹っ飛ばされました。


 顔の液体に苦しんでいるルースヴェンさんの身体には杭が刺さっています!


「ルースヴェンさんっっ!」


 私は慌てて玄関に向かおうとした時、


「エレンはここにいて!」


 と、セブリーヌに叫ばれ、


「貴様は手を出すでない!」


 と、グスタフにまで怒鳴られながら、玄関へ行くのを阻止されました。


 玄関へ向かった二人ですが、ルースヴェンさんは苦しみながらもすぐに立ち上がると、一瞬でその場から消えてしまいました。

 私はルースヴェンさんを追おうと玄関へ出ましたが、また二人に止められました。


「ダメ! エレン! あなたは騙されてるの!」

「いいから一回、部屋に入れ!」


 また二人に怒鳴られながら、私は部屋のリビングに強制連行されました。

 しかしグスタフの表情は、怒鳴った割には目がトロンとしています。


 そこに置いてあったのは、ウソのような吸血鬼退治の物ばかり。

 十字架にニンニク、木の杭とたぶん聖水、それが部屋の所狭しと置いてあったのです。

 でもよく見ると、どれもこれもハロウィンのパーティーグッズな気がする~……


「ど、どういう事?」


「見ての通りよ」


 セブリーヌは私にコーヒーを入れてくれながら、答えてくれました。


「エレンあのね。私達、ヴァンパイアハンターってヤツなの。聞いた事ない? 吸血鬼退治専門のハンター。よく吸血鬼映画にも出てくるけど」


「ハロウィンの日になると、魔物が活発になるからこの日は目を光らせておるんだ。そしたらまさかの余の嫁に吸血鬼がついたって情報が入ってきての。その時は焦ったわ!」


「え? え?」


 私はリビングのソファに座りながら、なぜか二人に説教をされ始めました。

 二人は机を挟んだ向かい側のソファに並んで座り、机の上に置いてあった火が妙に燃えているタバコをくわえながら、そして呆れるような仕草までしながら話を続けました。


「いい? エレン? 漆黒の馬車は吸血鬼の馬車なの。知らなかったとは思うんだけど。仲間から情報をもらった時は本当に驚いて、どうしようか悩んで、グスタフと一芝居うったの」


「いやあ~、でもいいキスだったぞ」

「キモいわハゲ!」


 二人は息ピッタリで話を進めます。私はそれを聞きながら、吸血鬼退治グッズを見ていました。

 …………聖水はちゃんと教会でお清めをされた神聖なお水って書いてある……へーー……


「いい? 吸血鬼ってねえ、女性……まあ異性ね。異性を必ず狙うんだけど、自分のモノにする為なら、どんなウソでもつくの。いい? それが吸血鬼」


「貴様が何を聞かされてたのかは知らないけど、吸血鬼の言う事を間に受けちゃあダメだ。たぶん自分の誠実なところを見せてたとは思うんだがな。貴様はそういうのに弱いだろ?」


「でもトドメが刺せなかったのは残念だわ。後ちょっとだったのに」


「余が使ったあの杭は、なぜか柔らかかった気がするが、あれはどういう事なのだ?」


 ふ~~~~~~ん…………


 セブリーヌが私の説得を始めました。


「ねえエレン。まだ日の出まで時間があるわ。協力してくれるでしょ? だって、あなたが一番あの吸血鬼の事を分かってる」


「そうだぞエレン。余やセブリーヌの言う事を貴様は聞いてればいいのだ。だからいっしょにこの部屋でヤツを倒す方法を考えよう」


「あなた達のこの不倫部屋で?」


「え?」


「それにこんなオモチャで本気でルースヴェンさんをやっつけられると思ったの?」


「ハア? オモチャ?」


「ねえ、ウソでしょ? ベリアルさんですよねえ? こんなバカなやり方するの? こっちの世界を理解しなさすぎなんじゃないですか? これはハロウィンのパーティーグッズ! オモチャ! もう信じらんないっっ! あなたはルースヴェンさんを殺したいだけなんですよね! あの人さえ殺せれば、私の生死なんてどうでもよかったんでしょ! でも、もうあなたの味方はしませんし、さっき交わした約束も破棄しますね! 私をバカにしすぎだわっっ!」


「ハア~~ッッ! 余を愚弄するとは、小娘の分際でええ~~っっ!」


 グスタフに入っていたベリアルが怒りに任せて立ち上がりました。


 ジャーーーーーーーーーーーーーーーー。


 私はそんな事は気にせずに、手に持ったコーヒーを思いっきり灰皿のタバコにかけてやりました。

 セブリーヌの顔は一気に青ざめていきました。

 そしてグスタフの表情が変わっていったのです。


「な、な、なんでここにいるんだ? エレン! お、おまえっっ! え?」


「ねえグスタフ、セブリーヌ。あなた達、ここで不倫してたんでしょ? よくもこんな茶番言えるわねっっ!」


「な! え!」

「ち、違うわエレン! 聞いてっっ!」


「ううん、聞かない。そんなパーティーグッズで私が騙せると思ったの? すぐそこのディスカウントショップで売ってたヤツじゃない! 私、魔界にまで連れて行かれたのよ? ヴァンパイアハンターとか何とか言ってたけど、そもそもいつからこの部屋借りてたのよ! 私、何にも聞かされてないわよ! 浮気された事にも頭から来るけど、同じマンション内で借りるなんて、信じらんないっ! グスタフ! 今まであなたの言う事、全部聞いてきたけど、ぜーーーーーーーんぶ間違いだったわ! あなたの言う事なんて聞かなきゃよかった! 私、喜んで離婚しますから、この人と楽しく暮らしてください! セブリーヌ! 親友だと思ってたのに、もうガッカリだわ! じゃね」


 慌てふためいた二人を部屋に置いて、私はルースヴェンさんを探しに廊下へ出たのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る